第270話
「じゃ、じゃあもっかいいってきま~す……」
雪日に奇っ怪な行動を見られたのをまだ引きずってるらしく。気まずそうな顔をしながら授業に向かっていった。
その羞恥心をバブ行為そのものに抱いてほしかったけどね俺は。
んなこたぁさておき。淫魔は去った! 俺は解き放たれたのだ!
あぁ愛しの我が家。どうか俺を癒しておくれ!
「にゃーにゃー♪」
……なんて上手い話はあるわけもなく。俺は銀色の悪魔に捕まってしまう運命にある。
あ~コロナのバストに俺の後頭部が沈んでいく~。このまま全身取り込まれてなくなっちゃうー。
いやそこまで大きくはないけどな。さすがに。
「あぐ――ぶふ!」
噛むんじゃねぇ。普通にグーが出ちまっただろうが。
「にゃーにゃー!」
「おぶっ」
毎回思うけど本当めげねぇなこいつ!? 今回鼻フックじゃなくて普通に殴ったのに!
しかも足絡ませて押し倒してきやがって。どこで覚えてくるんだよそういうの。
「こらこら。才を押し潰すんじゃない」
「ぅやぁー!」
ここで救世主ロッテの登場下敷きになっている俺を救助してくれる。
意外にもすんなりコロナが俺を解放したな。
いつものコロナならテコでも離れないんだが、俺が小さくなってるから加減したのかな? そんな気遣いができるならタックルやホールドをやめてほしいんだけど。
おっと。んなことよりもせっかく逃れたんだし。また捕まらないようにここはしっかりロッテにしがみついとこう。ひしっ。
「……っ。い、今はコロナのがお姉さんなんだからなななっ。才の世話を焼かなきゃいけないほうなんだぞぞぞぞ?」
大人ぶってるけどめっちゃ声震えてて笑う。いや実際大人だけども。
あとロッテ。そもそも俺(十六才)とコロナ(二十歳)はコロナのが年上だ。普段からこいつは年上でありながら俺に甘えてる脳内年齢二才児だ忘れんな。
「あ、あんな風に噛み……っついたりとか。おお、押し倒したりはお姉さんのやるこちょ……。ことじゃないぞ? わかるな?」
「うぅ~……」
どもりすぎだぞ。説教するならちゃんとやれおぼこメス犬。
いくらだっこが一番上手いからって見逃してやんねぇぞ。
あぁでも、犬モードじゃなくても落ち着くこのロッテの癒しオーラ……。今日は精神的に辛かったのも相まって眠くなってくるな……。
このまま身を任せてよしよしされながら眠るのも有りだわ。俺、眠る必要ないけど。
「わ、わかったなら才の世話を頼みたいんだがなぁ~? お姉さんとして」
「……!」
ちょっと待って。ごめんなさい。頭の中とはいえ言い過ぎました許してください。俺を手放さないで。コロナに譲らないで。今日はちょっと俺疲れちゃったんだよ! カナラだけでもキツかったのにこいつの相手までしなくちゃってのはちょっと酷なんだよ!
「ふんふん!」
ほらぁ! なんかちょっとやる気出してきちゃったじゃんかぁ!
「ふん!」
おい。なんだそのお姉ちゃんの胸に飛び込んでおいで顔は。頭二才児の分際で。おこがましいわ。
それにお前、実はそんなにお姉さん面したいと思ってないな?
ここはおとなしく話を合わせておいてとりあえず俺を手に入れよう的なのが見え隠れしてるぞ。
「そうかそうか。わかってくれたか。じゃあ任せよう」
だ、騙されるなロッテ! ヤツは物分かりの良いフリをしているだけだ!
俺を捕らえた瞬間化けの皮が剥がれて俺を締め落としにかかるに決まってる!
それと元々こいつは年上だ。忘れてやるな。
「お前にもついに誰かを世話する時が来たんだな……。短いようで早かった……」
まだまだこいつには早いから安心しろ。
だから感傷に浸ってる暇があるならコロナに俺を手渡そうとするのをやめてくれ!
あぁもう! 手が短いからロッテが俺の脇に手通したらもう体に届かないよ! しがみつけないよ!
どうする? このままではまたあの銀色の悪魔に弄ばれてしまう。
桃の香りのする鬼ババよかマシだが、かといって別に嫌じゃないわけではない。両方ともお断り。
いや本当自分でも不思議なんだけど。このサイズになってからのあの扱いが生理的に受け付けないんだよな。
自分では気づいてないのかもしれないけど、縮んだことで羞恥心が戻ってきているのかもしれない。
……僕、人間に戻るのかな? 来週にはまた人外になってるだろうけど。
ってそれどこじゃない。今はどうやってコロナから逃げるかだ。
今の俺にできること……今の俺にできることは!
「にゃーにゃー!」
「んぶゅっ」
……悲しきかな。特にありませんでした。
哀れなウサギは幼き肉食獣のおもちゃになる運命だったのだ。
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