13.歓迎

- まえがき -

夜のセリカ・ガルテンに戻ってきたほとりたちは、明日架とツバメに出迎えられた。


ささやかな遅い食事で、帰還のお祝いとララの歓迎会が行われた。


予言の子として明日架から全生徒に紹介されたほとりは、新たな任務を言い渡される。




#出迎え


 ゲートを抜け、洞窟を出た。セリカ・ガルテンも夜だった。


「いやー、空気がひどかった」


 ユーリが腕をいっぱいに広げて、空気を吸った。ほとりも真似た。ララも真似る。


「もう就寝の時間だな」


 欠けた月の位置を見上げてユーリが言った。ほとりも空を見上げると、二つの蝶の影が近づいてきた。


「ほとりー、おかえりー」


 明日架の声だった。明日架とツバメが迎えに来てくれた。羽を広げて現れた二人に恐れて、ララがほとりの背後に隠れた。


「ほとり、どうしたの、その格好?」


「あ、変ですよね。向こうでいろいろとあって、制服捨てられちゃって……ごめんなさい」


 明日架は、首を左右に振って、ほとりを抱きしめた。


「無事で、なにより。そして、シュメッターを連れて帰ってきてくれたんだね」


「はい。ララ・クランシーです」


 ほとりは、背後のララの肩にやさしく手をおいて紹介した。


「ララ・クランシー。ようこそ、セリカ・ガルテンへ。私は、深山明日架。私たちは、あなたを仲間として迎え入れます。よろしくね」


 ララは、こわばったまま素早く首を縦に振って、ほとりに身を寄せた。


 ほとりは、なんだか、本当の妹のように思えてきてしまった。


「急に、いろんな人が来ちゃったから、ビックリしちゃったよね。今日は、ゆっくり休んで」


「会長」


 ユーリが読んだ。


「何?」


「休みたいところなんですけど、お腹が空いていて」


 ユーリは、お腹をさすった。ほとりも、そう言われると、お腹が空いてきた。


「ユーリさん。もう夕食の時間は終わっています。食堂だって片付けられてしまって――」


 あいかわらず細い目つきのツバメに、明日架がかぶせるように言う。


「あぁ、いいよ。残り物しかないだろうけど、二人の帰還のお祝いと新しいシュメッターの小さな歓迎会をしよう」


「か、会長……」


「さ、ツバメ。準備するよ。ほとりたちは、ゆっくり来ていいから」


 明日架は、また羽を広げて飛翔する。


「ユーリさん。今回の、無断で他のウトピアクア入島規定違反で、ペナルティを受けてもらいます」


「ツバメ、今回はいいから。今まで、誰も連れてこれなかったシュメッターを助け出してきたんだから。ほら、行くよ」


 ツバメは、何か言いたいのを我慢して、ユーリからキッと視線を外して、飛び去って行った。


 ほとりは、ツバメと一度も目を合わせられなかった。ツバメが意識的に合わせてくれなかったように思えた。


「ユーリ……」


「いいって。気にしない気にしない。私が好きでやったことだし、後悔はない。さ、行こう」


 ユーリは羽を広げた。




#一夜限りの三人


 ささやかだったが、即席のお疲れ会とララの歓迎会が行われた。


 セリカ・ガルテンを一日しか離れていなかったが、ここの食事が懐かしく感じられた。


 ララにとっては、初めて食べるものばかりで、口に入れるたびに笑みをこぼして、料理を平らげていった。


 しかし、まだ子供。すぐに目がとろんとして、眠くなってしまう。


 さすがのほとりとユーリも、疲れとともに睡魔が襲ってきていた。


 片付けは、明日架とツバメに任せて自室に戻った。


 二つしかないベッド。ララは、ほとりから離れず、ほとりのベッドで一緒に眠る。


「ほとり。私、ここの部屋を出て行くよ」


 明かりを消すと、ユーリが言った。


 ララには、ほとりが必要だし、一緒にいてあげるべきだと伝えてきた。それに、三人で部屋を使うには、いろいろと狭かった。


 ほとりは、ユーリにいて欲しかったが、かといって来たばかりのララと離れてはいけないとも思っていた。


 ユーリと一緒にウトピアクアから帰ってこれたことに感謝し、これからもよろしく、とおやすみの言葉の前に伝えた。


 翌日、ユーリはもとのルームメイトのところへ戻っていった。




#ほとりの新しい仕事


 新しく支給された制服を着たほとりとララは、学舎の庭先に集められた全生徒の前で紹介された。


 ほとりは、明日架から予言の子として正式に発表された。そして、過去、生徒会で誰もなしえなかったシュメッターの救出を高く評価した。


 救出されたララは、生徒会の所属であることと、インボルク計画に必要なメンバーとも説明がつけ加えられた。


 この説明以後、予言の子としてほとりへの周囲の見方があきらかに変わった。蝶人を連れて帰ってきた逸話が広まっている。


 バックウェーブ島の理想について、論議されていることも聞いて、これはこれで良かったとほとりは思えた。


 ただ、一部で、飛べない蝶人やハンザイ者という陰口は聞かれたが、ララの面倒見としてほとりは、自分でも成長したように思え、気にすることはなかった。


 ララとは、昼間は別行動で、最初は慣れない学園生活を心配していたが、ララ本来の明るさが全面に出てきて、周りとも楽しくやれていた。


 十五回ほど月の晩を過ごしてから、ほとりは一人、生徒会室に呼ばれた。


「また、新たにシュメッターを助けに行ってきて欲しい。これは、試練ではなく、生徒会としての任務。正式にほとりに任せたい」


 明日架が言った。


「そのウトピアクアは、前回とは比べものにならないほど過酷な環境です。もちろん、過去何度も失敗している場所です」


 ツバメが補足した。


「そこは、どんな場所なんですか?」


 ほとりが聞いた。


「通称、ピラミッド島。死んだウトピアクア」


 明日架の言葉が、ほとりに重くのしかかった。



 第2章 バックウェーブ・サーカス団の蝶々 終わり

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