80頁目 鬼の名前と桃太郎
「蝕戦鬼に戦鐸鬼に双侍鬼に脂番鬼ですか……」
今、王都スクジャの冒険者ギルドにて、
「何故、それぞれ
そう、名前に問題があったのだ。
「異名の由来か?」
そう彼から
弱点は、風で煙を吹き飛ばせば後は普通の
続いて戦鐸鬼。この個体は移動時には左手に木や金属などで出来た
鐘を破壊したり落としたりすれば普通の鉄大鬼と同じなので問題ないらしい。だから普通の鉄大鬼って何よ。というか鐘持っているだけじゃない。むしろ持っていることの何が問題なのよ。
次の鬼は双侍鬼。両手に二本の刃物を持っている最も動きが素早く攻撃的な鉄大鬼らしい。数は少なく、その理由は仲間同士腕試しで戦うことが多く、それで命を落とすこともあるからだとか。
武器をなくしても
最後は室外機……じゃなくて脂番鬼。ややこしい。より寒い地域などに生息する鉄大鬼で、
そして、とうとう普通の鉄大鬼
とりあえず以上が、今依頼に上がっている銀ランク以上で受注出来る依頼との説明を受けた。
「なるほど」
早くも混乱してしまう。
ちなみに、普通の鉄大鬼とは、銅ランクでも四人以上のパーティなら問題なく討伐出来る程度の強さらしい。魔法もなく、武器は素手もしくは
また
それは置いといて、
「これらはどれも一人ででも受注出来るのですか?」
「ん? まぁ出来るみたいだぞ。ただ、あくまで出来るというだけで、銀ランク以上のパーティ
「ありがとうございます」
あの四種の中では戦鐸鬼が一番弱そうに聞こえるが、良い素材の鐘を持った個体は注意が必要らしい。何故なら、倒した冒険者の
「戦鐸鬼にします」
「分かった。じゃあこれだな」
ギンゼルさんが依頼の書かれた
戦鐸鬼を選んだ理由は、この町から一番近い場所からの依頼らしいからだ。今日中にこなして帰ってくることを見越すと、近い方が良い。
木札を持って受付に戻ると、受付の言語魔法が使える兎型獣人の男性と私の娘(?)であるアネモネが談笑していた。子守、ありがとうございます。
「こちらをお願いします」
「はい。確認しますね」
依頼票である木札とタグを渡す。それを受付が確認していく。
「戦鐸鬼一体の討伐ですね。お一人で?」
「はい」
「アネモネさんはどうされるので?」
「宿を取って、留守番してもらおうかと」
「なるほど。しかし、ライヒでの依頼は初めてでしたよね? お一人で本当に大丈夫ですか? 確かに銀ランクから受注出来ますが、一応パーティ
「いえ、一人で大丈夫です。エルフ族なので、他の種族と足並みを
「ふむ……分かりました。認可します。しかし、まだ幼いお子さんもいらっしゃるのです。決して、絶対に、無茶だけはしないで、必ず無事に帰ってきて下さいね」
「分かっています」
「では、お気を付けて」
「ありがとうございます」
アネモネとギンゼルさんを
それと忘れそうになるが、私はあくまでハーフエルフだ。といってもほとんどエルフと同じで違うことと言えばエルフ族以外の種族の異性と
「え、わざわざ宿なんか取らなくてもウチに泊まっていけ良いんじゃね?
「そういう訳ではありません。ただ、申し訳ないのですが、私には明かせない秘密がありまして、それを知られる恐れがあることは避けたいのです。あなたが悪い人ではないことは、この短い時間である程度分かったつもりですが、それでも内心では何を考えているのかなんて分かりません。ですので、出来るだけ秘密が
「分かった」
次はアネモネに説明だ。
「アネモネ、今から宿を取りに行くわ。あなたは冒険者ではないし、そもそも見た目的に成人しているとは言い
「分かりましたわ」
「ところで、あなたこうして精霊として実体化してはいるけど、元の魔剣の状態に戻ることも出来るのよね?」
「勿論ですわ」
「そう、ならそれで行こうか。それなら宿を出る時も私一人だから怪しまれることもないわ」
「そうですわね。わたくしはお母様の剣ですわ。
「ありがとうね」
話はまとまったので、三人で宿を取りに行く。
宿では、手続きをギンゼルさんに行ってもらい、サインだけを共通リトシ語で私が記入する。無事に個室を得られたので、そのまま荷物を置きに上へ上がる。
「ギンゼルさんありがとうございました。すごく助かりました」
「いや、礼を言うなら俺の方だよ。命助けてもらった上に無実にしてくれたんだからな。これでも足りないくらいだ」
「でしたら、装備の
「おうよ。そん時は格安で請け負ってやる!」
「よろしくお願いしますね」
部屋の前で別れて、私とアネモネは部屋へ入る。早速荷物を下ろして出発の準備をする。
「それじゃあアネモネ、お願いね」
「はいですわ」
そう言った瞬間、ふわりと風が吹いたと思ったらアネモネの姿はなくなっていた。
「本当に出来るんだ」
『ですから出来ると言いましたわ』
「わっ」
驚いた。まさか魔剣の状態で話し掛けてくるとは思わなかった。
「その状態でも話せたんだね」
『え? ずっと話し掛けていましたわ? お母様が気付いてくれなかっただけですわ』
「そうなの?」
『えぇ、ですが、流石お母様ですわ。わたくしの言いたいことを全て認識してくれていましたもの』
「そう、それなら良かった」
実体化して言葉を得たことで、魔剣に戻っても話せるようになったということだろうか。それとも本人が言うように、魔剣の頃から話し掛けていたということは、実体化によって私が彼女の言葉を理解出来るようになったということか。
いずれにせよ。検証することは出来ない。何故なら他に実例もないし、かといってこの事実を誰かに言うつもりもないのだ。
「よし、行こう」
『はいですわ』
部屋を出て、宿の主人に依頼で出掛けてくる
「あの娘さんはどうしたい?」
「あの子は長旅で疲れていましたので、部屋で休んでいます。もしかしたら寝ているかもしれませんので、起こさないであげて下さいね」
「おう分かったい」
この宿屋の主人は語尾が変だ。どこかしら変な要素がないと宿屋を経営することが出来ない世界なのだろうかここは?
そんな疑問を
さぁ鬼退治だ。
私が桃太郎なら、
果たしてこの世界の鬼とはどのような姿で、生態をしているのか。今から会うのが楽しみである。討伐依頼だから倒すけど。
人通りの多い通りを城門へ向けてひた歩く。道中チラチラと、主に男性から視線が向けられるが慣れたもの。気にしない。
城門に
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