第254話
「やはり間に合わなかったか」
影で二体の異歪者の残骸を回収し、帰り途中のネスと合流するリリン。
ネスは帽子を押さえながら背を反らせ、目をギョロッと見開きリリンの方へ振り返る。
「あ~らぁん? リリンちゃん。どうしたんだいその腕?」
「ちょっと食われた。そのうち生えるだろ」
「ほぉ~ん。やっぱり蛹となると一筋縄じゃいかない感じなのかな?」
姿勢を戻し、人差し指を頬に当てて思案するネス。
リリンはネスの言葉に引っ掛かり、質問を投げ掛ける。
「蛹? そういえばアレについて細かく聞かなかったが……」
「あれ? そうだっけ? あ~だからもがれたのかな? うっかりうっかり」
(我だから良いものの貴様ら基準じゃうっかりどこじゃないだろうに人畜生)
三白眼のリリンの冷たい視線を意に介さず、ネスは異歪者についての説明を始める。
「前にどれだけ説明したか忘れたけど。私が黒い化物達――異歪者・幼を見たのは合計で八百十七回。蛹を見たのは四回なんだけど」
「おい待て。数日前は区別せず四回と言ってなかったか?」
「え? あ、そっか。幼は別にリリンちゃんの敵じゃねぇだろうなぁって思って省いてたかも。ごめん」
「……まぁいい。続きは?」
「おいよ~。異歪者は私が知る限りで三段階に分けられている。っていうか勝手に分けた。私がね。んで、私が確認したことがあるのは
「……つまりは我の腕を食ったよりも上がいると?」
「イエス。それを見たのは一度だけなんだけどね。ありゃダメだ。マナの密度とか量はリリンちゃんのが上だけど。現状勝てないよ」
「ほう! 断言するか!」
ネスの言う事はある意味で信頼出来る。だからリリンよりも強い存在がいるという台詞は事実とわかる。
思わず、リリンは満面の笑みを浮かべてしまう。
「何故、我より強い? 何故言い切れる?」
「んふ~ふん♪ 世界の異物にして歪み至りし者としてルーラーと名付けたわけなんだけど。アレの能力は正直理解が出来ない。マナはリリンちゃんや坊やよりも低いが私から見れば馬鹿げた密度と量だった。加えてよくわからない事をして自分よりもマナの格が上の生物をあっさり殺してた。いや本当良いもの視たと思ったね。達したくらいだよ」
マナでの差はちゃんと扱える生物同士であれば絶対的力関係、格差となる。影を使うリリンであればそれはより顕著だ。
しかしネスの話では異歪者はマナでの差を覆す何かを持っていると言う。
世界の法則を覆すような何かを。
「貴様が理解出来ず。マナでの差を物ともせず。あの蛹とかからしてそもそもの能力も高い。クハハ! 何だこれは。既に答えは出てるじゃないか」
リリンは昂りを抑えられない。導き出した答えはリリンの興奮を煽る。脳内麻薬がドバドバと溢れる。
「あ、やっぱりわかっちゃう?」
「当然だろう? 貴様が全く理解出来ていないモノなどこの世に一つしかあるまいよ。仮に知らぬ事でもすぐに看破しやがる貴様の目で見抜けぬモノなど一つしかあるまいよ!」
「あっははははは! すげぇ高評価! でも正しいよ! そうだよリリンちゃん! 異歪者・至の能力は恐らく――」
「神誓魔法」
「またはそれに類似するモノ」
世界の法則をねじ曲げ、一時的に支配する事も叶う神誓魔法。
御伽氷巳が見せたのでさえ時を空間を弄んだ。
であれば、影を使うほどの生物が神誓魔法を扱えたら? それはどれ程の化物となるだろうか。
想像出来ない。想像出来ないほど強い生物。
堪らない。堪らない。堪らない。
自分よりも強いかもしれない生物が、未来形も含めてこの世に二体いるという事実。リリンにとってこれ程戦闘衝動を掻き立てる事もない。
「が、確実に負けるというのは詰まらんな。うん。勝てるか勝てないかでなければ戦いの興奮もない」
生死を賭けたギリギリの生存競争。血肉をぶつけ合う闘争でなければ最高の興奮は得られない。
一方的程詰まらないモノはない。たとえ自分が勝者であっても。だから。
「我も本格的に今以上を求めなくてはなぁ~? まずは同じ土俵に立たないと話しにならん」
「ん~♪ それ以上強くなってどうすんのって言いたいとこだけど。気持ち的には私も一緒だから強く言えないわ~。というか今以上のリリンちゃんも見てみたいしね♪」
ネスは嘘をついた。リリンは異歪者・至に絶対に勝てないという嘘をついた。
いや、正確には嘘かどうかもわからない。何故なら異歪者・至を視たのは一度切りで、まともに戦力を測れなかったから。
だからわからない。というのが正しい。
なら何故正直に言わなかったのか。そんなの。
(もっと高みを目指してくれよリリンちゃん。貴女は坊やを自分よりも強くなる存在と言ってるけど。坊やと繋がりを持ってる時点でリリンちゃんは……んひ♪ 将来が楽しみだぁ♪)
好奇心以外にあるわけがなかった。
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