第351話
「当然父が強く生まれたのもその所為」
リリンが驚くのも構わず、赤子は続ける。
かわしてうつ伏せになったまま動かないため様にはなっていないが、言葉だけは真剣。
「しかし、ヤツは生物の成長を望みながら、同時に自分に届きうるバグが出てしまった時には楔を打つようにしてるらしい。その楔というのが――やーれのどっこいしょ」
赤子は一度仰向けになってからまた勢いをつけて体を起こす。痛む尻をベッドにこすりながら半回転し、リリンに向き直り涙目になりながら右手を前にだし指を一つ立てる。
「一つ。力をつかえないようにする。父は確か元の体だとマナの通り道、ラビリンスが複雑で脆く。正直壊れていて使えたものじゃなかったはず」
一度言葉を切り、もう一つ指を立て、続ける。
「二つ。性欲の欠如。性欲とは即ち繁殖。同じバグを抱えた生き物が生まれないようにするため。とはいえ完全に性欲をなくさなかったのは露骨な拒否は違和感を生みかねないからじゃないかな? そして、性欲を欠落される理由に補足を入れるとバグを回避するような何かを持って生まれる可能性をなくすため。父で例えるならマナを受け継ぎ、ラビリンスが人並みな生き物が生まれるだけで相当な化け物のはず」
赤子は手を下ろし一仕事終えた顔になり、声に少し力を抜く。
「私にわかるのはこのくらいだよママ」
「やめろ気色悪いぶち殺すぞ」
「殺伐とした家庭環境で私は果たして立派な大人になれるのか」
赤子の言葉を無視し、リリンは自分の顎に指を当て目を閉じて熟考。
三秒ほど考えると、気になったことを口にする。
「楔を打たれ、思わぬ力以上に欠陥を抱えるならば我は何故影響がない? 我もソイツの影響下なのだろう?」
「ちっちゃいのがデメリットなんじゃないかな? 生物にとって同種族なら大きさは力だし。母も血族の中ではかなーりのチビなんでしょう?」
「小さくとも問題を感じたことはないがな」
「たまたまだよ。普通サイズは力に直結するでしょう? ただ、母の種族的にそれが影響しなかっただけ。というか、ソレ以上にバグが大きすぎて打たれ方が甘かったんだよたぶん」
「フム。一理ある。となると性欲についても」
「打たれ方が甘くて、また父が魅力的すぎて楔が機能しなかったんでしょうね。長年無限に等しい生物に干渉してるからアレも機能低下してるだろうし」
「少なくとも煙魔のヤツが影響を受けている前提ならば七千年は固いか。ヤツはいつも盛ってるけども」
「届き得ないと判断されたら楔を打つ必要もないから。あくまで目的は成長だから」
「そのあたりもよくわからんな。成長が目的なら自分ほど強大になることのどこが問題なのか」
「そこは理解しやすいところと思うけれどね私は。ほとんどの生き物は上から目線が好きなのよ。母は並んでほしいみたいだけれど」
「……詰まらんからな。一人は」
「憂いを帯びた顔しててもダメよ私にはわかるからね戦闘好きなの」
「ところで、もう一つ疑問なのだが」
「無視ですかいなー」
赤子の言葉を華麗に無視しつつリリンは質問する。
「何故干渉を受けた? それらの情報はどういう経緯で手に入れた?」
「我が父の父が神誓魔法に近いモノを行って、それの媒体にしたのが自身の左腕だったの。それで、我が父が物理的に触れた瞬間に肉体経由で存在ごと干渉を受けた。その時に私が全部丸ごと弾いて力を使いきってしまったのよ」
「それで才に干渉し、我を孕ませたわけか」
「生きたいって思うのは、産まれたいって思うのはおかしい?」
「いいや。生き物として当然の本能だ。不思議じゃない」
「ふふ。だから一応感謝はしてるんだよ我が母よ。普通望んで生き物は生まれないけれど、私は
口調は軽くとも、その気持ちに偽りはない。
産んでほしいなんて頼んでない。なんて、反抗期の台詞とは真逆。
産んでほしくて産んでもらったこの赤子がどう成長するか、将来が楽しみである。
……すでに精神は完成されているような気もするけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます