第481話

「……隠してとは言いましたけど。そう来ます?」

 股間をピンポイントで影で隠してるってのになーんか微妙な面でみてきやがるな結嶺よ。

「なんだよ。文句あんのかよ」

「別にないですけど……。絵面が嫌ですね」

 ……ふむ。たしかに漫画みたく本来見えてるけど読者には見えない的な感じになってる気がしなくもない。

「でも、見えるよかマシだろ」

「それはそうですけど」

「いっそとっぱらってしまえ。こいつが喜ぶぞ~」

「ちょ、シッ! シーッ! 結嶺ちゃんの前ではあかん!」

 いやそこは澄まし顔しとけよ。声あげたほうがガチっぽいって……。

「……」

 ほら、結嶺もさっきより気まずそうな顔になっちまっただろうが。

 まったく。本当に仮面がないと表情からダダ漏れだなお前。

「湯船にはいっちまえば同じだろ。ここの湯、白いし」

「それはそうなんですけど……う~ん」

「余計なこと気にすんなって。色々ありすぎてナーバスになってるだけじゃねぇの?」

「……それは、そうかもですね。はい。すみません。そもそも混浴の時点でどうかしてました。非は私にあります」

 いや非はこいつらだよ絶対に。

 他に人がいるとはいえ、義理とはいえ、兄妹に混浴させんな。気まずいだろうが。

 しかも結嶺以外特に隠してないから直視することになるし。

 女の裸を普通に見る兄って図を妹に見せるというこれまた気まずい状況に……。

「まぁまぁそう立ったまんまでおらんで。つかったら? 体冷えてまうし」

「そう……だな」

 俺もコロナも別に風邪引かないけど。立ったまんまってのもアレだし。素直に入るか。

 てか、律儀にずっと俺の隣にいたんだよなコロナのヤツ。先に入ってたら良かったのに。

「ほら、コロナいってこーい」

「ん~」

 うわ~。手を離した瞬間、縦横無尽に泳ぎ回ってるわ。犬かきで。

 行儀は悪いけど、まぁカナラん家だし別に良いだろ。公共の場だとさすがに止めるけど。

「……あれ、良いんですか?」

「ん~? 元気があってええんちゃう?」

「つい最近大変な目にあっていたしな。あんなに動き回れるなら儂らも安心するってものだよ」

「おうおうよちよちロゥテシアマッマ」

 なに涙ぐんでんだよ。いやまぁお前は一番コロナの世話してたし。母性も強いからわかるんだけどさ。

 元気なのは存在うちで繋がってんだから把握できてんだろうに。

「さて、ではいでもらおうか」

「あん?」

 なんだよその差し出したお猪口。それと徳利。

「そのために一緒に入ってるんだろう?」

 いや別に。そんな給仕だか接待だかのためにはいませんけど?

 カナラのごり押しってだけだぞ。

 ……年始だし。色々と世話にはなってるから。このくらいは良いか。

「ほらよ」

「クハハ。思いの外素直にやるな?」

「いらないならやめるけど?」

「い~や。いる」

「ほら、カナラも」

「へ? じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

 ちょっと一瞬間抜け面になったけど。すぐにデレデレした顔に変わったな。ある意味安定。

 そしてその面を見て結嶺がまた微妙な顔になってる。

 ……。

「……飲むか?」

「バカ言わないでください。未成年ですよ」

 だよな。ごめん。

 ちょっとお兄ちゃんふざけちゃったよ。

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