第54話


エリーさんとキッカさんの会話を聞いた夜。私は『私の空間』で亡くした人たちの名を叫び、声を張り上げて泣き続けた。泣いて泣いて。気付いたら砂浜に突っ伏して眠っていました。場所は砂浜。海に足をけていると、寄せては返す波に足元の砂がさらわれていく。


「知ってるか?波はなぁ。『悲しみ』を連れ去って、『幸せ』を運んでくれるんだぞ。だから、悲しくて苦しくて。立ち上がれないくらい心が疲れることがあったら、裸足になって砂浜に立ってみろよ。顔を上げて、一歩前に進む勇気を分けてくれるぞ。このお兄ちゃんがいうんだから間違いない!」


あれは、元気だったお祖母ちゃんが事故で亡くなって、お葬式が終わったあとだった。『厄落とし』の精進料理を食べている時に、親戚も家族もみんなが笑っていた。


「ほら。笑って笑って。いつまでも泣いているとお祖母ちゃんが心配して『あの世』へ行けないわよ」


そう言ったのは誰だったか。小さかったから覚えていない。ただ、悲しくて・・・部屋を飛び出したことは覚えている。気が付いた時には、お兄ちゃんと手を繋いで砂浜の上に並んで立っていた。裸足になった足をくすぐる波と、それにあわせて足の裏から失われていく砂。波が寄せる時に足の甲に砂が乗せられ、返す時にその砂を優しく連れ去って行く。それはまるで『儀式』のようだった。お兄ちゃんの言った通り『前に進む勇気を分けてくれる』ように・・・・・・。






塩と砂だらけになった全身をお風呂で洗い流し、ベッドの中に潜り込んで眠った。それこそ何日も。今まで気付かずに溜め込んでいた『心の疲れ』を癒すかのように。

目覚めても、不思議と空腹感は感じなかった。逆にスッキリとした。清々しい目覚めだった。


「おはよう。みんな」


サイドテーブルに置いてある、家族の写真を手に取る。初めの頃は見るだけで辛かった、家族の笑顔。でも、私はそれを見ても悲しくなくなった。逆に笑顔になれる。勇気が持てる。


「よーし!」


家族の写真をサイドテーブルの上に戻し、窓のカーテンを大きく開く。明るく優しい日差しが寝室に差し込む。


「今日は久しぶりに料理を作ろっと」


少しずつ、少しずつ。でも一歩ずつ。確実に。

前に進んでいこう。

そしてまた、気持ちの整理が出来なくなったら・・・。その時はまた砂浜で気が済むまで叫んで泣こう。


「その時は、お兄ちゃん。また助けてね」


『おう。お兄ちゃんにまっかせなさい!』



写真の中にいる笑顔のお兄ちゃんに声を掛けると、何時もの、お兄ちゃんの言葉が脳裏をよぎり、思わず頬が緩んでいました。





アッジをたった〜きっま〜しょ。トントントン♪トントントン♪」


歌を歌いながら、まな板の上に乗せた大量の鯵を先に刻んだネギと大葉、生姜と一緒に包丁二本で叩いています。最後にゴマを混ぜて『アジのたたき』の完成。此方は食べる時に醤油を少々かけるだけ。半分だけ保存容器に入れて、すぐに収納ボックスへ。残りには味噌を追加してトントンと混ぜるように叩くと『アジのなめろう』の完成。此方も手早く容器に移して収納ボックスへ。

鮮度が落ちたら美味しくなくなりますからね。


次に出したのは、大量のイワシ。此方も包丁を二刀流に持っています。アジと違うのは、叩いて叩いて叩きまくって粘りを出すところでしょうか。其処に味噌と生姜汁、小麦粉を混ぜます。コンロに掛けていた鍋に七割まで張っただし汁が沸騰し始めたら、スプーンで掬って2本で形を整えてだし汁の中へポトリ。それを一定量繰り返し、弱火にしてから灰汁を掬います。薄い短冊切りに切った大根とニンジンを投入し、火が通ったらぶつ切りにしたネギを入れて味噌を溶き入れてかき混ぜてから火を止める。これで『イワシのつみれ汁』の完成。『しょうゆバージョンのつみれ汁』も作り、途中までの工程で『イワシのつみれ』もレシピ登録しました。

そのつみれと葉物野菜の柔らかい部分を使った胃に優しい『つみれのスープ』も登録。


次に取り出したのは大量のタラ。そして、とろろ芋。『長芋』より粘りの強さから『自然薯』。でも水っぽさがないので『大和芋』でしょうか。それを皮を剥いてひと口大に切って酢水に漬ける。大きめのすり鉢に、細かく刻んだタラを入れてすりこぎでっていく。酢水に10分ほど漬けた大和芋をすり鉢に投入してさらに擂ってから卵白を入れて再び擂る。最後に塩を加えて念入りに擂り潰す。15分近く擂ってから裏ごし。これでタネの出来上がり。アルミで出来た型の内側に料理用シートを貼り、擂りまくったタネを流し込んでいく。表面を平らにして、たっぷりのお湯を沸かした鍋に静かに入れる。少しするとシートごと浮いてくるので、沈んでいる型を回収して、浮いたものはフライパン返しを使って慎重に裏返す。そっとシートを外して10分茹でたら、キッチンペーパーを乗せたザルに置いて水気を取りつつ冷ますと『はんぺん』の出来上がり。

ちなみに、長方形の板にタネを半円を描くように乗せて、最後に食用花を茹でて作った食紅をタネに混ぜてピンク色にして外側に乗せていく。それを蒸し器に入れて、約10分蒸したら『かまぼこ』の出来上がり。


本日の料理は『ひとつの作り方で二度美味しい』というテーマでお送りしています。

・・・冗談です。偶然です。

すり鉢を出したので、大和芋を摺ってだし汁を加えて『とろろ汁』。麦飯があるので、丼にかけて『麦とろ』。白飯にかけて『とろろめし』。

ネギと卵、しょうゆ少々を入れて混ぜたらステーキ皿に入れて火にかけて『とろろステーキ』。お好みで、かつお節を上からおかけくださいな。


この世界にも蒸し器はあるけど、日本で使っていた『縦長タイプ』ではなかったので、作ってもらいました。ちなみに『燻製』を作るのにも重宝しています。

この世界の豚は食べているのが違うのか、根本的に違うのか。腸は食用には向いていません。そのため、タネを作って魔力を通して形を固定させて作りました。『ウインナー』と『フランクフルト』を。ハーブやレモンなども作っています。そしてタラを使った『魚肉ソーセージ』も作りました。これらはすべて、ポンタくんに依頼して職人さんの工房で作ってもらっています。




あのあと、『カキフライ』と『アジフライ』に『エビフライ』。そして『ロールキャベツ』と『ほうれん草の胡麻和え』も作り、今は入浴中です。揚げ物をするとやっぱり魔法だけでは髪についた油やニオイが気になるので・・・。



「そろそろ作れるかなぁ」


ついでに、下準備中の『時間潰し』の意味もあります。

すでに夕方。流石にすり鉢を使いすぎて腕が疲れました。

うん。このあとジャムを作ろうと思ったけど、入浴したら眠くて眠くて。ずっとダラダラしてたからかな?疲れてしまいました。

時間はまだまだ十分あります。

収納ボックスにしまって、明日作りましょう。


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