第141話
「……」
「ん~……。こっちがええかな? それともこっち?」
「……まだか?」
「もうちょっと待ってや~。今真剣やから……」
「さいですか」
俺が使わせてもらってる個室にて、今煙魔は悩んでいる。ものすごく真剣に悩んでいる。さて、何に悩んでいるでしょうか?
チクタクチクタクチクタクチクタク……。
テテン! 時間切れ~。正解は~?
「白がええやろか? それとも黒? 先に攻めた方が有利かもやし。でも後の先いうこともあるし……」
答えはリバーシの白か黒で悩んでおります。
いやね。花見終えて屋敷に戻ったのは良いんだけど。夜に暇だからって訪ねてきたんだよ。そんでなにか良い暇潰しないか~って話になって。囲碁でもどうって聞かれたんだが、俺囲碁わからないからリバーシはってなって。リバーシってなにってなってルール説明したら簡単ですぐできそうってことで今やろうとしてるんだけど……。白か黒か決めるときにじゃんけんをして煙魔が勝ち、その後かれこれ五分くらい先攻後攻で迷ってる。
もうね。どっちでも良いじゃん。今が一番退屈だわ。
あ、ちなみにリバーシなんて知らないからあるわけもないので、囲碁盤で代用。反転させるのは白黒入れ替えるって感じな。面倒だけどできないことはないし。
「よし! 黒にする!」
「やっと決めたか……。じゃあどうぞ」
「……どこ置こう」
「……」
「はぁ~……」
なんだか……今日は長い夜になりそうです。
あれからまた数日経ったんだが……。なんかやたら煙魔に絡まれるようになった。例えばあるときは。
「坊~羽根つきしよ~」
とか。
「坊~独楽やらへ~ん? 私結構上手いんよ」
だとか。
「坊。今日は貝合わせしよや。綺麗な貝殻ぎょうさんあるからそれも見てほしいわぁ~」
ってこともあり。
「坊カルタしよカルタ! あ、でも読む人探さなあかんから別にしよか……」
あのときの残念そうな声は個人的にクセになりそうだったな。……俺の性癖がわからんな。
とまぁ。お正月親戚の集まりでやたら子供と遊びたがるお婆ちゃんかよって思いつつも付き合ってた。暇潰しにはなるし。リバーシのときと違って煙魔の馴染んだ物だからやたら悩むってこともなかったしな。
そんで今日も今日とて煙魔と遊んでる。ちなみに今日は蹴鞠。つっても形式ばったのじゃなくただ落とさないようにお互い高く蹴り上げてパスし合うだけな。俺たちの身体能力的に本気出したらケガじゃ済まないし。主に俺が。
「ほっ」
「ん、と」
「はい」
「よっ」
「あ……あ~ん。落としてもうた~。ふふっ」
はいはい。わざとね。あざといあざとい。普通にやってたら地面になんて落ちるわけないだろ。人間離れしてんだから。
「ほなもう一度いくよ~」
それはそれとして横に置いといて。なんでそんな俺に絡むんだろ? 最初は暇を持て余した俺から声をかけたわけだけど。そのあとはずっと煙魔から来るんだよな。
ふむ……。せっかくだし聞いてみるか。
「なぁ、煙魔」
「ととっ。ん~? なぁに~?」
「散歩したときから、さ」
「うんうん」
「なんかやたら俺のところ来ない? よ」
「まぁ、せやね~。はいっと」
「なんで?」
「なんでって言われてもなぁ~。特別な事なぁ~んもあらへんよ。坊といると楽しいからやよ~。あぁん。また落としてしもた」
「……楽しいの? 俺といて?」
転がる毬をとてとて小走りで取りに行く。さっきお婆ちゃんって言ったけど声の若さと背丈と仕草見てるとむしろ良いところのお嬢さんだな。変な仮面つけてるしかな~り昔の基準でだけど。
「えっとな? お散歩した時に気付いたんやけどね? なんや坊とお話ししたり、遊んだりするのがえらい楽しいなぁ~思て。せやから坊のとこ足運んでまうんよ。ほんまそれだけよ?」
「へぇ~。変わってんなお前」
俺といて楽しいとかちょっと神経疑うわ。頭の中では色々考えてるけど口にはしないし。どっちかっていうと無口なほうのはずだからな俺。仮に口開いてもろくなこと言った記憶ほとんどねぇし。煙魔とも簡素な会話しかしたことない気がするんだけど。その上で楽しいって言われると頭を疑うね。
「あ~もしかしたらその感じなのかもしれへんなぁ~。皆私の事畏れてるからなぁ~。変な気の遣い方する子多いんよね。坊は……ちょっと怖がってる節もあるけど。なんていうの? 対等? に話してくれるのがええわ。かしこまってない間柄は私には無二やからなぁ~。だから坊と話すの好き」
「……つっても俺無愛想だと思うんだけど? 他の連中のが話し合わせてくれたりちゃんと答えたりするだろ? 遊べつったら相手もしてくれるだろ?」
「確かに坊はちょっと無愛想やね。そこが可愛いらしんやけど。他の子なぁ~。言えば相手はしてくれはるし、喜んでもくれるけど……。なんか違うんよね。遊びって感じせぇへんのよ。楽しいは楽しいけど……。坊とのが一番やわ」
あ~。あれか。まとめると強すぎるが故の孤独的な? 太鼓持たれるの飽きたから俺みたいな気遣いのできないヤツが新鮮なんだな。たまたま俺が初めてあんたに無礼を普通に働くようなバカだったってこったな。どっかの誰かが言ってたわ。初めてはいつだってどんなことだって刺激的だってよ。
「もしかしてやけど……迷惑やった?」
毬を両手に持って不安そうな声を出す。やめろやめろそんな声出すな。あんたのネガティブな時の声俺の琴線に触れるんだよ。Sっ気を出させる声っていうかね。いじめたくなる。
でも立場的にも力関係的にも無理だからただただ俺が困るだけっていう。ちくしょう。生殺しだわ。
「……別に。どうせ暇だし。むしろ良い暇潰しになってるよ」
なので無難な返答。本当のことでもあるしな。あんたが来なかったら俺から行くかもだし。相手されなかったら暇な時間に悩まされるだけだしな。
「ほんま? なら良かったぁ」
あ~あ~嬉しそうな声出しやがって。それはそれでいじめたくなるなぁ~もう。俺ってこんなひねた性癖してたっけ? マジでさ。もっとストレートだった気がするんだけど。リリンの影響で俺変な変わり方してないか?
「ほな、行くよ~」
気を取り直して蹴鞠再開。とっても穏やかな時間だな。老後はこんなゆったり過ごすのも良いかもしれないわぁ~。煙魔みたいな雅な嫁さんもらってさ~……なんっつって。
……まず俺に老後があるかはわからないけどな。今の俺って老いるんだろうか? リリンがあれだからもう俺一生若々しいままかもしれない。ま、今さらか。
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