第116話


後発隊の皆さんは知っている内容でしたが、『報告会』ということで全員が食堂に集まっていました。


「私が最初に気になったのは、『結界のきわにある田畑まで火球で燃やされた』という所です」


「それの何処がおかしいのですか?」


「火球を『結界の外』から飛ばした時に、『境界に作られた壁を破壊もせずに田畑だけを焼く』なんて出来ると思いますか?」


そう聞くと、先発隊だった皆さんは様々な物を壁や田畑に見立てて確認し始めました。ですが、上手くいきません。


「『出来ない』。それが、私が導き出した答えです。結界の内側から焼かれたと仮定しましょう。では、何故『田畑だけ』が狙われたのでしょう」


私の言葉に、今度は顔を見合わせたり考えたりしています。


「私は屍食鬼グール屍食鬼グーラのように、田畑の作物を食さない魔物が入り込んだと思いました」


屍食鬼は、オスを『グール』。メスを『グーラ』と言います。何方どちらしかばねを主食とします。そして・・・『人間に化ける』のです。いえ。『生前の姿に戻る』という方が合っているでしょうか。ただし、戻るのは姿だけです。屍食鬼は屍食鬼のままです。人間と同じものでも食べるようです。そのため、スープを出してみました。これなら屍食鬼でも特に負担がないため拒否しないと思ったのです。

屍食鬼は日本でいう『餓鬼ガキ』にあたります。色々な説がありますが『餓死した人間の死後の姿』と言われています。屍食鬼も同じです。そのため、食には貪欲なのです。


「エアさんは最初はじめから屍食鬼だと予測していたのですか?」


サリーさんの問いに私は左右に首を振りました。


「いいえ。私は『可能性を集めて取捨選択していった』だけです。その上で導き出した答えが『グールやグーラ』だっただけです」


「エアちゃん。可能性って?『田畑の作物を食さない』以外に何かあるの?」


「・・・皆さん。ちゃんと『目にしてきた』でしょう?」


「何かあったか?」


「特に・・・。お前は?」


「いや。オレも心当たりがない」


皆さん、答えを言っているのに気付かないようです。


「おい。お前ら。さっきから何を言ってるんだ」


「何って。オレたちは何か気付いたことがなかったかを話し合ってるだけで・・・」


呆れた声でアルマンさんが皆さんに声をかけました。ですが、誰ひとり『分かっていない』ようです。そのため、アルマンさんはさらに深いため息を吐いてしまいました。


「皆さん。さっきから答えを言っているんですよ?」


「ダメだ。此奴コイツらに分かるように説明してやってくれるか?」


何度目かのため息を吐くアルマンさんに頷くと、周りを見渡しました。


「こうやって、皆さんと変わらない『人間の姿になれる』ことが大前提です。だからこそ、誰ひとり『魔物に気付かなかった』のですよね?」


私の言葉に、先発隊の皆さんはざわめきました。これは後発隊に説明した時も同様でした。

種類は少ないですが『人間の姿になれる魔物』はいます。その両方の可能性を調べた結果、その何方にも当てまったのが『屍食鬼』だけだったのです。


「あ・・・。ダメだ。エアさんって、貴石の調査もコツコツやってるんだっけ。俺たちみたいに大雑把じゃ、頭がついていけないのもよく分かる」


「エアさんには俺たちのパーティの参謀になってもらおう」


「あ・・・。考えることを放棄した」


「あ・・・。『ヒトか?ぐうたらそくやる気な』が誕生した」


「あ・・・・・・。退化した」


私の言葉にアルマンさんがノって、それにユーシスくんまで同じように呟きました。とたんに食堂内は爆笑。


「そうだなあ・・・。退化して考えることが出来なくなった『お荷物』は捨てるか」


「捨てずに『魔物の撒き餌さいりよう』にしよう」


「それまで地面に落として雪で埋めて保存します?」


「でた!エアさんの『落とし穴』!」


「今回は落とさなくても大丈夫よ。自分から入ってくれるから」


「シシィたいちょー!」


「あら?考えるのを止めたんだから『言われた通りに行動する』んでしょ?ってことは、エアちゃんが作った穴に入るように言ったら大人しく入って・・・」


「勝手に雪が降って埋めてくれるってわけ」


「「ねえー」」と楽しそうに笑うアンジーさんとシシィさん。


「シシィたいちょー!」

「アンジーたいちょー!」


二人の隊だった人たちは、何時もこんな風に揶揄わあそばれていたのでしょう。






閑話休題それはさておき


「皆さん。個人宅で被害は出ていましたか?」


「いや・・・。それはなかった」


「では・・・。ギルドなどの壊れた施設から、ご遺体は?」


「いえ。見つかりませんでした」


「それをエリーさんは『人的被害はなかった』と」


「・・・言ったわね」


「我々もそう思いました」


「疑いもしませんでした」


「『その他の可能性』すら考えませんでした」


「それ以前に『それ以外の可能性』があるとは思いもしませんでした」


・・・。そう堂々と胸を張って言われると困ります。


「貴方たち。明日から『教育的指導』ね」


フィシスさんの宣言に「えー!」と不平不満を口にしましたが「じゃあ『生き埋め』」とエリーさんに言われるとピタリと黙りました。




「エアちゃん。話を進めて」


「えっと・・・。まずエリーさんとキッカさんには話しましたが。『ゴブリンの棲息地に一番近い村なのに、守備隊だけでも24時間で警戒していない』ってありえますか?ゴブリンは薄暗い洞窟で生活するので『夜目が効く』んですよね」


「逆に、日中は薄暗い森の中で活動するが、明るい場所には出てこな・・・い?」


エリーさんは言っていて気付いたようです。

アクアとマリンに会った時は『森の中』にいましたが、女冒険者たちを追いかけていったため『森の外』に出ました。ですが、ルーフォートからの帰りにいたホブゴブリンは『森から離れた草原』にいました。いくら移動する種族ホブゴブリンとはいえ、移動するのは森の中です。


「・・・エアちゃん。『ゴブリンはどの種族でも曇天や夜しか行動しない』と言われているわ」


「ルーフォートから帰る時に出たホブゴブリンは?」


エリーさんと私の会話に誰もが驚きの声をあげました。


「あの時、太陽は出てたぞ」


雷雲かみなりぐもが遠くに出てた。しかし、あの場所は『エアさんが一時的に降らした雨で薄い雲が出来ていた』だけで・・・。それ以前は晴れていた」


「晴れていたのに・・・ホブゴブリンがフィールドにいた」


「オレたち一緒にいたのに」


「それは私もよ」


あの時一緒にいた人たちが深く落ち込んでしまいました。エリーさんも辛そうに俯いています。


「じゃあ、エアちゃん。その時からゴブリンの異常行動が起きていたということ?」


フィシスさんの質問に私は何も返さず、エリーさんを見ました。これはエリーさんが決めることです。


「私がいいと言うまで、誰にも何も言わないで。これは混乱を引き起こしてしまうから」


「キッカさんやアルマンさんもですか?」


「ええ。フィシスたちにもよ」


そう約束したのです。

私が黙ったままエリーさんを見ているため、全員の視線もエリーさんに集中します。ですがエリーさんは唇を噛んで黙っています。


「・・・・・・エリーさん。『ホブゴブリンの話』だけ、皆さんに話してもいいですか?」


エリーさんは『オークの話』をしたくないのでしょう。今は『ホブゴブリンの話』だけでいいでしょう。


そんな私の思いに気付いたのでしょう。エリーさんは消え入りそうなくらい小さな声で「エアちゃん・・・。お願い」とだけ言いました。

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