第268話

 午前はカナラの膝の上で後頭部にふよふよを感じながら過ごし、お昼になりました。

 となればなにが起こるでしょう?

「はぁい♪ あ~んしてぇ♪」

「……あむ」

 そうですね。ひたすらカナラにあーんされる時間です。

 こいつ。隙あらば甘やかそうと……いや、甘やかしてきやがる。俺の意思は無視で。

 今の状況じゃ仕方ないし、俺も無害な子供を演じてるわけだからいけないんだけどさ。

 だからって過剰だよ。過保護だよ。それは置いといてもせめて目に熱を帯びるのをなんとかしてよ。公共の場なんだから。

「たぁんと食べておっきくなろねぇ♪」

 心配しなくても魔法の効果切れたら勝手にデカくなるっちゅーの。

 もうここまで来ると時間が経つにつれて記憶飛んでんじゃないのかって思うよね。俺数日後にはちゃんと戻るからな? こっからまた数年かけておっきくならねぇからな? わかってる?

 あ、まさか俺の代わりに記憶喪失になってくれてるのかな~? そんなに気を遣わなくても良いのに~。むしろ迷惑なのでやめてください。収集つかなくなるんで。

「うぅ~む……」

「……?」

 伊鶴がこっちを見てなんか唸ってる。なんだよ。威嚇か? 喧嘩売ってんのか?

 言っとくがサイズが変わっただけで俺の戦闘力はさほど変わってないからな。タイマンなら確実にボコせる自信があるぞ。

「ね、ねぇえんちゃん……」

「ん? なぁに?」

 伊鶴に返事をしながらも寸分違わず口に食べ物を運び続けるカナラ。地味にすごいけど素直に手を止めても良いと俺は思うよ?

「ちょ、ちょっと私もさっちゃんにご飯あげてみたいな~……なんて」

 うえ。なんかコロナを見るような目で俺を見てきやがる。

 まさかお前もそういう趣味なんか。男だろうが女だろうがちっちゃければ良いのかお前は。

 あ、今の俺は女の子の格好をさせられてるんだったわ……! 失念!

 カナラのせいでおめかしされてしまいプリチーになってしまったが故にまたも面倒な輩に目をつけられることになるとは……。カナラ、許すまじ。

 ……とはいえ、俺のこと知ってて普段あーいう絡みなのによくもまぁ変な目で見れるなお前。控えめに言ってきしょい。

 まぁきしょいのはいつものことだから別に特別気にすることでもないんだが、問題はカナラがこのきしょ伊鶴に俺を差し出すかどうかだよ。

 ちなみにコロナは俺がこんなんで午後の授業も出れないし預託する必要がないってことで自室待機です。今ごろカナラとロッテが作ったお弁当をもしゃもしゃし終わっている頃でしょう。

 ……ん? 食べ終わる?

 そうか。その手があったじゃないか。

「けぷっ」

「あら? お腹いっぱい?」

 可愛らしいゲップを一つ。子供ならばゲップが満腹の合図だったりするだろうってな。

 どうだ? 満腹なら飯を与える口実も消え去るだろう。どれもう一発。

「けっぷ」

「ほうかほうか。……って事みたいやから。またの機会にしてくれる?」

「そ、そっかぁ~……なら仕方ないよねぇ~……」

「どんまい」

 しょんぼりしながら飯をつまみはじめる伊鶴。それをどうでも良さそうな目をしながら慰める多美。へっ。ざまぁ。

 いくら俺がプリチーだからって下心を見せるから落胆するハメになるのだ。その腐った性根を叩き直してから出直すが良いわ。くはは。

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