第110話
「さて、と。今日もお勤め果たしてくるわ。たぶん明日まで帰らないから。コロナとリリンのこと頼んだぞ」
「あぁ。わかっている。任せておけ」
「本当。お前がいると頼もしいよ。ハグでもしてやろうか?」
「い、いいいいいいからいってこい!」
「はいはい。コロナも良い子にしてろよ」
「……ん」
週末。才は異界へ出かける前に軽く二人とスキンシップを取る。コロナはいつも通り頭を撫でたり抱っこしたりと甘やかせば良いのだが、ロゥテシアに対してはまだ測りかねている様子。特に最近は若干過剰気味で困らせることが多い。ロゥテシアもロゥテシアで
「ふぅ……」
才を見送ると一つ熱を冷ますようにため息をつく。パタパタと団扇のように手を振る様子は本当に人間らしい。
世話を任された。といっても特にやる事があるわけではない。リリンの様子を見て、時間が来たらコロナに食事を与え、後片付けをし、夜になれば風呂に入れる。程度。風呂に至ってはコロナが拒否して前回は入れられなかったので当人はモヤついた気持ちを抱えているが。
(任されているのに風呂に入れられなかったのはな……。不甲斐ない限りだ……。だが、嫌がるのを無理にするのもな。鳴き始めたらうるさくて儂の耳も千切れそうになるし。難儀だ)
そこまで焦燥感などネガティブな感情が強く出ていないのだけは年の功と言うべきか。かといって小さいながらも問題と認識しているあたりロゥテシアの根の真面目さを表している。
(とりあえずそれは夜の問題。今は……そうだな。掃除でもするか。……ん?)
「……」
クイクイッとロゥテシアの服を引っ張るコロナ。何か用があるようだ。
(珍しいな。というか初めてだな。コロナから呼ばれるのは)
「どうした?」
初めてだからと舞い上がるわけでもなく普通に落ち着いて応対。はしゃぐ事でもないというのが一つと、変にテンションを上げてしまえばコロナが嫌がるのでこれが正解。
コロナもロゥテシアの落ち着きに釣られるように用件を伝えようと試みる。
「ん」
持っているぬいぐるみを前に出し、指差す……のだが。
「ん。ん~?」
思わず腕を組み、首を傾げるロゥテシア。それはそうだろう。これだけの動作では如何に勘の良いロゥテシアでも察する事は困難。
(これをどうにかしろ……。いや、少し違うな。これについて何かしろ……という感じだろうか?)
さすがはロゥテシア。良いところをつく。コロナは先日才に誉めてもらうべく睦歩と共にアニメのダンスを練習し始めた。才もいなくて暇なので今もやりたい。という意味でぬいぐるみを指差している。
「ん。ん」
「あ、と……。コロナよ。悪いがまったくわからん」
何度も指差すが、いまいちロゥテシアは要領を得られない。
(これは儂一人ではどうにもなりそうにないな……。となれば……)
「ちょっと待っていろ。支度をする」
ロゥテシアは朝食の片付けやリリンの様子の確認を手早く済まし、サマーセーターを着る。さすがにタンクトップはいけないと学習しているようだ。夏だからといってロゥテシアのプロポーションで上がノーブラのタンクトップオンリーは暴力的過ぎる。それを差し引いても露出が激しい。学園敷地内にいる青少年達には嬉しいような悲しいような配慮である。
「よし。行くぞ」
「ん?」
今度はコロナが首を傾げるが、ロゥテシアの意図はすぐに理解する事になる。
「と、いうわけで力を借りたいんだが……」
「うぇるかーむ! ハァハァ……まさか二人だけで訪ねてくれるなんて……。しかも力を借りたいと? もちろん受けて立つ!」
「助かるが……それは何か違わないか?」
ロゥテシアとコロナが足を運んだのは被服部。ロゥテシアもあまり親しいわけではないのだが、リリンがよく佐子に頼み事をしているのは知っているので、もしやと思い訪ねたのだ。そもそも頼れる相手もいないので選択肢がなかったとも取れるが……佐子が幸せそうなので細かいところには目をつぶっていただこう。
「美少女美女美幼女の役に立つ。それは私たちにとっては幸福そのもの。同時に失敗の許されぬ指名。いわば戦いなんだよ……」
他の部員達もソワソワとしている。佐子の影に隠れてはいるが、他の部員達も佐子と似たり寄ったりの変人なのだ。普段は佐子を立てているだけで。
「そ、そうか? ならその言葉に甘えさせてもらうが……」
「うぃっす! それで、コロナちゃんがお願いがあるんだよね? でも行動の意図がわからないと」
「あぁ。ほらコロナ。この人ならお前の言いたい事わかるかもだぞ? 聞いてみろ」
「ん? ……ん」
「「「ブッ!!?!?!!?!!!?」」」
ロゥテシアにやったようにぬいぐるみを突きだし、そして指差すコロナに佐子だけでなく被服部全員が悶絶。仲には失神してピクピクと痙攣を起こしてる者もいて、それを足腰砕けガクガクの部員が介抱し始めている。無愛想なコロナのアクションはそれほどまでに彼女達にとっては刺激が強かったようだ。
「……ハァハァ。な、なるほど……。そのぬいぐるみに関することでなにか希望があるんだね……?」
部長の意地なのかなんなのか、佐子はガクガクと顎を殴られたボクサーのごとく満身創痍ながらも会話を進めようとしている。ちょっと痛々しいがロゥテシアは一応普段通りということはわかっているので、若干引きながらも応える。
「そうらしいんだが……。それ以上には理解できなくてな。こういった物に詳しそうなお主ならと思ったんだが。何かわかりそうか?」
「ま、まぁ。そうね。超マイナーな子供向けアニメだけど知ってるよ。子供向けなのに子供に見せるような内容じゃないけど……」
さすが佐子。ゲーム研究部よりもゲームの腕があるオタクは伊達じゃない。
「コロナちゃんはこのぬいぐるみのキャラは知ってるの?」
「いや、たまたま外に出た時にもらったものだから知らないはずだが。元々興味示していなかったし。今までは才の匂いをつけて嗅ぐために持っているだけだったぞ」
「なにそれ可愛い。オエップ。可愛すぎて吐きそう……」
瀕死の体に追い討ちを食らうもなんとか踏み留まる。しかし、あまり長くは持ちそうもないので早めに決着をつけなくてはならない。
(も、持ってくれよ俺の体……! コロナちゃんのためにもここで朽ちてくれるな……!)
「すー……はー……。だけど最近になって興味が出たって感じなのかな? ぬいぐるみもらった日以外に最近出かけることは?」
「特に……いや、預託所には預けてるな。リリンが倒れてからは平日の午前はずっとだ」
「……なら、担当の先生がなにか知ってるかもね」
「なるほど……。では行ってみるか。助かったぞ。礼を言う」
「どういたしまして……って言いたいところなんだけど。土日は基本的に泊まり込みの先生が一人いるだけなんだよね。その人が担当なら良いんだけど、他の先生がコロナちゃんの担当だと結局なにがしたいかわからないままかも。だから無駄足になっちゃうかもしれないんだよ」
「そうなのか。もしそうなら困るな……。まぁ行ってみない事には始まらないし、とりあえずいってみる事にする。行くぞ。コロナ。場所はわかるか?」
「ん」
預託所の場所はコロナが覚えているのでコロナが先導して踵を返して部室の出口へ向かう。すると、佐子が二人を呼び止めた。
「ちょっと待ちな二人とも!」
「どうした? そっちも用があるのか?」
「いや、そうじゃなくてね。仮に担当の先生がいて、コロナちゃんのお願いの内容を知ってたらなにか手伝えるかもしれないし。私も一緒に行くよ」
「おう! ありがたい。では共を頼む」
「はぅん!」
ロゥテシアの感謝の言葉と笑顔を向けられ、心臓を貫かれ悶える佐子。基本的に低年齢層がストライクだが、美女も許容範囲なのでダメージを負ってしまったのだ。
(……この状態で出歩いて大丈夫なのだろうか?)
感謝もあるが、それと同時に心配にもなるロゥテシア。だが佐子はある意味不死身。少なくとも、
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