第267話

 案の定。首が痛い朝を迎えました。

 左右から人間離れした腕力を持つヤツらに子供が抱きつかれて五体満足なだけマシと割り切るべきなのかね~ええおい。

 否。いつか必ず報復してやる。

 小さくなったからって好き勝手しやがって。この恨み必ず晴らしてくれるわ。

 そして、今目の前にいるこいつにもきっと同じ念を抱くと約束しよう。

「おんやぁ~? こりゃまた可愛いおにゃのこが来ちゃってるぅ~♪」

 諸々朝のなんやかんやを済ませて、カナラに抱えられ教室まで来ると一目散に伊鶴が走って来やがった。

 もうさ。わかるよね。このプリチーな幼児の正体が俺と気づいたら爆笑するの。目に見えてるよね。絶対許さんからな!

 ちなみに今の俺は甚平ではなく浴衣に着替えさせられてる。……女物のな。

 ついでにかんざしを器用に使って髪に絡ませられた。

 よって、今の俺のプリチーレベルは昨日よりも五割は高い。超嬉しくねぇ。

 いくら自分の見た目に頓着がないつっても可愛くなって良いわけじゃねぇからな!

「えんちゃあん♪ そのかわゆい子はだぁれですか♪」

 伊鶴に連れられて周りのヤツらも注目。いつもの面子も言わずもがな見ておられる。こっち見んな。

「ちっちゃくなった坊よぉ~。ほんま可愛いよね♪」

 お前もお前で素直に答えんな。適当に契約者とでも言っておけやお馬鹿者。事実繋がり自体はあるんだから。

「坊ちゃんって言うんだ~♪ へ~♪ ん? 坊ってたしかえんちゃんがさっちゃんを呼ぶときの……。え? あれ? つまり……」

「……」

「さっちゃんなのかこの子!? え!? ち○ち○ついてんの!? こんなに可愛いのに!?」

 ビックリする気持ちはわからんでもないが公共の場でなんてこと言ってんだ。発言は自重しろバカたれ。

「いやでもこのふてぶてしい顔……た、たしかにさっちゃんだ……っ!」

「くっ! どうして男に生まれてしまったんだ才! 君が女の子なら口説いてたというのに!」

 ミケ、お前までバグったこと抜かすな。

 たとえ俺が女でお前に口説かれてもなびかねぇよ。俺は男も女も線が細いほうが好みなもんでな! おっぱいは対象外だけど。

「で、なにがどうしてそうなったの?」

 自分の席から動かずとも多美さんが軌道修正を試みてくれておられる。ありがたや。

 頬杖をついてジト目の呆れ顔なのにちゃんと脱線の危機を察知してくれるあたりさすがッス。

 ってわけでかくかくしかじか。

「なるほも。それで黒ずくめの男に魔法をかけられ縮んだ上にちょんぎられたのか」

 うん大体半分違ぇわ。なにを聞いてたんだお前は。バカなのか。

「話の流れとはいえ、災難だったな才君。っと、今は記憶もないんだったか?」

 すまんな夕美斗。しっかり記憶はあるし言葉も理解してんだなこれが。心配してくれてどうも。

「これから七日……いえもう六日ですかね? このままとなると誰がお世話とかするんですかね? ロゥテシアさんはともかくリリンさんとコロナちゃんはそういうの……ねぇ?」

 はっはー。さすが八千葉。なんだかんだ良いところに目をつけてる。

 たしかに俺の契約者の中じゃロッテくらいしかまともにそういうことはできないだろうね。リリンに至ってはやる気の問題だけど。

 しかし、そこの心配はいらないんだなこれが。

「坊が元に戻るまでは私が付きっきりでお世話するつもりやから。大丈夫やよぉ~」

 ここにやる気満々の女がいるもんでね。ヤる気ありすぎて本当困るくらいですわー。

「昨日も一緒にお風呂入ったもんねぇ~♪」

「「「!!?」」」

 余計なことを言うんじゃない! 全員こっち四白眼で見てきてんじゃねぇか!

 すぐに「あ、今は子供だしセーフか」って落ち着いたけどもよ!? それでも妬みの視線を感じるわ!

 あ~もう。カナラはこういうところ抜けててもう……。どうしようもないよもう……。

 できればだけど、いっそ別の誰かがお世話してくれないだろうか? 俺、良い子にしますよ? ばぶぅ。

「時間だ席につけガキ共……誰だその子供は」

 あ、先生が来た。眉間にめっちゃシワ作りながら見てくる。

 そんな目で見たら普通の子供なら泣いてますよ。怖いんでもっと愛想よくしてください。うぇーん。

「坊ですよ先生。御伽さんの魔法? で縮んでしまいまして。しばらく私がお世話するつもりなんやけど。ええです?」

「……そうか。ちゃんと世話しろよ」

「はぁい♪」

 まるで子犬を飼うときの約束をするパパですね。

 あらあらどうしましょう。この年になって改めてカナラママと充パパという新たな両親ができてしまったわー。

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