第623話
「…………」
月明かりに照らされた桃色に染まる木々が見える丘の上。
そこで神薙羅は娘の血に濡れたままボーッと突っ立っていた。
「…………」
なにを思考するでなく。ただ立っているだけ。
もし、今なにか考えようとすればちらついてしまうから。
いくら気を張って、無理矢理閉じ込めても顔を出してしまうから。
愛してるという気持ちを。一緒に過ごした思い出を。
だから、その気持ちの波が落ち着くまでここにいようと思ったのだけれど。
「……あーっと」
「……才さ――坊」
こっちには戻ってるのに屋敷に来ないなら迎えに来たはいいけど……これ、邪魔したかな?
なんか落ち込んでるし。血生臭いし。
こいつ、いったいなにしてきたんだよ……。
「今しばらく……一人に……してくれへん?」
声、震えてる。
それに、俺には言えないって感じか。こいつにしては珍しい。
いや、そうでもないか。俺に負担がかかるとなれば口は割らないだろうよ。俺だって聞こうとはしないし。……普段なら。
「…………」
なんだろうな。この感じ。
いつもなら踏み込まないようにするんだけど。
「あ~。なんだ。そのよ」
「…………」
「いつもだったら言わないことってのは自分でもわかるんだけどよ」
「…………」
「胸、かそうか?」
「…………っ」
あ……振り向いた。しかも、すげぇ顔。
と、おっと。
「ごめんなさい……っ。ごめんなさい……うち……」
「いいよ別に。このくらい」
血は臭いけど。でも、こいつを慰められるならまぁ……我慢ってか嗅覚閉じりゃ良いだけだしな。
「うち……大事な
って聞いてもないのに……。いや、良いけどさ。
「――だから、うち……うち……」
「そ、そうかぁ~……」
義娘とやりあってきて殺してきたとか……おんもいなぁ~……。
でも、それなら納得。
こいつは母性が強いからなぁ~……。どんな理由があったかはわからないけど。てかあるにせよ、自分の手でとか……そら落ち込むか。
……まぁ、理由も多少はわからないでもないけどさ。
この感じ、大分追い出してはいるみたいだが、御伽とか
……どっちかっていうと御伽のが近いかな。もっと嫌な臭いだが。
御伽もなんか……侵食されまくってて戻れない感じがしてしたし。それが行くところまで行って敵対……とか?
わかんないけど。大体そんなもんだろ。間違っててもどうでも良いし。その他に影響もないだろう。
それより。
「俺にできることはこんくらいだけど。本当に落ち込んでるときはいつでもかすから。いつも世話になってるわけだし、大したことでもねぇけど」
「いえ……いえ……。ありがとう……こざい……ます……」
いや本当。マジでこんなんで慰めになるならいくらでもやるよ。
……コロナがいない場所なら、な。
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