第322話
瞬は風で飛ばされる直前。さらに空間を歪ませた。
歪ませることで風が来ないようにしたわけではない。
刃の通り道を作ったのだ。いくつもの。
それによって放たれた斬撃、通算――17発。
それも全て切っ先のみが音速に到達するように調整されていた。
音の壁を突き破る衝撃は、突風をいとも簡単に消失させてしまった。
もし、これが夕美斗に向けられていたらどうだろう?
一つの斬撃に、二つの連撃に、四苦八苦していたのに。17連撃の超音速の斬撃なんてどう対処したら良い?
「……はは」
夕美斗は乾いた笑みを浮かべる。
あまりの妹の強さに諦めてしまった?
自分の力の無さを嘆いてしまった?
否。断じて否。
夕美斗は、この程度で瞬と対等になれるだろうと目算していたことを恥じているのだ。温存という手段を取ってもやりあえると思っていたことを悔いているのだ。
(すまないな。瞬。私はいきなり力を得て舞い上がっていたらしい。できるだけ長く。それでいて強い状態を維持しようとしていた。ダメだよな。そんなんじゃ。そんなんじゃ全然届かないよな)
「……っ。夕美斗……?」
夕美斗は立ち上がり、ニスニルにマナで働きかける。より、深く繋がろうと呼び掛ける。
「……わかったわ。夕美斗。貴女がそれを望むなら」
ニスニルは夕美斗に応じる。
ギリギリを見極め、最もバランスの良い場所。安全な場所を抜け出して、絶対に解け合わない領域を越えていく。
「……ぅ」
一瞬。夕美斗の自我が吹き飛びかける。
それはそうだろう。
生物としての格も、マナの総量も、存在の次元も、どれを取っても夕美斗はニスニルに釣り合わない。
それなのに、より深く繋がればどうなるか。想像に難くない。
(それでも……私は……っ。お前の傍に……行きたいんだ……)
「「「!!?」」」
傷は癒え、髪と目の色が灰色気味に変わった夕美斗。
夕美斗の変化に、その場の全員が驚愕する。瞬でさえも、刀を持つ手に力がこもる。
(な、なんだあいつ……。あいつは……誰だ……?)
その中でも、一番驚いたのは才だろう。いや、マナを感じ取れる者ならば誰しもが驚く。
何せ、夕美斗とニスニルが発するマナの質が完全に別物と化しているからだ。
(意識が朦朧とする……。なのにちゃんと思考することができる。前が見にくいのに、ちゃんとわかってて……。あぁ、そうだ……。ちゃんと言わなくちゃ……)
「瞬……。もう一度言うぞ……」
「……」
「本気で来い。私はお前と対等だ」
「……」
やはり、瞬に返事はない。表情も動かない。
ただ――。
「……!」
刀を抜き、鞘を捨てた。
鞘により感知を阻害されていた為に今まで気づかなかったが、刀からは超高密度のマナが溢れている。
それに、見るものが見ればわかる。瞬の持つ刀がただの武器ではないことを。
瞬が持つ刀はM・ジーナシリーズ。マナを燃料として扱う武器の総称。
しかも、ジーナ本人によって瞬の為に作られたオーダーメイド。瞬専用のM・ジーナシリーズだ。
(ここからは……本当の本番だな……)
心は落ち着いている。いや、感情は希薄になってしまっている。
ただ、それでも消えない思いがあって。目的があって。
夕美斗はただそこに向かうのみ。
「
遠い
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