第26話
「……ふぅ。やっぱまだマナを送り込むのは痛いな。痛みがあるから感覚は掴みやすいっちゃ掴みやすいけど」
「ぁ……んぅっ……。循環だけは早く慣れろよ。でないと我の方が我慢できなくなる。人畜生より我らは性欲は少ないが。それでも限度はあるぞ」
「子供作るなら言ってね。部屋貸すし。出産には立ち会うから。産まれてきた
「作らねぇよ。リリンが本気で襲ってきたら絶対逃げられないけど」
「お前が乗り気でないとマナの感じが悪いのだ。だから極力お前の意思は尊重するつもりだぞ。求められれば応えるがな」
「求めねぇよ。このちんちくりんめ」
「そのちんちくりんで何度が催していたと思うのだが?」
「気のせいだ。または勘違いだ」
「クハハ。そうしたいならそういうことにしといてやろう」
「どうでもいいから早く子供作って?」
「だから作らねぇよ。……まったく」
あれからさらに三日が経つ。俺はリリンと共に干渉、循環、同調、そして侵食による訓練? を行っている。
五日も続けてるとさすがにあの気持ち悪い感覚にも慣れてきたのだが、まだハッキリとした変化は見られない。まぁ同調と侵食はリリン任せで連続数秒しか持続させてないから当然といえば当然なんだけどな。なんでも――。
「今以上に同調の時間を増やすなり侵食速度を早めればお前が耐えられん。我に取り込まれるぞ」
とのことらしい。
今までの経験からリリンに間違いはないってのはよ~くわかっているし。全部任せて気長に結果を待つとするわ。
「では循環も終わったし同調に入るぞ。……ん?」
「あ~これは……。中断した方が良いかな?」
同調に入ろうとした最中。リリンとネスさんの様子が変わる。なんだ? どうしたんだ?
「どうやら迎えが来たようだな。ずいぶん時間がかかったものだが。まぁ時間の概念が鈍いのだから仕方ないか」
「うん。そうだねぇ。でもリリンちゃん早く行ってもらえる? うちの子らが無駄に殺されちゃうからさ。頭の良い子って中々作れないから重宝してるんだよね」
「知るか。死ぬ時は死ぬだろ。一匹はむしろ処分されろとさえ思ってるぞ」
「あ~あの子ね。ちょっと口はお下品だけど私には全然なんだよね。ちょっとテンションが高すぎる節はあるけど。死なれるのは困るよ」
「まぁいい。どちらにしろ出向かなければならん。我が行けばヤツも大人しくなるだろうよ」
「あのさ。さっきからなんの話してるんだ?」
珍しく自分から口を挟んだのだが。これには理由がある。
今俺たちにとって重要なのは同調と侵食により俺の構造を作り替えることでマナを扱えるようにすることだ。その訓練を中断してどっか行こうとしていたら気になるに決まってる。
「あぁ。こっちに来てすぐ頼みごとをしといただろう。恐らくそれが今終わったらしい」
なんだっけ? 干渉で思考回路奪われまくったせいで記憶が飛び飛びになってるんで思い当たることがないんだが。
そんな俺のピンと来てない顔で察したのか、リリンは改めて現状を教えてくれる。
「リリアンのヤツが来た。ハジエロがいつもの調子で突っかかったのだろうな。今八つ裂きにされかけてる。ルィーズも今向かってるようだな。クハハ。あの鳥我が行く前に死ぬんじゃないか?」
あ~絶対このあと面倒事しかないわ~。
気になるんだけどその八つ裂きってまんまの意味じゃないよね? 八つに裂かれる的な意味じゃないよね? うんわかってる。まんまの意味だよな絶対。そういう世界っていい加減学んだよ。
「お止めくだせぇお嬢さん。そいつにも悪気があったわけじゃ……」
「あぁ! あぁ! 煩い煩い煩い! ここには煩い珍獣しかいないのかしら!? お姉様の庭といえどこれは酷い! あまりに酷い!」
「静かにしますから落ち着きになってくだせぇや。おっと」
「死ね! 死ね! いい加減に死ね! ちょこまかちょこまかちょこまかと逃げるな! 死ね不細工で臭い珍獣畜生!」
「こりゃ言葉は耳に入っておりませんな。会話になってない。……ちゃんとシャワー浴びてるんですが。臭いますかね? 不細工なのは認めますが。バルゥ」
外に出てみるとリリアンが背中から蠍の尻尾や目のない蛇。蛸か烏賊のような触手などあらゆる長いモノを出してルィーズを襲っている。
だがルィーズは短い手足を使って器用にいなしている。ただ不細工とか臭いとか言われて精神的ダメージは負っているようだ。時々自分の顔をペタペタ(肉球だからプニプニか?)触ったり臭いを嗅いだりしてる。おっさんの哀愁すら感じるぞ。ハジエロのほうは血まみれのまま地面に横たわってる。死んだか?
「チッ。虚仮にしてこのド畜生。もういい。あまり派手にやってお姉様に敵意を向けられるかもと思ったけれど。お姉様なら私程度の力などまともに認識さえしないでしょう」
「ありゃ。これは不味そうですな」
リリアンは足を広げ前傾姿勢になる。背中の触手たちが戻っていくが、全てしまった後背中からボコボコとまるで沸騰した水のようになっている。飛び散る体液が地面に触れるとジュッと音を立てて溶けていってる。うん。ルィーズの言う通りこれはなんかヤバそうだぞ。
「無差別に喰らうがいい。我が生命達よ」
まるで噴水のように血肉が天に舞い上がる。落ちてきた肉が地面をえぐっていく。最初はリリアンの周りだけだったのが徐々に範囲を広げていく。このままじゃ俺たちまで巻き添え食うぞ。
「お、おいリリン! なんとかしろよ!」
「わかっている。さすがの我もあれを直に受ければ肉体は一時的に機能しなくなる」
死ぬとは言わないのはさすがだなおい。良いからはよやっちまえ。
「お? 姫さん来てくださいやしたか。じゃ、あっしは退かせてもらいやす」
「だぁ!? 俺も死んだフリとかしてる場合じゃない! リリンたそあとは任せた!」
あ、生きてたか。めちゃめちゃ元気に走ってるから見た目ほど傷は深くないようだ。リリンがハジエロに無反応だった理由はこれだな。死んでたらたぶんクハハつって笑ってたもんな。
「フム。大分高く飛ばしているな。関係ないが」
リリンの影が円を作るように血飛沫ごとリリアンを覆い囲む。範囲を狭めてしばらく待ち、影を戻す。
「あ、あら? お、お姉様いつからそこに?」
「やはり気づいてなかったのか。どれだけお前の認識範囲は狭いのだ……」
「う、も、申し訳ございません。集中すると他に感覚を回せなくなってしまって……」
お~。
「で? ただ暴れに我の庭に来たわけではあるまい?」
「は、はい。もちろんでございます。血族全てに声をかけました。集まるのはわずかでございますが、残りはお姉様がこちらにいる間は大人しく庭にこもっているかと」
「そうか」
「……は、はい」
リリンの言いつけを守ったのにも関わらず簡素な言葉しかもらえなかったからかリリアンはさらに落ち込んだような表情をする。
ん~……。あまり気は進まないが、念のため機嫌を取っておくか。つっても俺自身がなにかするわけじゃないけどな。ただリリンに促すだけ。
「おい、リリン。一応やることやったんだし誉めてやれよ。頭ポンポンとか」
「ん? なぜだ?」
「そのほうが都合が良さそうだから」
「フム……? よくわからんが。まぁお前からこういった提案をされることもないしな。ウム。のってやろう」
リリンはリリアンに歩みより影を使い足場を作ってリリアンを見下ろす。そして頭に触れた。
「んふぁ……っ。あん。お、お姉……様?」
触れられた瞬間。恍惚の表情を見せ快感の声をあげる。触られて感じるところも姉妹っぽいな……。そういう家系なのか?
「よくやった」
「……っ!? お姉様からお褒めの言葉……!」
一瞬驚いた表情を浮かべた後に瞳を潤ませてリリンを見上げる。肉体的快感と精神的快感で今にも気を失いそうな面してるわ。
「う~ん。本当不思議だよねぇ。選血者が誰かになつくなんて」
「うおっ!?」
いつの間にか隣に立っていたネスさん。ビックリするからそういうのやめてほしい。ってかどうやっていきなり現れたんだよ……。どうせ魔法だろうけど。
「そうなんすか? というか選血者?」
「あ~。リリンちゃんの血族たちのことを勝手にそう呼んでるだけ。選ばれし血族の者ってね。本人たちは呼び方とかあんまり気にしないんだけど。私としては区別したいから名称はほしいと思って付けさせてもらった」
たしかに我らが血族とかそういう言い方しかしないな。呼び方はあったほうが便利だし俺も使わせてもらおう。
「選血者はとっても利己的で同時に実力主義なんだけれど。上下関係はしっかりしつつも愛情やらなにやらは欠落してるはずなんだよ。でもリリアン嬢は唯一リリンちゃんにそういう気持ちを抱いている。こちら側に近い稀有な存在なんだよ」
こっちに疎いからよくわからんけど。俺からしたらあんたが向こう側に近いように思えるんですがね。同じ人間なのにリリンよりも得体が知れないもん。
「さて、恐らくリリンちゃんは坊やを守るために牽制として招集をかけたと推測するけど。ん~大丈夫かな?
「その心は?」
「比較的最近産まれた弟妹だとリリンちゃんの恐ろしさを知らない場合がある。強いことはわかってるけど格付けができてないからちょっかいかけてくるかもしれない。お気に入りの坊やを餌に呼び出して一対一の場所を設けたりね」
「……」
な~んでめっちゃくちゃ不安になることを言うかなぁ~? つまりあれだろ? リリアン……よりも質悪いのがいる可能性高いって話だろ? う~わ聞きたくなかったわそんなこと。
「ってわけで気を付けてね坊や。君の幸運を祈ってるよ」
「フケたりしちゃダメっすかね?」
「無理だね。リリンちゃんに捕まって無理矢理連れてかれるのがオチだよ」
だよなぁ~。だってそのために呼び出してんだもんなぁ~。憂鬱だなぁ~。
「はっはっは! そんなに不細工な顔をするなよ坊や。もしも無事に戻ってこれたら良いことをしてあげよう」
「改造なんてされたくないです」
「あ、それも良いね。いやむしろそっちが良い。そっちにしよう!」
「いやいやいや。されたくねぇつってんじゃん」
「なんだよ坊や。フリじゃなかったのかい?」
するかそんなフリ。自虐的にもほどがある。
「改造じゃないならなんなんすか。他だと思い当たることがないんですけど」
「坊やは私をなんだと思ってるんだい? こら露骨に目を逸らすな」
面と向かって狂人だなんて言えるわけないじゃないですかヤダー。事実は時に隠してこそ美徳とされることもあると思うんだ。
「まぁ良い。いずれ無理矢理にでも吐かせてあげようじゃないか。で、坊やへのプレゼントのことだけどね。グリモアに記してあげようと思って」
「何をですか?」
「異界へのパスだよ。君の縁を元に繋がりを明確にするだけだから大したことじゃないけどね。やらなくてもいずれは出会うだろう。つまりは少し未来を先取りするだけさ」
それって結構スゴいことなのでは? リリンみたいなヤツとまた契約が結べるかもしれないってことだよな? 漠然とした先の話じゃなく。ちゃんとわかる範囲の先の話として。
「どうする坊や? いるかい?」
「い、いります。是非お願いしたいです」
リリンだけでも正直手一杯ではあるけど。魔法師として上を目指すならば複数の契約はほしい。リリン以外ともとか我ながら贅沢だとは思うけどな。魔法師を諦めるうんぬんって次元だったのに俺もたった一ヶ月で変わったもんだ。
「変人を見るような目から急に期待をはらんだ目をして。手のひら返しも甚だしいね坊や。気にしないけどさ」
ようなじゃないです。変人を見る目です。仕方ないでしょ普段のあんた見てたら素直になんかしてくれるじゃあやってとか言えないって。
「どちらにしろ。まずは生きてここにまた来ることだね。でないと話にならない。待っているよ」
「うっす……。頑張ってきますわ……」
何をどう頑張るかはわからないけどな。死なないように目をつけられないようにできるだけおとなしくするように頑張ってみるか……。
「なぁ。これいつまでやってれば良いんだ?」
「ハァ……ハァ……。お、お姉様。私……も、もう……んんんんっ!」
忘れてた。
今の今まで撫でられ続けていたリリアンは内股になり歯を食い縛ったりしてナニかを耐えてるように見える。もういっそそのまま満足するまでヤッちまえば良いんじゃねぇかな?
「お、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! ふあぁあぁぁあん!!!」
達した。
細かくは言うまい。
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