第273話

「ふんふんふん♪」

 カナラを華麗におばあちゃん化させ難を逃れたのに。なぜ俺はコロナと……いや、コロナに抱えられながらおつかいに出かけているのか。

 それはロッテが変な親心を出して可愛い子にはおつかいをさせなきゃとなったからです。

 コロナが年下の面倒を見るようになったと勘違いした結果こうなってるわけなんだけど。

 おかしいよなぁ~。あいつ勘だけは良かったはずなのに。なんでこんな勘違いをしてしまったのか。

 もしかしてアレか? 文明に触れすぎて野生忘れかけてる?

 か~。もしそうなら由々しき事態。体が戻ったら問い詰めてから説教しないと。

 犬としての本能を忘れるとは何事か~ってね。

 ま、それは今できることじゃないから置いとくとして。まずは課せられた使命を遂行しなきゃな。

 おつかいつっても好きなもんリリンの端末で買ってこいって話だし。適当にコロナのおやつ買ってさっさと帰ろ。

「よっこいしょ……っと。おや?」

 いつもの売店まで来ると品出しをしていた寅次さんと目があった。

「「……」」

 数秒見つめ合う俺たち。こ、これはまさかこ――。

「へくちっ」

 あ、テメッ。人の後頭部にくしゃみぶっかけてんじゃねぇ。

「ずずっ。ふぐふぐ」

 拭くなバカたれ。俺の頭はタオルでもティッシュでもねぇんだよ。

「ふふふ。今日は立場が逆みたいだけど相変わらず仲が良いね」

 そりゃどうも。そちらも相変わらずチャーミングな見た目なのに声はダンディですね。先輩に言ってつけ髭でもプレゼントしましょうか? きっと似合いますよ。

 てか俺ってわかってて縮んでることに動じてないのがさすがすぎて笑う。

「ところで、今日は二人だけか……な?」

 と、尋ねながら後ろを見るのやめてくれせんかね。

「……そわそわ……はらはら」

 ……陰に隠れてるヤツを意識してしまうんで。

「ふ、二人だけでおつかいやなんてまだ早いてろうちゃん……。可愛い子には旅をさせろ言うからって可愛すぎたらあかんのちゃうの? 可愛すぎたらお家ん中に隠さんとあかんのちゃうの?」

 過保護な母親かお前は。過保護すぎてなんなヤンデレっぽいぞ。

 あと、独り言が大きい。隠れる気あんのか。

 まったく。言いたいことは山ほどあるがそれはまた後日にするとして。今は……。

「むふー! むふー!」

 この鼻息荒くして食い物を眺めてるこいつをなだめないとな。

 つかせっかくなんでも買って良いんだし適当にすぐに食えるもん見繕うか。

 ほら、コロナ。選んでやるから下ろせ。ぺしぺし。

「……?」

 下ろせって……! おら! 早く! ぺしぺし!

「……あぐ」

 噛むな!

 俺に構ってたらいつまでも腹は満たされないしロッテのおつかいも終わんねぇだろ!

「さーて今日も勝ったるでいやぁ! そのためにも腹ごしらえ!」

「あんたまた自分の体も使うんでしょ? 動く前に食べて大丈夫なの?」

「むしろ動いたあとのガス欠のが酷いって話する?」

「しなくて良い」

「連れないなぁ……お? あれは……」

 コロナの腕の中でもがいてるとこれまた面倒なのが来たな……。

 ま、伊鶴と多美の二人だけで他の面子がいないからまだ良いんだけども。

 どうせなら一番面倒な伊鶴を省いて夕美斗あたりと鉢合わせたかった。

「さっちゃんところちゃんじゃないのぉ~♪ あ~今日もがぁんわい~♪ ころちゃんがおっきなお人形抱えてるみたいでハイパープリティカル♪」

「顔と声が酷いことになってるよー」

 あと変な造語作るな。なんだよプリティカルって。プリティーが急所撃ち抜いてんのかそれ。

「そんで二人……お三人はなにしてんの?」

「はわわ!」

 いや慌てて隠れても遅ぇよ。今伊鶴がお前の方向いたとき目あったろ。ついでに俺とも。

 観念してこっちこいやお前。俺とコロナを引き離せ。そして俺を解放したあとまたあっちいけ。

「えっと~……」

 諦めたのかカナラが気まずそうにこっち来た。

 だったら一瞬隠れようとする前に来いっつの。

「お、おほん。ぐ、偶然やね!」

 あ、まだ完全には諦めてなかったようで。偶然を装って来やがった。

 お前表情でまるわかりだからその手のは無理があるぞ。

「それでえんちゃんなにしてんの?」

「あ、桃之生さんがこの二人ストーキングしてるのはわかってるからこの二人が何してたか聞いて良い? 二人ともしゃべらないから意思の疎通とれないし」

「……ろうちゃんが思い付きでこの子らにお買い物させようとしたんよ」

 複雑そうな顔をしながらも律儀に答える。

 なんだろうなその不服そうな顔するのもおこがましいって思っちまうよ俺。

 ちっこくなる前だったらただ可愛いヤツだなで終わってたはずなのに。

 やっぱ日頃の行いって大事なんだな。

「へー。なに買うの?」

「特に決めてへんみたいよ。りりんちゃんの端末? 渡して好きなの買い~って」

「なるほどね」

「あぐあぐ」

 説明ご苦労さん。

 説明ついでに頼みたいんだけど。さっきから俺の頭に噛みついてるこいつをひっぺがしちゃくれませんかね?

 くしゃみぶっかけられた上に噛まれてよだれがついてんですよ。超不快。不愉快。

「じゃあ他にやることとかは? おつかいだけ?」

「そう……ねぇ~。今日は特にこれといって用事はないはずよ」

「あ! だったら演習見に来ない? 私らこれからなんだよね~。んで、そのあと一緒にお昼食べよ」

「もし良かったらだけどね」

「ふぅん……。そうねぇ。だったらお弁当こしらえよか。急ごしらえになっても良いならやけど」

「マジか!? 全然オッケー! つかなんならさっちゃんの部屋行こうぜ! なんにもわからない無垢な子供になってる今が好機! この機にこやつの生活を暴いてやるぜぐへへ」

 ふざけんな。

 もうすでに人口密度そこそこあるのに一時的とはいえお前らまで増えるとか精神的苦痛だわ。

 なによりお前に俺のスペースを侵されたくない。切実に。

「あ、あんたねぇ~……。そりゃ私も興味あるけどそんな勝手に……」

「まぁええんちゃう? じゃあろうちゃんに言ってたくさんお昼用意せんとなぁ~」

 おい。お前が決めるんじゃないよ。

「ついでにミケちんたちも呼ぼう!」

 これ以上増やすな!

 というかまず形だけでも良いからお前らは家主に許可を取れ! 失礼にもほどがあるから!

「あ、あんたら……。才が戻ったとき怒られるよ?」

 そうだそうだ! 俺は怒るぞ!? 特にカナラは土下座させてやるから覚悟しとけよな!

 お前はここ数日調子に乗りすぎだからな!?

「ふふ。坊は優しいから怒らへんよきっと」

 普通に怒るわ。こっぴどく半ベソかくまで怒り散らしてやるわ。

 お前がどんなに俺を過大評価してるのか知らねぇけど。特に今回は許す気皆無だよ。

「いやぁそれはどうだろ……。さっちゃんなら絶対怒ると思うよ?」

 伊鶴。お前俺が怒るのは理解してるのは偉いが、わかってるならやるなよ。

 つかこれ……普通に決定事項なの?

 引き返すなら今だよ? な? ね?

 ……はぁ~。

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