第349話

 ズブッ。ズブブブッ。

 肉が千切れる嫌な音をさせながら、リリンは自分の腹部へ手を入れていく。

 それもではなく、普通に腹の肉を裂いて、だ。

「リリン様……何を……?」

「本来のやり方では余韻に浸れん。折角まだ感触が残ってるのになんぞに水を差されてたまるか。産み方にこだわってたとしても知らん。媒体となってやっただけ感謝してもらわねばな」

「……」

 なんとも言えない表情をしながらもディアンナはひとまずお湯と布をテーブルに置いて待機する。

「ん……こら。絡むな。出しづらいだろ。動くな阿呆」

(ヘソの緒かな?)

 と、グロテスクな光景に狼狽えることなく考えるあたり才達とは違う世界の人類とわかる。

 リリン達の不死性はよくわかっているので、心配こそ不敬だとわかっているのだ。

 現に、腹の肉を裂いて大量に出血をしているリリンはまったく動じていない。本人が動じていないのに他人が心配するなどおこがましい。

「あぁもう面倒臭い。死んでも恨むなよ」

 胎児に何言ってんだろうなぁとか思いつつもディアンナは待機の姿勢を崩さない。

 それでも視線はリリンの出産(?)から目を離さない。

 絡まっていると言っていたので難航しそうと思ったが、面倒と言った通りリリンは強行手段に出た。

 ブヂャッ。とか。ゴプッ。だとか、およそ人体から中々聞けない音を聞きながら腹の穴から鳴りながら取り出したるその手には、確かに赤子が掴まれていた。

 ディアンナはリリンの子供の誕生に歓喜の表情を浮かべるが、リリンに慈愛の情は浮かばない。

 どころか抱こうともせずに赤子の首根っこを掴んで、赤子にタップされてる始末。

 リリンの扱いもだが、タップする赤子も大分おかしい。

 しかし、リリンの子と考えたらこのくらいはという気持ちも拭えない。

「ふん。これで良し。そら。あとはやっておけ」

「え!? あぁっ!? ああ!? あ、危のうございますよ!?」

 絡まっていたヘソの緒を空いていた手で断ち切り、繋ぐものがなくなった赤子をディアンナに投げる。

 ディアンナは驚きながらも落とすことなくキャッチ。すかさずお湯で血を流していく。

 洗い終わると布にくるみ、すでに傷を治したリリンの元へ連れていく。

「女の子です。抱きますか?」

「いらん。近くに置けば良い」

「そういうわけにも」

「問題ない」

 素直には聞き入れづらい内容に、ディアンナは躊躇する。

 生まれたばかりの子供を適当に置けと言われれば、普段は躊躇しない。

 だが今抱えているのはリリンから生まれた子供。それだけで情が芽生えるのは仕方がない。

 だが、その心配は杞憂に終わる。

「やーれやれやれ。やーれやれ。酷い母親だこと」

 赤子が目を開け、流暢に言葉を発した。

 その目は、才によく似てめんどくさそうにしていながらもリリンのように綺麗な黄水晶シトロンの色をしていた。

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