第五章
第98話
雪が降り始めた日。それをこの世界では『冬のはじまりの日』というそうです。
雪は翌日の朝には50センチほどの高さにまで積もりました。屋根と王都内の道路に敷き詰められているレンガには、雪が積もらないよう弱い火魔法が掛けられています。おかげで、宿から移動するのも困ることはありません。
「お姉ちゃん。時々遊びに行くね」
「ええ。でもちゃんと勉強するのよ」
「はーい」
マーレンくんはアクアとマリンの二人の『良い手本』になれるよう、勉強を頑張るようになりました。ユーシスくんは冬の間、パパさんの指導で簡単な料理から覚えるようです。
「毎年、なんとか冬を越せるだけの蓄えしかなかったから、せっかくの休みでも料理を教えられなかった。今年は色々と忙しくも充実した日々を送ることが出来た。そして様々な蓄えも出来、この冬はユーシスに料理を教えられるようになった。すべてアンタのおかげだ。ありがとう」
パパさんにはそうお礼を言われて頭を下げられました。
だからこそ、居酒屋の喧騒に飲まれず常連客を大事に出来る食堂が
そして商人ギルドから喫茶店を委託されても食堂は辞めず、食堂と喫茶店を完全に分離して常連客を変わらず大切にしてきたため、客離れも起きなかったそうです。
『ジェフェール』で私に絡んだピンク髪の男性店員が言った「たいしたことのない店」。それは商業区域の端にあることへの『見下し評価』だったようです。
ちなみにあの人は一度も喫茶店に行ったことがなかったそうです。
・・・では、なぜ私が店にいたのか言い当てられたのか。
それは、店に来た人たちが、「あの『エア・ズ・カフェ』で接客していた女性が来てる」と話していたのを聞いたからだそうです。ですが、キッカさんが同行していたため、以前キッカさんから「俺が作ったスイーツの叩き売りを買ったのが知り合いだった。さらに、俺がジェフェールと関係しているのも、レジのちょっとした会話だけでバレた」と聞いていたそうです。その相手が冒険者で名前は『エア』。それだけで十分『エア・ズ・カフェ』の関係者だと分かったそうです。だからこそ「店に欲しい」という希望は
しかし、そこで勝手に飛び出て『やらかした』のがピンク髪の店員。あれだけ偉そうに言っていたから、オーナーさんの関係者か何かだと思っていたけど・・・。ただの店員だったそうです。
「人気があるならジェフェールと同じ中央にあるはずだ!」
「別の言い方をするなら『中央になくても十分客を呼び込める』と言うことではないですか?」
守備隊詰め所でアンジーさんに言われて何も言い返せなかったようです。
「実際、行列になっています。貴方は一度も行ったことがないのですか?それでよく批判出来ましたね」
「なんで、あんな店なんかに!」
「残念ですね。貴方以外の方々は最低でも一度は行ったことがあるそうです。さらに、休みの度に行っている方もいるそうですよ」
スイーツ専門店のジェフェールと軽食も出す喫茶店を比べること自体間違いだと言われて、泣いて謝っていたそうです。
「ご家族皆さんで遊びに来て下さい。泊まって頂けると、アクアとマリンも喜びます」
「オルガたち料理班も料理の議論が出来て喜ぶでしょう」
私を迎えに来たネルトさんとフォーグさんが、パパさんとママさんをアジトへ招待しています。冬の間は家に
オルガさんとソレスさんは、手が空いている時にパパさんの喫茶店の厨房で手伝いをするようになりました。パーティの中で、私のレシピに興味を持って料理担当を選ぶ人たちが出てきました。ボンドさんがパーティの中で料理担当を引き受けて長いということで、新人希望者たちを教育しています。全員いる時は50人前。内二人は子供。プラスで私とエリーさん。さらに追加でミリィさんたち四人。パーティの皆さんは大食いのため、一般人の倍の量を食べます。それを毎日三食。そして夕食後の『
その事実を突きつけられて、大変な仕事だと気付いた半数が断念しました。残り半数が、調理指導を受けています。しかし、指導をうけているだけで、まだ料理をさせてもらえません。しかし、残った15人は本当に料理が好きなようで、皮むきや皿洗い、配膳などを楽しんでいます。
「お互いの料理を知り、取り入れられることは身につけたい」
オルガさんがそう希望したそうです。
オルガさんとソレスさんは喫茶店の厨房しか手伝っていないため、食堂の料理に興味があるそうです。逆にパパさんも「冒険者の料理を知りたい」そうです。特にオルガさんたちは、守備隊出身者です。そのため、守備隊でどんな料理が作られているのかも興味があるそうです。
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