第三章

第47話


王都から乗合馬車で8時間かけてやってきた『ルーフォート』。この町の周辺にも『迷宮ダンジョン』と『洞窟』の両方があります。王都ではダンジョンしか入っていないので、洞窟に興味があります。

・・・そう言ったら、エリーさんに「ああ。エアちゃんは知らなかったっけ」と言われました。

『水の迷宮』は『迷宮』と付いているけど、実際は『洞窟』なのだそうです。元々は名前の通りに『迷宮』だったのが、何時の間にか『洞窟』となっていたそうです。


「それって・・・」


「たぶん、『アクアとマリンの父親』が関わってるでしょうね。自分の住みやすい形に『作り変えた』んでしょう」


「・・・ホント、迷惑な聖霊ですね」


「エアちゃんが言うと『重み』があるわ」


「人に手を出すし、結果母親を死なせているし、神霊界に戻るのに子供二人を『魔物溢れるフィールド』に放り出していくし、せめて戦い方を教えていれば良いものを『魔物の倒し方』すら教えていないんだから・・・」


「母親の件は、水の聖霊自体が『知らなかった』というか」


「『知らなかった』では済みませんよ。責任が持てないなんて無責任すぎます」


「まあね。エアちゃんが見つけなければ、あの子たちは女性冒険者たちと一緒にゴブリンに殺されていたわね」


今のアクアとマリンは、一撃でクマが倒せるほど強いそうです。それでもまだ幼いため、魔物に向かって無邪気に飛び込んでいき、遊び半分で倒しているようです。

ですが『新しい町』へ行くのに子連れではちょっと・・・。どんなタイプの人たちがいるか分かりません。王都でも呪いとか平気で掛けるバカもいたし、子どもにどんな手を使ってくるかも分かりません。

特に今は冒険者数が減っています。そのため、冒険者に依頼を押し付けようとする不届き者も増えているようです。


私がこのルーフォートに到着した当日、些細なトラブルがいくつも起きました。

この近辺の魔物の情報を得ようと冒険者ギルドに行った時、受付嬢から『ルーフォート専属』になるように言われました。そうでないと魔物の情報は教えないとのことでした。それを断ったら、今度は依頼を受けるよう強制されました。もちろん拒否したら、今度は「冒険者ギルドの使用を禁ずる」と言ってきたので、エリーさんに『報告』しました。その時にアミュレットが自動で鑑定した受付嬢のステータスもセリフも、記録レコーディングで残しました。


このアミュレットはポンタくん特製で、鑑定は自動で行ってくれます。

そして、記録レコーディングという、表示されたステータスや『見ている風景』を『スクショやカメラのように記録に残す』ことが出来たり、会話も『録音が可能』です。

魔法もありますが、このアミュレットに含まれた記録は『トラブルを感知したら過去に戻って自動で記録』してくれます。まるでドラレコ機能のようだと思いましたが、これが大変有効なんです!それまで使っていたのは『魔法』でした。つまり『発動前』・・・トラブル発生時点の記録が出来ないのです。

さらに魔物の情報も写真で残せます。上位魔物が現れたりすれば、『討伐後』に記録を呼び起こすことが出来るのです。

登録しなければ、10時間で自動消去されますが。


他の便利機能として、チャットやメールがステータスを開かなくても思念で打ち込みが出来るようになりました。おかげで目の前のトラブル相手に気付かれずに打ち込めます。ちなみに誤字脱字のチェックや修正、言葉の追加・削除も簡単に出来ます。その際、『漢字も表記』されるのは思念で動かしているからでしょうか?ただし、送られる文面も届く文面もすべて『ひらがな表記』ですが・・・。

メールやチャットの画面を開く時は、頭の中に相手の名前を呼びかけるだけで開きます。それに追加して、通話機能も繋ぐことができます。

『ミリィさんにメール』や『フィシスさんに通話』と呼びかけるだけです。まるでスマホに搭載されている『AI機能』に話しかけているような、懐かしい感覚です。

他にも冒険者としてだけでなく、日常でも使える様々な便利機能を詰め込んでくれました。


ポンタくんにお礼を言ったら「この程度でエアさんからの恩をお返し出来たとは思っておりません」と言われました。ちなみに、ポンタくんには『現在の所持素材リスト』を送り、必要なものがあれば何時でも『後払い』で取り引きすることになりました。追加素材を手に入れれば、ポンタくんに追加リストを送ります。それで、エリーさんと取り引き金額を決めてくれるので、虫草の時のように、急ぎで金額交渉する必要がなくなりました。


ポンタくんのフレンド詳細には『借金』という赤い表示が出ています。そこをタップすると、ポンタくんの借金額が表示されます。もちろん、ポンタくんから借金返済として送金されると借金額が減ります。・・・ポンタくんの、というか職人ギルドの借金額は一億ジルを超えています。虫草と水苔の代金が殆どです。あとは『ウサギのキバ』などの素材の代金です。


私の収納ボックスが職人ギルドの倉庫と化しているため『借金完済まで預かってもらう』『許可なき相手に売らない』という契約で毎月5,000ジルが支払われます。ちなみに『冒険者ギルドの依頼』に関しては許可をもらっています。ですが、私も素材をポンタくんのところ以外では売る気がない旨は伝えてあります。


ポンタくんには定期的に『製麺所の代理購入』を頼んでいます。職人たちの売り上げは『職人ギルドの売り上げ』になるため、ギルドの借金が減るのです。一度、店で購入したのだから、家具屋も製麺所も『フレンド(取引店)』から購入が可能ですけどね。麺類のレシピを大量に作ったら、常時『売り切れ』になってしまったのです。ちなみに製麺所の麺は、生麺と乾麺の両方があります。乾麺は私の案です。生麺を乾燥魔法で水分を飛ばした乾麺ですが『長期間の保存が可能』として人気大爆発で、製麺所が休みの時はポンタくんの本部で販売しているそうです。

ちなみにパパさんの店は、直接仕入れているそうです。厨房が隣の喫茶店の厨房と繋がったため広くなり、冷蔵庫も更に増えて大量保管も可能となりました。



この町の宿は・・・何というか『信用出来ない』感じですね。はじめて泊まった夜に、不審者が部屋のドアを『外から』開けようとしていました。残念ながら、ドアには『封印』を幾重にも掛けました。もちろん窓にも。忘れずに『不可視』の魔法も窓には掛けています。そして、部屋全体に結界も張っています。

ドアを『合い鍵』で開けようとしたのは、この宿の『女主人』です。・・・此処は『盗っ人宿』でしょうか?

嫌がらせのように、何処かのダンジョンに行って、帰って来るとこの宿に泊まるようにしています。ちなみに覗きや盗聴を目的とした魔石が隠されていますが、それを無効化する効果がポンタくんのくれたアミュレットに含まれています。

それらすべてはすでに写真や録画で撮り、フィシスさんへ報告済みです。ドアはもちろん、窓から入ろうとする人物はアミュレットの鑑定で特定済み&記録済み&報告済みです。寝てても、私の背後で起きていることでも、私を中心に24時間360度、室外の音声もすべて録画してくれるのです。寝言とイビキの録音予防に室外の音声だけを録音しています。王都には、各地の『犯罪被害』の報告を受けて調査する機関があるそうで、私はせっせと証拠を送っている状態です。


冒険者ギルドへも『薬草の依頼のみ』を受けるために足繁く通っています。他の依頼には一切興味はありません。初日に会った受付嬢は『書類整理』に回されたようですが、ギルドに行く度にすごい形相で睨んできます。

・・・その『ステキなお顔』は、記念写真として毎回撮影してはエリーさんに送っています。だって皆さんが毎回楽しみにして待っているんです。



「何時もありがとうございます」


そう言われますが、奥にいる『元・受付嬢』は今日も憎しみを込めて睨んできます。


「そう思っていない人がいますよね。今もすごい形相で睨んでいますが。やはり何方どなたからも『図々しくギルドに来るな!』なんて思われているんでしょうかねー?」


「いえ。そのようなことは御座いません」


「じゃあ、『薬草以外の依頼も受けろ!』かしら?昨日も私が泊まった宿の食堂で騒いでいたみたいですね〜。部屋まで声は届かなかったから、詳しくは知りませんけど。その話も食堂で実際に見ていた人たちから『笑い話』として聞きました」


「申し訳御座いません。よく言い聞かせておきます」


私の前にいる受付嬢以外の職員たちも、ひたすら頭を下げています。『王都冒険者ギルド』というこの国最大のギルド長から、直接この冒険者ギルドの長に抗議が届いたのです。今は『処分保留』状態のため、これ以上何か問題を起こせば、下手すれば職員全員が罰を受けることになります。だからこそ、『ひとり以外』は低姿勢なのです。



・・・残念ながら、そんな職員たちの努力は『ある人物』の登場により打ち壊されることとなったのでした。






「ああ。貴女が王都から来たという『冒険者のエア』ですか」


片眼鏡モノクルを掛けた紳士風の詐欺師を彷彿させる男性が現れて、不躾に頭のてっぺんから爪先までジロジロと見られました。初対面の相手に対し、大変失礼な奴です。

・・・声を掛けられた所まで遡って、自動で記録レコーディングが始まっていますね。


ここは冒険者ギルドです。今日も掲示板から三枚の薬草依頼書だけを選んでカウンターに持っていき、依頼品をカウンターに出して受け付けをしてもらいました。それは簡単に終わって報酬も受け取り、身分証で記録もしてもらいました。

そして、受け付けが終了するとバーカウンターの方から寄ってきた男性に声をかけられたのです。


自身の名前も名乗らないような失礼な奴を相手にする気はないので返事をしなかったら、髪の毛にチリッと静電気が走りました。これは私に『鑑定魔法を掛けようとした』のでしょう。ですが、すぐにポンタくんがくれたアミュレットの『鑑定拒否』が発動してはね返してくれたようです。だって目の前に立つ男性の目が驚きで見開いていますから。

ポンタくんが「鑑定魔法を掛けてステータスを覗き見る不届き者がいるので」と説明してくれた時に「そんな失礼なヤツがいるのか」と思ったのですが・・・。いましたね。目の前に。


「ああ。失礼。勝手に鑑定を掛けようと・・・」


「『掛けようと』ではなく『掛けて跳ね返された』ですよね。何『なかったこと』にしてるんですか?」


「あ、ええ。失礼しました」


「はい。失礼極まりないですよね。ではさようなら。ごきげんよう」


「あ!ちょっと!」


思わずといった様子で私の腕に手を伸ばして力いっぱい掴んできたので、思わず蹴り飛ばしてしまいました。腕を掴まれたのですから、正当防衛ですよね。

男性はそのまま床に二度バウンドしてからゴロゴロとボーリングの玉みたいに転がり、壁に背中を叩きつけて呻き声をあげました。脳内で『ピンを派手に吹き飛ばした音』が響いたのはイメージのせいでしょう。

同時に酒場から嘲笑う声が聞こえます。笑われているのは男性の方です。


「名も名乗らない。勝手に鑑定魔法を掛ける。相手にされないから今度は暴力で言うことをきかせる。そんな礼儀知らずの相手をする必要が私にはありません」


男性は、ようやく自分の無礼に気付いたらしく、全身の痛みを感じさせない勢いで立ち上がり「失礼しました!」と頭を下げてきました。しかし、『何に対して』の謝罪か具体的なことを口にしないため分かりません。

とりあえず頭を下げれば気が済むだろうというパフォーマンスなんでしょう。頭を下げたまま私の許しを待っているであろう男性を無視して、元・受付嬢に目を向けました。


「この男がなぜ私の『個人情報』を知っているのか。王都の方を招いて、しっかり調査して貰う必要がありそうですね」


声のトーンを少し下げて睨みつけると、職員全員が青褪めました。

職務規定違反をしたのですから、元・受付嬢には五千万ジルを支払って頂きましょう。ついでにギルドからは一億ジルの支払いも追加です。その手続きはどうやるのでしょう?エリーさんなら知っていると思うので、後でメールをして相談してみましょう。

それにしても掴まれた左腕がズキズキと痛いです・・・。きっと内出血しているのでしょう。

えーい!訴えてやるー!エリーさんたちに!



「あの・・・」


男性が話かけてきましたがスルーです。今日は近くのダンジョンに一泊二日で行くので、相手にしているヒマはありません。


「私の主人が話をしたいと邸で待っております・・・。あの!一緒に来てもらわないと私が困るんです!!」


「私は!一切!困りません!!」


ハッキリ言い切ったら、男性はポカンとした表情になりました。この男性の主人とやらは、自分の代理人の教育すら出来ていないのでしょうか?それともこれが主人の『常識』なのでしょうか?代理人の言動は『ご主人の教育の現れ』であり、『ご主人の姿見』であり、『この者のご主人はこういう人です』と示しているのです。

だいたい、『お貴族様』とやらは、此方の都合や予定なんか平気で踏みにじることが出来るとでも思っているのでしょうか?・・・思っているから代理人がこういう態度なんでしょうねぇ。


「わ、私の無作法は伏してお詫びします。ですから・・・」


「貴方が困ろうと殺されようと、そんなこと私には一切関係ありません。むしろ殺されて下さい。もちろん、無作法を詫びるのは当然です。っていうか、まだ詫びていませんよね。なんで『自分の予定を変更』してまで、『ルールもマナーも守れない、女に暴力を振るえば言うことを聞くと思い込んでいるような『暴力無礼クズ男』を雇っているあるじ』なんかに、わざわざ私から会いに行かないといけないのですか?そんな義理、私には一切ありません!だいたい、初対面の相手を邸に呼びつけずに自ら足を運べ!その時点で無礼だと分からない能無し役立たずなんかとは、今後も一切関わる気は御座いません!」


男性に真っ直ぐ向いて私が言い切ると、男性はビクリと身体を震わせて直立不動になりました。『お願いする側』の男性が慇懃無礼な態度を見せて、相手が快くついてくると思っていたのでしょうか?たぶん、私が年下で女だから、見下しての言動を繰り返してきたのでしょう。

・・・それが『主人の価値』を下げていることに気付いていないのでしょうね。

こういう相手には、『此方が上』だと分からせた方が早いでしょう。


「付き纏われて迷惑です。エンシェント男爵家の『下男』ガータン殿」


「・・・!!」


「なんですか?自分は許可なく鑑定を掛けたクセに、自分がステータスを覗かれるのは嫌なんですか?随分、身勝手ですわね」


『鑑定拒否』のアイテムでも装備しているのでしょうか?『自分のステータスを覗かれるはずはない』と自信満々で思い込んでいたようです。それでもポンタくん特製アミュレットは特級品ですからね。表示されたガータンのステータスは、スクショで記録済みです。ちなみに私の個人情報を話した元・受付嬢の名前はメルリ。ステータスには『職務規定違反:個人情報漏洩』という罪名が付いていました。此方も記録済みです。

初日にスクショを撮った時は、そんな罪名はなかったんですけどね。


「奴隷の立場で『暴行罪』と『傷害罪』に『不敬罪』。貴方のご主人とやらは『犯罪奴隷』にちても続けて雇ってくれるのですか?・・・お優しいご主人で良かったですね〜」


ガータンだけに聞こえるような小声でイヤミを含めて言ったら、身体が硬直したのでしょう。舌も動かせなくなったようで、「あ・・・いや、その・・・」としか言えません。そして、額からはダラダラと汗を流しています。思考能力自体、停止したのでしょうか?

自分の鑑定を弾かれた上、自分のステータスが読まれていたことに気付かなかった。それだけで十分、ガータンより『上』だと分かったようです。これ以上、私を止める言動は出ませんでした。



冒険者ギルドを出て、そのまま城門方面に向けて歩き出しました。このまま此処にいると、また絡まれそうで迷惑です。町の中にいても、探し回っていると思ったらゆっくり出来ません。


馬車がゆっくりと冒険者ギルドに近付いていきましたが、私は馬車を避けて通り過ぎました。御者台にいた男性が『あれ?』という表情をされたのですが、引き止められなかったのでそのまま素通りです。もちろん引き止められても無視ですが。

アミュレットが、この馬車がエンシェント家所有だと表示しています。私がギルドに来たことを伝えて、迎えの馬車を手配したのでしょう。ただ、御者は『冒険者ギルドから出てきた女性』という理由から、私に目を向けただけのようですぐに視線を前へ戻しました。


パパパーッと門を出て、そのまま予定していたダンジョンに向けて出発。通る時に身分証を水晶の上にポン。パッと緑色になればそのまま通り過ぎます。その間3秒も掛かりません。犯罪履歴に問題のない人が並んでいたら、こんなにも時間が掛からないのですね。私の前に30人近くが並んでいましたが、私が通り過ぎて城門の外に出るのに一分も掛かりませんでした。それはまるで出勤ラッシュ時の改札口のようです。

城門の外に出てすぐ、「此処をエアという冒険者が通らなかったか!」という声が聞こえましたが「そんなもん知るか!さっさと中へ戻れ!犯罪者が!!」と怒鳴られていました。そりゃあ、門番さん達は犯罪履歴の色しか確認しませんからね。

騒ぎの様子と目撃した人たちの漏れ聞こえた会話から、門兵さんたちに捕まったようですね〜。おめでとう御座います!・・・ざまぁ!!



それにしても。

ああ。そうですか。偉そうに呼び捨てですか。上から目線ですか。何様ですか。奴隷様でしたね。



そうそう。ご自身のステータスを確認していなかったのでしょう。だから、無礼を働いて、罪名が付いているのに気付かなかったのですね。私に対してでしょうか?他の相手に対してでしょうか?『暴行』『傷害』が付いています。そして『不敬罪』も。

ちなみに私が冒険者ギルドで口にしたのは、あの場で私にした行為を罪名として言っただけです。心当たりがある、というか『心当たりしかない』ため、硬直していたのでしょう。まさか本当に罪名が付いていたとは思っていなかったようです。


不敬罪について調べたら、『相手より立場が下の者が、敬意を欠いた言動を取った』時に付けられるようです。ちなみにガータンは『借金奴隷』だそうです。ステータスの称号にはそう表示されていました。

罪名を増やしてどうするのでしょう?

借金奴隷が犯罪者になったら、借金を完済してから犯罪奴隷となるのでしょうか?それとも罪の重い犯罪奴隷となって罪を償い、それから借金奴隷に戻るのでしょうか?犯罪奴隷は『無給』だそうなので、その間は借金が減らないそうです。

本当に・・・罪を重ねちゃってどうするのでしょうねぇ。



ステータスのフレンド欄を開いて『検索拒否』がONになっているのを確認しました。これが起動していれば、私が何処にいるか探されなくて済みます。

ガータンは、私を『フレンド検索』で探しても見つからなかったため、『町の外に出た』と思ったのでしょう。

さあ、安心してダンジョンに潜ってきましょう。





エリーさんに、今いる町の冒険者ギルドで個人情報を流されたことと、初日のトラブル相手だった元・受付嬢のステータスのスクショをメールで送ったら、『エアちゃん。其処で待ってて。すぐに飛んで行くから』と返事が来ました。其処って『此処』でしょうか?それとも町でしょうか?・・・まあ。町に戻るのは嫌なので、『此処』で採取をしながら待っていましょう。




「エアちゃん。見つけた!」


あれ?エリーさんの声がしました。次いで気配が『上』からだったので見上げると、エリーさんが空から降りて来て抱きしめてくれました。


「エリーさん・・・。文字通り『飛んで』来てくれたのですね」


「エアちゃんのためだもの。個人情報漏洩の件は、すぐに調査するわ。他に何か問題はなかった?」


エリーさんに聞かれて、『宿屋の問題』や『エンシェント男爵家のガータン』の話もしました。私の個人情報を買った相手であり、何のためかは不明ですが私を無理矢理連れて行こうと男爵家のエンブレムがついた馬車まで用意していたことも伝えました。エリーさんに言われて、ガータンのステータスのスクショも冒険者ギルドでの録画もすべてエリーさんに送りました。


「そう。その宿屋はフィシスから連絡を受けているけど慎重に調査した方がいいわね。それとエンシェント男爵家自体も調べるわ。なぜ、私たちのエアちゃんを邸に連れ込もうとしたのか。徹底的に調べて、少しでも不正があったら取り潰してやるからね」


「はい。お願いします」


「不正がなくても『エアちゃん誘拐事件』で取り潰してやるわ」


止めるつもりはありませんが・・・お手柔らかにお願いします。エリーさんたちが集まると、物理的に『潰しそう』で心配です。心配と言っても、エリーさんたちが崩壊させた建物のガレキで怪我しないかという意味です。



「それから。エアちゃん。ひとつ聞いていい?」


「・・・?なんですか?」


何を聞かれるのだろう?そう思ってエリーさんを見ていたら「それ、どうしたの?」と左腕を指差されました。ガータンに掴まれて痛みを感じた場所です。

エリーさんの話だと、私のステータスの状態異常に『左上腕部負傷』と出ているそうです。そして、患部がぽわっと黄色く光っているそうです。重傷だと赤く光るそうです。鑑定だと、そこまで詳しく分かってしまうようです。


冒険者ギルド内で起きた事を話すと、エリーさんの表情が『いかり』を含み、「そう。エアちゃんに暴力を奮ってケガを負わせたのね。そう。いい根性してるわ。今回は、ミリィに任せず私自身の手で葬ってやるわ」と呟いています。


「その場では痛かったけど、すぐに痛みを感じなくなったから忘れてました。絡まれたくないから、急いで町を出たかったですし」


「もう。エアちゃんったら」


自分の左腕に回復魔法を掛けると、エリーさんが「これで大丈夫ね」と微笑んでくれました。


「これからどうするの?」


「この先にあるダンジョンに一泊二日で入ってくる予定だったんですが・・・。明日帰ったらまた問題に巻き込まれそうなので、それ以外のダンジョンにも続けて入ってこようと思っています」


「そうだね。冒険者ギルドの方も、取り調べで業務を縮小するだろうし。大体のことが片付いたらエアちゃんに連絡するわ。それから帰ってこれば良いわよ」


「あのルーフォートって町。家族経営が多くて働く場所が少ないみたいだから、あのメルリって人、そのままギルドで働けるようにしてあげてくれませんか?そうじゃないと、『借金奴隷』しか返済方法がなくなります」


「エアちゃんは優しいね。でもそれでいいの?」


「はい。・・・まだ若い彼女を過酷な鉱山労働や娼館に送るより、あの町で家族と一緒に『やり直し』が出来たら、借金返済で苦しい生活でも乗り越えていけるんじゃないかな?って」


「・・・そうね。じゃあ、条件に『家族の見守り』を含めよう。愚かにも、再び犯罪を重ねないように」


「それでエリーさん。このこと・・・」


「分かってる。本人には絶対言わない。言うのはギルドマスターと本人の両親に、だな。協力が必要だから。エアちゃんも、それでいいかな?」


「はい。お願いします」


「じゃあ気を付けて行っておいで」


「はい。行ってきます」



これで、あのメルリという人も反省してくれたら良いのですが・・・。

あれ?『王都まで馬車で8時間』の距離にいるのに、メールしてからたった10分でエリーさんは到着しましたが、どれだけ早いスピードで飛んできたのでしょう。

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