第42話
「よお!魔物討伐ありがとよ!」
「あんなのが中まで入って来てたら、オレたちでは食い止められなかったぜ」
私たちが城門に入ると、門番さんたちに笑顔で声を掛けられました。そんな緊急事態の時は、鉄柵を下ろして鉄扉を閉めるそうです。
「「お姉ちゃ〜ん!!」」
広場に入ると、アクアとマリンが飛びついてきました。その後ろからマーレンくんとユーシスくんもついてきました。
「ユーシスくん。マーレンくん。この子たちの相手してくれてありがとう。アクア、マリン。お兄ちゃんたちに遊んでもらってお礼言った?」
「「お兄ちゃんたち、遊んでくれてありがとう!」」
「アクアくんもマリンちゃんも。また一緒に遊ぼうね」
短時間で、アクアとマリンは二人に懐いたようです。
「エアちゃん、お疲れ様。アクアとマリン。二人を預かるわね」
「ヤダ!」
「お姉ちゃんと一緒がいい!」
「アクア。マリン。二人はフィシスさんたちに、ちゃんと『お話し』して身分証を作ってもらわないと、一緒にいられないの」
「お姉ちゃん、一緒に行ってあげられないの?」
ユーシスくんが声を掛けてきたけど・・・出来ればそうしてあげたいけどね。
「冒険者ギルドで魔物の報告や手続きがあるからね。さっきの魔物の討伐にも参加したでしょ?それに、まだ身分証のないあの子たちを連れて町の中を行くことは出来ないのよ」
冒険者が
「じゃあ、お姉ちゃんが来るまで僕が一緒にいたらダメ?」
「でも、マーレンくん。おうちの手伝いがあるでしょ?」
「だけど・・・僕、この子たちを放っとけないよ」
ユーシスくんは少し考えていたけど顔を上げてマーレンくんを見ました。
「マーレンはお姉ちゃんが来るまでその子たちと一緒にいればいい。家の手伝いは僕が頑張る。でも、お姉ちゃんがその子たちの所へ行ったら戻るって約束出来る?」
「うん!お姉ちゃんが来るまで一緒にいて、お姉ちゃんが来たら帰る!」
「ちょっとユーシスくん。・・・いいの?」
「うん。ちゃんと僕がママたちに説明するから。でも、あの子たちを後で連れてきて。・・・どっちにしろ、うちの宿に泊まるんだろ?」
ユーシスくんの言葉を直訳すると、『ママたちにウソじゃないと証明するために連れてきて』ということでしょう。マーレンくんが二人についていてくれるなら、私も二人のことを気にしながらダンジョンであった事を説明する時間をなんとか短縮しようと焦ることはないでしょう。
「分かったわ。マーレンくんも二人のことお願いしてもいい?」
「うん!任せて!」
「家の方も気にしなくていい」
本当にこの子たちには色んな場面で救われています。
冒険者ギルドで、掲示板にあった治療院からの大量の薬草と水苔の採取依頼を纏めて依頼受付へ提出。『王都治療院』以外の、
「はい。確認しました。此方が薬草と水苔の報酬となります」
今回の依頼で高額だったのは水苔でした。湿疹やかぶれなどの治療に必要だそうですが、ダンジョン以外ではあまり採取出来る場所がないそうです。そのため、今回の合計額は84,295ジルのはずでした。ですが、上位種の魔物が現れたため、薬草も水苔も採取に出る人もいなければ依頼を受ける人もいません。そのため、品薄で緊急依頼になったために追加報酬があり、更に大量の『依頼達成』も加味されて92,000ジルとなりました。
・・・この依頼を出した人たち、ポンタくんの『職人ギルド』を使わなかったのでしょうか?
「此方は、他の町や村の冒険者ギルドからの依頼です。薬草や素材などのアイテムでしたら、その町のギルドでは依頼達成が難しい場合は王都で代理依頼を受けることがあるんですよ」
やっぱり・・・。職人ギルドにはポンタくん経由で直接取引してるから在庫はあるはずです。
「それでは此方へ身分証をお願いします」
端末に身分証を乗せると受付嬢の口から「あらあら」という声が漏れました。何か問題が起きたのでしょうか?
「おめでとうございます。この度、中級者ランクへの昇級が認められました」
「中級者ランク・・・ですか?」
「はい。中級者ランクはランクが100まで御座います。それと、これからは報酬が初心者ランクの1.5倍となります。また、上級者ランクになれば報酬は初心者ランクの2倍になります」
「それから、これは先程決定したのですが、王都周辺の全ダンジョンの閉鎖が決まりました」
「全部・・・ですか?」
「はい。ここ最近で立て続けに発覚した、初心者用ダンジョンの異常事態を受けて調査するためです」
「それは、どれくらいの期間ですか?」
「そうですねぇ。調査が終わっても、すぐに開放は出来ませんから。・・・早くて三ヶ月という所でしょうか」
「開放後は集中するんでしょうね」
「たぶん、そうなりますね。落ち着くまで半年は掛かるかと思います」
「王都以外のダンジョンはどうです?」
「被害の報告は特にないため、其方の閉鎖は検討されていません」
「では『冒険者』に変わりはありませんか?」
「それが・・・引退する冒険者が増えています。初心者ランクの冒険者は『怖くなった』から。中級者ランク以上は、『お金が溜まり冒険者を続ける必要がなくなった』というのが引退の理由です」
「それは王都だけですか?」
「いえ。王都だけでなく各地でも冒険者を引退する方たちが増えています」
「割合はどれくらいでしょう?」
「王都では半数。他の町や村では、所属の冒険者が全員引退した所もあります。他国へ流れた冒険者もいますね」
この世界では、冒険者と商人は閉鎖や封鎖された国境も通れるそうです。そのため、流出する冒険者を止められないようです。
冒険者ギルドのご厚意により、部屋でテントを出して、中で私服に着替えさせてもらいました。『冒険者服』を着てるだけで、周囲の興味を引いてしまうからだそうです。黒髪の冒険者の引退理由のほとんどが『女神が誉め称えたのはキミか』と言われ、否定しても付きまとわれたそうです。
「せっかく中級者ランクに昇級したのですから、このようなことで引退してほしくはないのです」
それで、私服はテント内にあると伝えたら部屋でテントを出させてもらえました。テントは部屋などの『限られたスペース』の中でも出せるそうです。結界石を置いた中でテントを出すだけ。試したら、狭い場所でも壁でも『テントの入り口』だけを出すことが可能でした。これなら、宿の部屋でもテントを出すことが可能です。
ワンピースにウエストポーチ。身軽な格好で冒険者ギルドを出た私は、『南部守備隊詰め所』へと・・・向かえませんでした。
『フィシスさーん。詰め所の場所が分かりませーん』
チャットでフィシスさんに連絡すると、『いま何処にいるの?』と連絡が来ました。
『分かんない・・・。『黒髪』ってだけで、男の人たちに追い回されました』
『エアちゃん。キッカとフレンド登録してくれる?それだけで『今の場所』が分かるから迎えに行かせるわ』
『はい。分かりました』
『冒険者』『キッカ』だけで、キッカさんが見つかったのでフレンド申請をしました。すぐに承認されて、『現在地は分かりました。近くに喫茶店があります。其処にいて下さい。迎えに行きます』とチャットが届きました。
確かに目の前に喫茶店があります。
キッカさんの指示通りに中へ入り、ウェイトレスに席へと案内されてケーキと紅茶を注文。そこで店内を見回して、すぐに此処に入るように言われた理由が分かりました。店内は女性、それも『黒髪の女性』が多くいました。
ケーキと紅茶を運んできたウェイターに話を聞くと、この店のオーナー兼マスターは黒髪で、今回の騒動が起きた時に行き場をなくした黒髪の女性を率先して招き入れたそうです。
それで、店内は黒髪の女性とその連れが席を埋めているのです。
私を追いかけていた男たちは、店内に入る許可はもらえませんでした。「待ち合わせをしている」とか、「先に入ったはずだ」などと言っていましたが・・・。
一応私にも「あの方はお連れ様でしょうか?」と聞かれましたが、私が『待ち合わせ』をしているキッカさんは黒髪です。そのため「私の待ち合わせ相手は黒髪です」と伝えました。
彼らも『黒髪の女性』を追いかけていただけで、容姿などは覚えていないようです。せめて、髪型と服の色くらいは覚えましょうよ。
とりあえず、騒いでいる姿を
ふと気付いたら、店名が『ジェフェール』でした。私がスイーツを『まとめ買い』したお店です。
「オイ!そうだコイツだ!!」
ふと気付くと、席の近くまで男の一人が近付いて来ていました。
「何方でしょう?」
「俺たちが追いかけていたのはお前だ!間違いない!」
あれ?制服の人たちが男たちを取り押さえています。その中でリーダーらしき人が私に向かって騒いでいたのです。
「これ以上
「何だ!キサマは!」
「何って。彼女は俺のツレだ」
キッカさんの言葉に固まる男性。キッカさんは男性に向けていたキツい視線から、何時もの優しい目に戻り、私の前の椅子に座りました。
「遅れてすみません」
「いえ。助かりました。ありがとうございます」
「ああ。ゆっくり食べてていいですよ」
キッカさんの言葉にあわせて、キッカさんの前に紅茶が出されました。何時の間に注文したんでしょう?
キッカさんに甘えて、ケーキセットはキッカさんが支払って下さいました。フィシスさんたちへのお土産として、ロールケーキ一本とハーフカットを一本購入しようとしたら、其方もキッカさんが払おうとしました。ですが、これは自分の買い物だったので断ったのですが、支払う時に「金ならもう貰った」と言われてしまいました。
喫茶店を出て、キッカさんに詰め所へと案内してもらいます。
「すっかりご馳走になって。すみません」
「いえ。あの店に入るよう言ったのは自分ですので支払うのは当然です」
・・・なんとなくですが。気になった事があったので聞いてみようと思います。
「あの喫茶店って、キッカさんと関係があるのですか?」
私がそう言うと、目を丸くして、口をパクパクさせました。
「・・・・・・何故それを?」
「まず、席に着いて注文していないのに紅茶が出て来たこと。その時は『席に着く前に注文したのかな?』と思いました。でも、お土産の代金を支払う時、『金ならもう貰った』って。支払ったのが客なら言い方が違うと。それも女性客相手の店でその言い方は失礼だと思って」
私の説明にキッカさんは納得してから、「誰にも言わないでくださいよ」と前置きしてから話してくれました。
あの店はキッカさんの実家で、今はお兄さんのお店だそうです。思春期の頃は実家が『スイーツの店』ということが嫌で、守備隊に入った時に宿舎に入ってからは立ち寄りもしなかったそうです。ですが、女性たちがスイーツを食べて笑顔になっている姿をみて考えを改めたそうです。
そして、一度作ったら『はまってしまった』そうで、今では時々ロールケーキやプリンなどを作成して、それを裏道側の窓で販売しているそうです。
「以前、まとめ買いしたんですよ。パウンドケーキとロールケーキとプリンです」
「そうだったんですか。売り子は『下の弟』に任せているので・・・。ですが、一度『上の弟』が売り子をした時に、販売して10分もしないで完売させたのですが」
「たぶん・・・。私が買ったのはその時じゃないでしょうか?『今ある20本全部買ったら、ロールケーキ10本とプリン20個もつける』って言われました」
「ハハハ・・・。
「パウンドケーキはフィシスさんたちと『初めて会った時』に一緒に食べました。泣いて喜んでいましたよ」
「すみません。内緒にしててもらえますか」
キッカさんは、エリーさんにも同じパーティの人たちにも内緒にしているそうです。
もちろん了承しました。だって、『手土産』という口止め料を貰っちゃいましたから。
そうおちゃらけて言ったら、キッカさんは何時もの笑顔で笑っていました。
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