第324話
「な、なんじゃあれは……。ゆみちゃんも妹ちゃんももうなんか……なんか……。あぁもう! 語彙力!」
「アレクサンドラさんと結嶺さんとか。
「っていうか人間同士の戦いに見えない。まず何が起こってるかもよくわかんないよ!?」
幾十幾百の斬撃と打撃が不自然な軌道で飛び交い、さらに時に弾いては時に反らし。さらには引き寄せ、吹き飛ばす。あらゆる手を用いてお互いがお互いを攻めては防ぐ。
そんな二人を眺める友人達は、驚愕以外の感情を抱けない。
「……」
才はただ一人、違う事を考えている。
(おかしい。昨日までの段階じゃあそこまでできるとは思えなかった。でも今のあいつからはカナラが倒したあの黒いヤツに近い戦力を感じる。明らかにおかしい)
ギリギリ才の空間短縮に対応できていた程度の夕美斗がたったの数時間でさらに違う次元の力を手に入れた。そこに疑問を抱いていた。
(……あの人。まさか俺の知らないとこで種でも蒔いたか?)
狂気的な顔で笑い声をあげる妙齢の魔女コス女の顔が浮かぶ。その顔を浮かべると才は――。
(あり得そうだなぁ~……)
腑に落ちざるを得なかった。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅうああああ……っ!」
「……っ!」
ニスニルの演算だけでは足りなくなり、夕美斗への負荷も少しずつ増し始める。
瞬の目にはより力が入り、今では全開まで開かれている。
「ふぅぅぅぅぅぅぅう……っ!」
「……!」
双方まさに己の限界にて全力。夕美斗の宣言通り、二人には余計な思考を挟む余力はない。
「「…………っ!!!」」
全力で倒しにかかっているのにも関わらず。二人の斬撃は、打撃は、お互いに当たらない。
二人とも攻撃に重きを置いているのに、だ。
その理由はニスニルにある。
ニスニルは夕美斗を守る為に防御主体の空間歪曲と風の鎧を展開している。
故に二人の攻防は均衡を崩せずにいる。
それだけ、ニスニルは夕美斗を守ることに力を入れている。
だが、その均衡は長くは続かない。
「ぅ……!」
夕美斗の肌が切り裂かれる。
「く……っ! ふぐぅ……!」
二度、三度。斬られるスパンがどんどん短くなっていく。
(意識がどんどん薄れて……。しっかりしろ……! まだ終われないだろ!?)
夕美斗の意思とは裏腹に傷は増えていく。
存在融合の負荷による精神の磨耗だけでなく。瞬の斬撃による僅かずつの出血が体力も奪っていく。
(ここで! ここで止まるわけには――)
――プツン
自分を心の中で一喝しようとした瞬間。夕美斗とニスニルの繋がりは途絶えた。
「……っ!」
「――――っ」
その隙を見逃さず、瞬の斬撃は夕美斗を斬り刻んだ。
「……」
夕美斗は痛みに声を挙げることも出来ず。力なくその場に倒れ付した。
「夕美……斗……」
直後。ニスニルも倒れる。いかなニスニルでも、慣れぬ存在融合と空間短縮は負担が大きすぎた。
「……」
瞬はそんな二人を、虚ろな目で見つめるだけだった。
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