第448話
散策……というか木の観察なんつーマニアックなことをしてたらもう十七時回ったな。そろそろ向かっても良さげ。
「そろそろ行くか?」
「あ、そやね。ふふ。さっきまで明るかったのに、坊といるとあっという間に時間過ぎるなぁ~」
九割方木見てただけなんだけど、俺関係あるかそれ?
「ほな……いきましょ」
おずおずしながら俺の小指に自分の小指を絡めてきたな。ひかえめにもほどがあんぞ。素直に手を繋げば良いのに。
「なんや……懐かしいなぁ」
「ん?」
懐かしい? ってことは前にもこんな手(指?)の繋ぎ方したことあんのかね? 割かし壁作るタイプに見えるけど。事、接触に置いては特に。
「ふふ……しぁあわせぇ~」
そらようござんすね。こんなことで幸福感得られるならコスパ最高だわ。
それからそのまままたゆっくり歩いて目的地へ向かってると、電気の着いてないイルミネーションが見えてきたな。思ったよりも早く着いちまったよ。
となるともう少し時間を潰さなきゃなんだけど~。丁度よく近くにベンチがあったし、あそこで良いかな。
向き的に日の入りも見えるし。町の景色も見下ろせるし。おあつらえむき。
「そこ座って時間潰すか」
「うん」
影で誇りやら汚れを取りつつ腰かける。それから改めてベンチから景色に目を向けると、これが中々の絶景。
よくある夕日。よくある町並み。よくあるシチュエーション。
けど、それが哀愁とか郷愁とか。ノスタルジックなのを感じさせる。
「えぇ景色やねぇ~……。日がどんどん落ちて、夜と入れ代わるこの時間。好き」
景色の物悲しさか。それとも寒さか。もしくは単にもっと欲しくなったのか。カナラが小指だけじゃなく全部の指を絡めてくる。
「昔もこうやってよう似たような景色を眺めたもんやけど。坊がいるとまた格別やわ」
「そらどうも」
指はより強く絡まって、頭をこっちに預けてくる。
珍しく積極的だな? しかもこんな急に。
「ほんに懐かしい。あの時はいつも高い場所から暗くなるの眺めて。
へぇ~。そんな相手がねぇ~。俺に対する反応からして男ってことはないだろうけど。どんな人なんだろ。
「そう……それで今みたいに肩を寄せることもあ……って……」
それはまた仲のよろしいことで。
「それ……から……毎夜必ずお相手を……」
「ん?」
ちょ~っと雲行きが怪しくなってきたな。お前まさかそっちの
……いや、それより手が冷たくなってきてる。震えもあって汗まで。
顔を見ればさっきまで少し紅潮気味だったくらいなのに今は真っ青。
おいおい。情緒不安定にもほどがあんぞ。
つーかそんなレベルじゃなく様子がおかしい。
「あ、あぁ……あぁあ……そうっ。なし……て。どうしてっ。忘れてたんやろ……。あぁああっ。
「か、カナラっ?」
完全にパニクりだして本当にわけがわかんねぇ。
突然すぎるだろ。さっきまで普通だったし。特に内部からも外部からも干渉されてるわけでもない。本当に急に、一人でに様子かおかしくなっちまったっ。
「……っ」
誰も……いない……?
ここは都心から外れてるつってもこのシーズンはそれなりに人が来るってカナラも言ってた。一定数イルミネーションを見に来る人がいるからって。
時間はたしかに少し早い。けど、もう日はほとんど沈んでいて、ちらほらイルミネーションがつきはじめてる。普通なら人が完全に空いてる今の時間帯あたりから来ようって人は大勢でないにせよ数人、数組はいるはず。
なのに、誰もいない。
俺たち以外。
誰一人として。
「嗚呼……嗚呼……申し訳ございません……。不甲斐なき
――才様
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます