第100話
「――何か聞きたい事はあるか?」
「え~っと」
聞いた話をまとめると。
一つ。このデカい鳥の名前はハイネ。この世界では空神と崇められているらしい。うん。こんなにふざけた存在だと神様と言われても納得。ちなみに世界を超えてあらゆるモノを見通す眼を持っているらしい。それでネスさんの覗き見にも気づいたし、縁のある俺のことも知ったらしい。
二つ。空神は定期的に御使いを送りいつも見守っていると存在を知らしめるのだとか。本人はただ直に様子を見たかっただけなのだが、なんかそういう風習になってしまったので、なんとなく続けてるらしい。
三つ。いつもは姿を変えて自分が行っているが、今回は俺に任せるということ。誰でも良いのかよと言いたいが、じゃあこの話はなしってなると困るので口にしない。口は災いの元だからな。
四つ。御使いは一人で各地にいる四人の巫女と顔を合わせなくてはならない。御使いの証ってのをもらったから疑われることはないが、確認される前に襲われることもあるから注意すること。物騒だな。まぁ、普通知らないヤツがいたら警戒するし、野蛮な種族なら問答無用だわな。
五つ。御使いの証がある限り役目を放棄することはできない。御使いの証に俺の欲する力を付与してから放棄したくてもできない。なるほど。これでもらい逃げができないわけだ。
「一つだけ。俺、あんまり時間取れないんだが……」
「それなら問題ない。そちらの時間感覚で七日に一度の一日ずつかけて計四日で事は済む。四つの部族との距離は今の汝の力ならば一日あれば辿り着ける距離にある。仮に一日で辿り着けなかった場合はその場に汝のグリモアで印をつけておけばまたその場から目的地に向かえる」
「わかった。つまりは万事問題ないと」
「他には?」
「特に」
「では最後にもう一つだけ説明しよう」
「ん? 終わりじゃなかったのか?」
「最後の一つは力の事だ。汝にとって重要なはずと思い別枠にした」
たしかにまだどういう力なのか聞いてなかったな。最後に分けて説明することで忘れにくくってことだな。気が利くなおい。ありがとうございます。
「与えた力は他者の存在を模倣し、自らに投影する。私のように強い存在力がなければ自我を失うような代物ではあるが、汝は私以上に我の強い存在。染まり切る事はないだろう。その力を使い巨いなる者の力を投影すれば干渉せずとも汝はより彼の者に近づける。つまり彼の巨いなる者は汝の侵食を受けなくなり直に力を取り戻す」
「お、おう……」
な、なんかとんでもチート臭のする能力を得てしまった。便利すぎて不安になる能力だな。
「しかし危険な力でもある。いくら汝でも多用すれば何か起こるかはわからない。縁のある者。繋がった者のみ投影すると良い」
「……忠告どうも」
たくさん使ってみたい能力ではあるが、ハイネの言う通りちょっと怖いからな。とりあえずリリンの力だけコピーするつもりだよ俺も。リリンをある程度コピーしてから次の使い道を考えるとするわ。
「さて、話は終わったし。役目を果たしに行きたいと思うんだが……」
こっちも最後に一つ。気になったことがあるので質問させてもらうとしよう。余談みたいなものだからするかどうか迷ったけど。ま、一応な。
「ハイネ。あんたまるで無理矢理役目を与えているような……そんな気がするんだが。俺の気のせい?」
「是。正直に話せば御使いの役目は汝に頼む程の事じゃない。例年通り私が行けば良いのだから」
「じゃあなんで俺にやらせるんだ?」
「タダで何かを貰うのは気が引けるだろう?」
いや別に。もらうだけもらってそれで終わりならそっちが良いです。
「あとは親心に近いモノ……か。汝を視た時、憐れと思った。器と内包する力の差の激しさ。一つや二つ世界を統べられる力を持つにも関わらず。汝の生は弱者側だった。だからここを訪ねた時に何かしら与える事は決めていた。余計なお世話と思うが。どうしても汝の事は放っておきたくないと思ってしまった。……これも縁によるものだろう」
「ほぉ~ん。そっか」
だったら今回も
「それに折角の機会。新たな世界を見て見聞を広めると良い。短くとも後ろ楯がある異界探索はきっと汝の
「そうだな。じゃあ話も終わったし、役目を果たしてくる。……これ、ありがとう」
「例は不要。それは役目への対価なのだから」
もらえるならもらうだけで良いとは言ったものの。対価という体ならたしかにあんまり気にしなくて良いって気持ちになるな。最初は警戒してたけど、この鳥さん案外良い鳥さんで本当良かった。
「お、おぉぉぉぉぉぉお……!」
先ほど。ハイネの子供たち? が「地」というワードに反応していた。その理由が今わかったさっきまでいた場所、空に浮いていやがった! そして今俺は自由落下中です! なぜ落ちてるかって? その子供たちに蹴落とされたからだよ! いってらっしゃいつってな! 他に生き物が見当たらなかったから生き物なら空飛べるって思ったたんだろうな。きちんと教育しとけよハイネ! 翼がなきゃ飛べないってことをよ!
「くぉぉぉお……!」
地面までの距離は……あと3000m切ったか? 風圧がすごくて目があんま開けられない! 乾く! だが猶予なんてない。どうにかして着地する方法考えねぇと!
「……っ」
俺にできることなんて限られてる。とりあえず影をできるだけ広く展開しよう。どれくらい物理法則無視して衝撃を無くせるかわからないが、肉体の回復力もある。多少の怪我は覚悟して死なないことに終始集中!
「ふ……ん……っ!」
物理法則は無視してるといっても俺の体について固定されているから空中に留まったりはしない、か。俺の体がベースで、俺の体が重力を受けてるから落下はする。そしてもう一つ気づいた。風の抵抗も消えたから落下速度が上がりました! 墓穴掘ったかもしれない!
「おわああああああああ!?」
風がなくなったから声がよく通るようになったけど。んなことはどうでもいい。ヤバイヤバイヤバイヤバイ! このまま地面についたらどうなる!? えっと……衝撃はなくなるから地面に接触しても問題はない。ただ落下の勢いはあるから急に止まれば影との隙間に空気はあるわけだし反動はあるのか? となると体をできるだけ影に密着させれば無事かも!? いやまず影を解いて風の抵抗を受けて速度をできるだけ落としてから影を再展開すれば……。影を使わないのは論外だがこの方法なら。いやいや、でも……。
「あー! くそ!」
もう着地まで時間がない! と、とりあえず思いついたことを試してみよう。
まずは影を納め抵抗を受ける。体を大きく広げれば少しくらい抵抗も増えるだろ。
次に落下までの距離を確認。あれこれ考えてるうちにもうあと500mくらい。400……300……200……。よし、このあたりで影を再展開しとこう。100m級のデカい木々が見えるしぶつかると危ないから余裕を持って展開。
そしてできるだけ影に密着。不格好でも関係あるか! 誰が見てるわけでもなしやらなきゃ死ぬ!
最後は……祈る!
「く……っ」
影が木の枝を阻み、そして地面に激突する。しかし影がきっちり衝撃を吸収し、できるだけ風の抵抗を受けて速度も落としたお陰かなんとか無傷。
「た、助かった……。はぁ~死ぬかと思った……。超怖かった……」
ここまでリアルに死の恐怖を感じることなんてねぇぞ。パラシュートなしのスカイダイビングとか生きた心地皆無だったわ。いくらリリンの影響で感情の起伏が小さくなってても小さいだけで怖いもんは怖い!
……つか、ハイネの眼なら確実に俺のこととらえられるよな? なんか余計なお節介をかけたいとか抜かしてたけど、今もその余計なお節介をかけるべきだったんじゃないかな!?
とりあえず。あれだ。決めたわ。俺は今後一切絶対スカイダイビングなんてやんねぇ。二度とやらねぇ。
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