第361話

「「なんだ。結局ヤらなかったのか」」

「……最初におかえりと言え」

 帰ってきて早々ヤったかどうかの確認……ってか断定されてるなこれ。

 間違っちゃないけど。そこ突っ込むのはせめて二言目にしやがれ。

 っていうか意外にもロッテが過剰に反応しないのが不思議。

 こいつもカナラに負けず劣らずのおぼこ娘かと思ったけど。

「ん? なんだ?」

「いや、お前落ち着いてんな~って思って。リリンの時もだけどさ」

「……あ~。慣れてるからな」

「慣れてる?」

 何に? 

「群れにいた頃は儂を差し置いてそこかしこで盛っていたからな。今さら」

 な~るほど~。犬だもんな。そりゃ納得。

 しかしそうか。つまりお前をうろたえさせたいならば直接行くしかないってことだな?

 ふっふっふ。迂闊だったな。わざわざ自分の弱点を教えるとは。

「お~が~え~り~……」

「ただい……ま?」

 やっとまともに迎えられたと思ったらめっちゃグロッキーな面の灰音が三白眼でにらみつけてきてる。

 グロッキーなのは恐らくコロナにホールドされてるからだろうな。

 本人まだ寝てるところを見ると一晩中こうだったんだろう。御愁傷様。

「私がこんな目にあってる間に朝帰りとはずいぶんお楽しみだったと見えるぞ我が父よ」

「お前はさっきの話聞いてなかったのか?」

 ヤらなかったって二人証言してんだろうがい。首絞められて頭に酸素回ってねぇんじゃねぇの?

 酸素必要な体の構造してないかもだけど。

「んみゅう~……。にゃーにゃー……」

「んのぉおおおお……!?」

 コロナの絞めが強くなったのか三白眼が見開かれてちょっと眼が飛び出てる。

 気を付けないと落ちるぞ~。

「ちょ、ちょ……っと……! た、助けてパパ……!」

 コロナをタップしながら血走ったギョロ眼を向けてくる。

 ふむ。助けてやらんこともないんだ~け~ど~。

「パパ呼ばわりはやめろと言ったはずだが? 故に却下」

「のぉおおおおお……!?」

 お? とうとう口から鼻から目からダラダラと液体が出始めたな。きったねぇ。

「すんすん……はむ」

「んぎょああああああああ!!?」

 体液から美味しそうな臭いがしたのかコロナが灰音の顔面にむしゃぶりつき始めおった。朝から情熱的なこって。

 それはそうとして。これはさすがにいかんね。

「おーいコロナ。ばっちぃからそんなもの舐めるんじゃない」

「ん~……? にゃーにゃー……」

「はいはい」

 灰音から離れて俺の方に抱きついてくる。

 灰音との余韻かちょっと力が強い気がするけど、許容範囲だな。

 ちょっとこいつ大袈裟過ぎただけだろうきっと。

 いや、そうに違いない。よくも謀りやがったなこの赤ん坊め。

「はぁ……はぁ……こっちの心配はないのかねぇ!? 父よ!? 齢0才にして汚されちゃった娘の心配はさぁ!?」

 うるせぇ。助けてやっただけありがたいと思え。

 ……つか、顔ベチャベチャで本当に汚ぇな。

「ロッテ。洗い物」

「ぅおおおおい!?」

 頭を掴んでポーンとロッテの方へ投げる。

 液体が飛び散らないか心配だったけど、涙とかは舐めとられてヨダレは投げた時には空中で乾き鼻水は粘着力で持ちこたえてる様子。掃除の心配はなし。

「ほっ」

 ロッテ、ノールックでキャッチ。

 しかもちゃんと手のひらに灰音のケツが納まるようにしてるあたりさすがだな。

 やっぱり犬だから投げられた物取るの上手いのかもしれない。

「はぁ! はぁ! ば、バカじゃないのか!? どこの世界に我が子でキャッチボールする親がいる!?」

 いんだろここに。

 つーか世の中には出産後ストレスが溜まると自分の子供を共食いする動物だっているんだぞ。ハムスターっていう。

 それに比べたら幾分かマシだろうよ。

「やれやれ……」

「え? ちょっと待ってろぅて――あぶぶぶぶぶぶぶ!?」

 未だ文句が言い足りないとばかりに眉を吊り上げていたのだが、ロッテが本当に食器の手洗いの如く灰音の顔面を洗い出した。

 救いがあるとすれば、洗剤や石鹸を使っていないことだろう。

 もし使っていたら……うん。言わずもがな顔面大惨事。

「はぁ……はぁ……。なんだここの教育……スパルタどころじゃないぞ……?」

 まぁ……そうだな。さすがに虐待一歩手前だろうからもう少し優しくしてやろうかな。

「ぎゃ、虐待だこんなの……」

 ……一歩手前だよ。そういうことにしときなさい。メッ。

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