第259話

「いらっしゃ……い。僕たち以外の人が来るなんて四月以来だ……から。嬉しい……な。あ、お茶入れ……るね」

「……お構い無く」

 悪いけど今すぐ帰りたい気持ちになってるよ俺はよ。なぜってさ。

「本当に部室だよなここ?」

 壁は全部夜空模様。しかもプラネタリウムとかのデジタルじゃなくペイント。机や椅子のデザインは子供用にデフォルメが効いてて、足元にはたくさんのレトロなおもちゃが転がってる。恐らく全部こいつの私物だろう。

 ……自由過ぎんか?

「あ~……うん。全部僕の趣味だか……ら。おかしいかも……ね。でも許可は取ってるから……どうぞ」

「どうも。……美味いな」

「ありがと……う」

 これまたファンシーなコップだこと。でも中身はかなり上等な紅茶。しかもこれ色んな種類のを独自にブレンドしてるな? 凝った真似を。

 なぜそんなことがわかるのか? そんなの俺の嗅覚と味覚と脳みそが人間じゃないからだよ。いつものやつ。

「……それで? 普段はどういう活動を?」

「特になにもできてないか……な? 前は僕の魔法の研究とかしてくれてたんだけど……ね。試してるうちに皆やめちゃっ……た」

 でしょうね。そんなんだろうと思ったわ。

 試合見てる限りあれ心身両方幼児退行するんだろ?

 そのときどういう精神状態になるかわからないけど、何度もそんなの食らってたら普通の人間なら精神異常きたしてもおかしくねぇわ。

 最初は神誓魔法ってことで興味本意だったんだろうけど。好奇心だけで触れて良い次元じゃなかったな。ま、自業自得。

「でもお陰である程度使い慣れた……よ」

「じゃあ前は全然使えなかった的な?」

「……いや、制御できてないことはなか……った」

 なんだよ。じゃあ元部員たち犬死にじゃねぇか。なんのためにいたんだよ。クズめ。※死んでません。

「こうなってくるとつくづくわかんねぇな。なんでまだ部室に来てる? 一人だし、特に活動してないのに」

「今は……いないけど。そのうち誰か見学とか来るかもだし……ね」

「ずずぅ~……」

 健気なことで。まぁ、俺には関係ないしお好きにどうぞって感じだわ。

 ……聞いたの俺だけど。

「それで……ね。学園公開にも出し物考えてるんだ」

「へー。なにすんの?」

「若返り体験」

「……大丈夫なのかそれ?」

 体はともかく精神まで退行したら苦情殺到どころじゃない気がするんだが?

「効果の範囲は結構細かく設定できるか……ら。平気だと思う……よ? 体だけ……とか。一時間だけ……とか」

「なるほど」

 それならまぁ……物珍しい出し物にはなるか。

 神誓魔法を体験できること自体希少だしな。実際あったら大人気間違いなしだわ。

「なんなら……天良寺くんも……どう?」

「俺? 俺は……」

 どうしよ? 怖いけど興味あるんだよな……。

 んあ~……。暇だしちょっとくらい試すのも……良いかなぁ? お迎えの連絡までの戯れとしてってことで。

 うっし。ちょっとやってもらうかな。

「わかった。じゃあ頼むわ」

「了……解。天良寺くんなら全力でも平気だろう……し。せっかくだから手加減なし……で」

「え――」

 ちょ、ちょっと待って!? お、俺はお手柔らかに頼みたかったんだけどぉ!!?

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