第115話


お昼にエリーさんから連絡が来ました。


『夕方には帰る』


これだけです。後発隊から話を聞いていたのかもしれません。


「もしかして、エリーのヤツ怒ってないか?」


「しかし、相手はエアちゃんだぜ。たぶんエリーは自分に怒ってるんじゃないか?」


「それはありえるな」



・・・エリーさんに叱られるのを覚悟しておきましょう。





『エアさん。帰りました。食堂に来て貰えますか?』


キッカさんからチャットが届いたのは、15時30分になる前。ちょうど休憩のため調合室から出た所でした。


『お帰りなさい。30分後に行きます』


そう返事をして休憩室に入ると、衝撃と共に拘束されてしまいました。視界の端に、困った表情のキッカさんがいます。そして・・・。


「エアちゃん!ゴメンね。ゴメンね」


私を抱きしめて謝り続けているエリーさん。謝られることはないと思うのですが。


「エリー。エアさんが困っています」


私が戸惑っているとキッカさんがエリーさんに注意をしてくれて、やっと離してくれました。


「エリーさん。何故謝るのです?」


「だって。『村に魔物が入り込んでる』なんて気付かなくて・・・」


「それは『現場にいた』からでしょう?」


「だからよ!おかしいなんて・・・」


「エリーさんたちは『救助隊』なんです。だから『第三者の目』で判断するために現場の記録を送ってもらったんです」


「そのおかげで、後発隊に様々な物を持たせられたんですね」


キッカさんが納得したように頷いています。


「でも・・・エアちゃん。アルマンに事情を話したのに、私やキッカには教えてくれなかったわ」


「ああ。あれですか?エリーさんとキッカさんでは『効果がないと判断した』からですよ」


エリーさんとキッカさんは、冒険者の中でも有名人です。上級冒険者としても。『王都周辺の魔物を退治して王都を守った英雄』としても。その情報は国内外に広がっています。国外から来る行商人から聞きました。さらに、当時王都に留まっていた人たちが各地で話を広げているそうです。


「上級冒険者で有名なエリーと、聖女様に認められた上級冒険者のキッカと彼のパーティが、ダンジョンにひそんだアントの群れを全滅させた。その後も王都に押し寄せる魔物の群れを斬り伏せて王都を救った」


まるで吟遊詩人が喜んで英雄譚を作り各地というより各国、各大陸にまで広げそうな話題ネタです。


「そんなお二人が『その場から離れている』時に温かいスープが差し出されたら?昼食抜きになった貴族たちが真っ先に飛びつくでしょう?そして完食してしまえば、誰も疑いはしません。村人だって、「暖かいスープを飲んだら元気が出た」と言って疑いもしないでしょう?・・・でも、『村人に化けた魔物』は?」


「・・・・・・正体をあらわす」


「そのためには、俺たちが一緒にいては警戒されるということですか」


「はい。私が事情を説明して、尚且なおかつ残った皆さんを的確に指示出来ると判断したのがアルマンさんだったんです。そのため『仮説』として話をしました。実際、魔物が入り込んでいるかどうか分からなかったから」


「ゴメンね。私がちゃんと鑑定を使っていれば・・・」


「ダメですよ。『正体』が分かっても、どれだけの魔物が村の中に入り込んでいるか分からないのですから」


「・・・そうですね。エリーでは、その場で見つけたらすぐに攻撃していたでしょう。そうなったら、最悪、村人たちが皆殺しにされていました」


「もしくは、戦えない貴族や村人を巻き込んで戦闘が起きていました」


「・・・貴族なんかどうなってもいいけど、村人を巻き込んだ戦闘はしたくないわ」


「腐っても『お貴族さま』ですからね。村人を犠牲にしてでも助かろうとしたでしょうね」


「・・・エアさん、当たりです。戦闘が始まった時に村人を押し退けて逃げ出した貴族がいたそうです。フィシス隊長たちが乗ってきた馬車に逃げ込んだそうですが」


その貴族たちは、村中に魔導具を設置する仕事を『自主的』に手伝わされたそうです。


「馬車を強奪しようとしたのと、職務放棄の現行犯でミリィ隊長たちに取り押さえられました」


「乗って行ったのは『冒険者パーティ所有みなさんの馬車』ですよね?ってことは『不敬罪になった』ってことですか」


「はい。そうです。・・・エリー。エアさんに抱きつかないで下さい。エアさん。そろそろ食堂に移って貰えますか?先発隊も詳しく聞きたくて食堂で待っています」


「分かりました。・・・ってエリーさん?」


エリーさんが抱きついたまま離れてくれません。そのため、食堂に行けません。


「エアちゃん。さっき、何故『30分後』なんて言ったの?・・・私と会いたくなかった?」


「・・・疲れたから何か食べるか飲むかその両方か。休憩したかった」


エリーさんの言葉をマネたら、キョトンとしてから「それだけ?」と聞かれました。


「だって、午前はずっと錬金室に入ってて。お昼からは調合室。・・・だから疲れたの」


「それをエリーが座らせもせず休ませもしなかった、と。・・・ミリィ隊長に知られたら、確実に『敵認定』されますね」


キッカさんの言葉に、さらに私を抱きしめてくるエリーさん。


「皆さんに説明する時、何か飲みながらでもいいですか?」


「ええ。もちろんよ」


「じゃあ行きますか。あまり遅くなると、早くエアさんに会いたがっている隊長たちに恨まれますよ」


「そ、そうね。じゃあ、エアちゃん。話を聞かせてね」


「はい。分かりました」


・・・何処から話しましょう。やっぱり送られた記録をチェックした時に気になったことがあったので、フィシスさんに確認したところからでしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る