第302話

 才の教育は6才の頃にはもう施されなくなった。

 理由は単純にマナ量を測定されたからだ。

 6才になるまで聡一は自分の子供ならば膨大なマナを持って然るべきと考えていたので行っていなかったのだ。

 しかし、いざ蓋を開けてみればマナはあるものの魔法師からすれば最低値。ギリギリ魔法が使えるかどうかという程度しかなかった。

 それ以来。聡一は無駄な時間を過ごしたと教育をやめ、別のことに手を出すようになった。

 自らの伴侶を見繕ったように、孤児からマナの強い子供を見つけ引き取ることにしたのだ。

 それが天良寺結嶺である。



「ここが今日からお前の家だ。しばらくはお前の教育の仕方を決めるから好きにしていろ」

「……はい」

 引き取られた最初の日。結嶺はそう言われて放置された。

 町から離れた場所にひっそりと立つ広い家で放置されて心細くなってしまう。

「ぁ……」

 養父である聡一が去ると、代わりに年が近そうな男の子がやってきた。

「あの……ゆい……てんりょうじゆいねです……ごさい…です」

「……さい。ろくさい」

 新しい名前で自己紹介をすると、男の子も挨拶を返す。

「えっと……わたしのおにいさ……ま……ですか?」

「……」

 尋ねるとコクりと肯定。

 この時、結嶺がと呼んだのは屋敷に連れてこられたから。

 お金持ちならそう呼ぶべきだと思ったが故の判断である。

 もちろんのこと才はそんな結嶺に対し怪訝そうな表情を浮かべるが、結嶺は緊張でそれどころではないので気づかない。

 才も才で、呼び方なんかは既に頭の隅に追いやり、知らない子供が連れてこられた方を問題視していた。

 なんで連れてこられたんだろうか。わからない。

 わからないけど、放置するのもどうかと思ったのでとりあえず母のところに連れていこうと考えた。

 というか今の才には母以外頼る相手がいないので、そもそも選択肢なんてない。

「……いくぞ」

 才は結嶺の手を掴み、母のところへ向かおうとするが、ただ行くぞと言われた結嶺は混乱。

 未来いまの才も大概口下手だが、この時の才はさらに格別説明が足りない。

 あの父親からの教育と軟禁生活の所為ということを鑑みれば仕方のないことではある。

「え!? あ、あの……どこに……ですか?」

「……かあさんのところ」

 そんな事情なんて知る由もない結嶺は目的地を尋ねる。

 いくら口下手とはいえ質問に答えるくらいはできる。

 結嶺からしたら最初から言ってくれたら良いのにと思っても仕方ないのだが。

(ちょっとこわいけど……でも……)

 知らない場所に連れてこられて不安だったけれど、無愛想ながらも結嶺の手を優しく握る才に、少しだけ安心感を覚えていた。

(おとうさまはこわいけど……おにいさまはやさしそう。おかあさまも、やさしいひとだといいな)

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