第517話
「初。ここは私が止める。とく帰れ」
「……で、でも」
「早く。長くは持たない」
最初はつまむようにしていたが、女武者の抵抗が強まるとすぐさま空いた手で柄を掴み直していた。
そうじゃなきゃ力負けすると直感したから。
((こいつ……強い……っ!))
鬼と武者。双方共に同じ感想を得たみたい。
彼女は当然ながら既に腕力は熊なんか軽く殺せるくらいになってるし。同じくらい強い女武者も人生で力で拮抗なんてはじめてだろうし。そりゃ驚くよね。
「「……………………」」
二人とも薙刀での綱引き。お互い取らせようとしない。
彼女は互角の腕力があるとわかると尚更武者から武器を奪いたいし、武者のほうもアドバンテージを捨てたくないから手を離すわけにはいかない。
でも、膠着状態が続けば体力勝負になる。腕力は互角でも体力はわからない。相手の体力が上ならば、長期戦になったとき不利になる可能性がある。
と、なれば結論は。
「……くっ。せやぁ!」
「……!」
拮抗を破ったのは女武者。
(たとえ剛力無双の化物でも、首を千切れば皆同じ。首が脆いのも皆同じ!)
動物の代表的な急所の一つ。それが首。
首を取られて生きられる動物はいないし、彼女も例に漏れない。
でもね。
「触るな!」
「んがっ!?」
顔に手が近づいた瞬間。薙刀から手を離し、身を屈めながら武者の顔面に投球のように掌を叩きつける。
馬鹿力による顔面への強烈な一撃。盛大に鼻血が吹き出る。
加えて受け身は取れておらず、後頭部は地面に叩きつけられている。
脳は揺れ、景色が歪む。
「ぁ……がは……っ」
彼女はお面をつけている。顔を隠すためにね。彼女が過剰に反応したのは顔の近くに手が来たから。面を取られると思ったから。
女武者さんの失敗はね。数千年誰にも晒していない顔。それを守る意志や意地を刺激してしまったからさ。
もしも首を狙わず、お腹に蹴りでも入れてたらこんな顔にされなかったろうね。
(いけない。つい本気で叩いてしまった。息はあるようだけどこれはもう――)
「……んの……れぇ!」
「……!」
ま、多少傷をつけられたところで。血を流したところで。大した痛手じゃないんだけどね。
「侮るか鬼の頭!」
(しま……っ)
今の一撃で終わったと思ったが故の気の緩み。それを敏感に感じ取る女武者。
なめられたと思い憤るも、感情のままに殴りかかりはしない。
足を絡め、彼女は倒れてしまう。
そして女武者は立ち上がり様に――。
「あっが……!」
彼女のお腹を踏みつける。
馬鹿力と体重を乗せた踏みつけはあっさりと彼女の内臓を潰して吐血。面の隙間から血が漏れ出ていく。
「はぁ……はぁ……! この程度で終わらぬはわかれりよっ。私は手は抜かんぞ鬼ィ!」
「……!?」
女武者の様相と気配に、面の下で驚愕の表情が浮かぶ。
なぜならそれは彼女のよく知るモノだから。
自分たちと同じ、人から外れたモノだから。
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