60頁目 エメリナ艦隊と魚人島
八月に入った。もうすっかり乾季
「楽しかったけど、気疲れかな? もう色々とあった……」
一応初日に彼女の両親へ
当初は初めてエルフ族が島に来たことで族長含め多くの男性と、一部の女性が興奮し盛り上がっていたが、魚人族の少女がしでかしたことを再び説明すると、その
まだ人間族側には、事件の
よって、事件の調査が進む前にこちらから謝罪を入れて
こうして、またすぐ魚人島を離れた私は三人を連れて
そう掛からない内に、二人の男性と一人の女性を
三人共が軍服のような、しかし部分部分の急所には鉄板っぽい金属で守っている感じの、軽装な騎士
三人の内、真ん中に立っていた人間族の男性が一歩前に出て、自己紹介をしてきた。
「エメリナ兵団リギア所属エメリナ艦隊司令長官、サハギ・ルユ・ラモーだ。話は彼から軽く聞いたが、改めて詳しい話を聞きたい」
厳しい視線に、シェリシュちゃんは泣き出しそう、というか既に目尻に涙が
説明の冒頭で、シェリシュちゃんを初めとした魚人族の子供の勇気を示す遊びで発展したことが原因であることを告げると、サハギさんの両隣に立つ補佐? 副官? が厳しい目を私の後ろに向けるが、身体をずらすことで視線を切らせ、こちらに注目するようにして説明を続けた。
そして、話の最後に、後ろに
最初に会った時の強気な態度が嘘のような変わり様だが、これで人に迷惑の掛かるような悪戯を
魚人島へ行きたいという欲と目的があったとはいえ、このような
一同の謝罪を受けて、司令長官も浅く頭を下げ「謝りに来てくれてありがとう」と言っていただけた。それからサハギさんはすぐにニッと笑った。
「さぁそろそろ頭を上げてはくれんか。まぁ多少面倒な報告書が行き
そう言って大笑いをした。海の男というのは、
ちなみに、シェリシュちゃんの両親から提示されたお詫びの手段は、彼等の
それから、
話し合いが済んでからの私は、再びシェリシュちゃんの家族に連れられて魚人島へ上陸した。
今回の件のお詫びとお礼も兼ねて、おもてなしをしたいとのこと。それならばということで、ホイホイと着いていき、魚人島での生活や歴史について聞き、不明点などは後日、面談の許しを得て族長を質問攻めにした。
水中で暮らすことが出来る魚人族が、何故わざわざ陸上に
元々性に
「何とも迷惑な習慣ね」
性欲というものが
「エルフとしてはまだまだ若いのに、もう
私が同族との子作りを望んでいるのも、あくまで種族の存続と
「まぁどうせするなら、格好いい方が良いけども」
その点も同族となれば問題ないだろう。男女問わず
「
むしろそういう遺伝子が残れば、もう少し異性への関心を寄せる種族になるのではないかと期待もある。まぁそんな都合の良い男性エルフがいれば良いのだが。
「おっと、脱線してしまったわね。記録の続きを書かないと」
エルフ族の将来の不安はとりあえず横に置き、魚人族の生活圏の記録を書き込む作業に戻る。
彼等の家造りは、独特なセンスというか何というか、元々が水中に住む種族であることから基礎や土台の
「どこかの
まぁ彼等の実態はそんな夢の国とは遠くかけ離れたものであったが……
昔は他種族を呼び込み
島は大きく、人も多く住んでおり、魚人族だけで数百人が住むという。町というには規模こそ小さいが、それでも十分発展している。周りを海で囲まれているが、陸上生物に必要な真水も魚人族の多くが水魔法を扱えることで確保出来ているとのこと。
むしろ、真水をリギアに輸出することで生計を立てているのだとか。漁業も漁師と協力して
共食いではないのかと思うが、考えてみれば獣人族でもモデルとなった動物の肉を食べることを思い出す。鹿型獣人だからと野菜ばかりを食べる訳ではない。昔、鹿肉にかじり付いている光景を見た時にはどう反応すれば良いのか分からなかった。
「まぁ鹿肉
集落は全体的な雰囲気としては異世界の原住民の生活という感じがするが、夜になるとその様相は一変する。いや、昼間からでもチョコチョコおかしい部分があるが、あえて無視する。
夜になるとこの島は
とはいえ、普通の飲食店も存在するので、外食したいからとそういった店に行かなければならない訳ではないのが幸いである。ただし、普通の店かどうかは、現地に住む魚人族でない人に聞く必要がある。
普通の飲食店だとシェリシュちゃん親子に紹介されて上陸初日に訪れた店で、最初は出された新鮮な魚料理に
ストリップショーは男女問わず行われ、女性のしなやかな身体にも男性の
「あれは良い筋肉だったわ……いやいや、別に惚れたとかそういうのではないけど」
一人でツッコんで寂しい。こういう時は話し相手がいると良いなと思ったりする。
後で親子を問い詰めた時に、魚人島では普通の店だと聞いた時にはガックリと肩を落とした。翌日、そのことを他種族の住民に話すとあるあるネタとして笑われてしまった。特に性に厳しいエルフ族の姉ちゃんにはこの環境は苦痛じゃないのかと心配されてしまったが、架空の物語でのエルフの扱いはやはり神聖化ではないが、
少なくとも私自身は、他者の裸など里で暮らしていた時に見慣れる程度には見続けていたので今更である。とはいえ、あくまで里の人達は一つの家族だから容認出来た訳で、いきなり赤の他人の裸を見せ付けられたら
それから数日、シェリシュちゃんの家にホームステイさせてもらいながら、魚人島の生活を楽しんでいた……楽しんでいた? うーん、過ごしていた。
というか、
「子供は見ちゃいけませんとか出来ないからなー……」
あの光景を見てしまうと、色々と価値観が崩れてしまいそうで困る。
今回の事件はちょっと行き過ぎてしまったが、それでも子供の悪戯と考えれば、このまま純粋に育って欲しいと思うが難しいだろうなと、シェリシュちゃんと一緒に集落内を散歩していた時に、あちこちから
島で数日過ごした私は、特に何もしていなかったにも関わらず疲れ果て、リギアに戻ってからは昼間にも関わらずそのまま宿のベッドへ飛び込んで眠ってしまった。疲労で眠りに就くなんて、どれくらい振りだろうか……
そして目を覚まして今に至る。
ぼんやりとした頭で、この数日間での経験は、おそらく一生分のエロ本を読んだのだろうなと思う程度には濃かった。ちなみに
一番危なかったのは、ホームステイ先で夜間に私が割り当てられた部屋にシェリシュちゃんが忍び込んできた時だ。ただ甘えて一緒に寝ようというのであれば普通に受け入れただろうが、あの上気した顔をして荒い呼吸で寝床にいる所を
「というか相手子供だし」
子供に手を出すのは駄目絶対。
魚人島は興味深い場所であったが、その一方で色々と危ない場所であった。
興味深いといえば、魚人島で面白い物を見つけた。元々はある家の建材に使われていた深海に落ちていた物だそうだが、それが
手の平サイズの何かの金属片。
特に変わった物でもない為に住人も
それでも私がコレに興味を示したのは、ある一点。ボロボロで非常に分かりづらいが、金属の板同士がネジとナットらしき金属に
「何かの部品だろうけど、まだこの時代に
私の知る限り、ネジが使われている物と言えば父の形見の
旅に出る前は、世界のどこかに機械の国があって、そこから輸出された銃を父が手にしたと思っていた。銃の入手の経緯については、父の口から語られることがなかった為、私が勝手に想像したに過ぎない。
しかし、この金属片を見ると、その想像、仮説は違うような気がしてくる。
この
金属の素材に関しては専門家に聞きたいが、
ついでに荷造りも始める。
といっても、昼前にマルンド島から帰ってきたばかりで、持ち物のほとんどは最初からリュックサックに収められていた状態である。そもそも魚人島に行く際に、荷物を取りに戻る暇もなかったことで、部屋に置きっ放しになっていた。
そう時間を掛けることもなく部屋の中は綺麗に片付けられた。
「さて、行こうか」
私はリュックを背負って部屋を出、階段を降りる。
今日、この町を出る。
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