39頁目 陸の暴れん坊と三人娘の魔法
そう、匂いによる追跡はダイノレクスにとっては
私達はあの覇王竜との戦闘で傷付いて逃走した鎌足虫の痕跡を辿ってきた。
好戦的な
そこまで考えたところで、私の耳に嫌な音が聞こえる。
四人
時間にすると一瞬の出来事だったかもしれないが、この次の動きへと移るまでのこの間が、すごく長く感じてしまう。
果たして、先に行動したのは覇王竜の方であった。
とてつもない
見つかってしまった以上は逃げることは不可能だ。相手はとてつもなくしつこい。しかも傷を
「戦闘に移ります! カトラさんは二人を安全な場所まで……」
「いや、この場合、下手に分散するのは得策じゃねぇ。ここは街道じゃねぇんだ。どこから
「分かりました。
覇王竜が踏み込んだタイミングを見て、
「ここは場所が悪いですが仕方ないです。私は左から!」
「んじゃ、おんれは右だな! ニャギー! 弓矢で援護してくれ! スピルはニャギーの支援だ。魔法は使うなよ。おんれ達が巻き込まれる!」
「メェー!」
「分かったのじゃ!」
相手は丘の上で、こちらは丘の下だ。なだらかな坂とはいえ、この高低差は無視出来ない。しかし仕切り直しは出来ないのでやるしかない。
私は魔剣ノトスを抜いて素早く斬り掛かる。
切れ味の良さは昨日の戦闘で実証済み。現に今もしっかりと傷付けることは出来ているが、
「うぉおりゃあああ!」
カトラさんのハンマーによる打撃も、頭部に当たったにも関わらず、ほとんど
戦闘狂なだけあって、戦い方が上手い。本能で
過去に二度行った戦闘も、このようになかなか有効打が与えられない状況に
時折、後方から飛んでくる矢と、左右からの攻撃に翻弄されているのに加え、最近出来た傷も
それでも、どちらが優勢とも取れない微妙な状態である。
「
手のひらに生成した雷を
「これも駄目か!」
「どりゃあああああああ!」
ノトスが自慢の切れ味を見せようと張り切っているのが分かる。しかし空振りではないが、微妙に思うように斬れていないことに不満があるようで、時折右腕にまとう風が乱れる。
敵が私に気を取られた隙に、反対からカトラさんが空中に
「落ち着いて。大丈夫」
剣にも自分自身にも言い聞かせるに
移動による負傷は回復すれば問題ないが、
使う時は一撃で
「何とか足を止めさせれば、一撃でいけるんだけど……」
以前二度戦った時は、いずれも私の他にも一人が金ランク、他に銀ランクの冒険者四人の総勢六人で対処した為まさに袋叩きであった。あの時は前衛が
「そっちじゃねぇ! こっち向きやがれ!」
遠くからチクチクと飛んでくる矢。威力はさほどないが
周囲の気温が跳ね上がったことからしても、相当高温な炎であることが
あの炎は連続して撃てない。興奮状態によって急上昇した体温を調節する為に、その熱を放出するのだが、逆に言えば体温を上げなければ炎が撃てないということになる。そして今、その熱を放出してしまったことで、一時的にだが文字通りクールタイムに突入した。つまり次の行動まで
「
足を払おうと雷の紐を鞭のように振るも、鉄火竜のように転倒とまではいかず、わずかにバランスを崩すことに成功した程度だ。しかし、そこにすかさずカトラさんがフォローに入ってくれているおかげで、無駄にならずに済んだ。問題は、その一撃も有効打にならなかったことだ。
動きながらも考える。
このパーティでは火力でゴリ押しは不可能だ。そうなると、何らかの手段で
「試すか。
ジャケットの裏から残り少ない投げナイフを全て地面に投げ、雷魔法によって走らせる。
「おおっ! 何だそれ!」
「
「分かった!」
手慣れた動作でさほど時間を掛けることなく陣が
「今!」
「よっと!」
「
魔法の発動に気付いた覇王竜が、
「嘘っ!」
「マジか!」
「「ええええええっ!」」
後ろからも驚きの声が聞こえるが、私も思いっ切り叫びたい気分だ。
拘束魔法は失敗。あの魔法が私の中で一番拘束力のあるものだったので、私には他に手段はない。一応もう一度陣を描いて発動することは出来るが、
「他に手段は……」
拘束魔法が効かないからと
手に持つ武器では手段がないので、魔法に視点を移し
私が使えるのは雷魔法と回復魔法。後、ノトスの限定的な風魔法。
攻撃には良いけど、相手の動きを封じるには手札がない。というか縛雷が優秀だったからアレばかりに頼っていた。幅広く雷魔法の応用を身に付けていたつもりだったが、まだ覚えなければならないことが増えた。とりあえず、反省は後にして思考の
次にカトラさんは、身体強化と振動魔法。身体強化の練度の高さは見ていて分かる。セプンよりも
ニャギーヤさんは水魔法。エスピルネさんは土魔法。二人もカトラさんの振動魔法同様威力は不明だが、いずれもあの暴君を止めるには難しいだろう……
「いや」
確かに一人一人の魔法ではどうにも出来ない。だからといって手がない訳ではない。そして、思い付いた。
「エスピルネさん!」
「なんじゃ!」
「土魔法で敵周辺、出来るだけ広い範囲の
「どういうことじゃ!」
「この硬い地面を
「よく分からんが分かったのじゃ!」
そう言って、集中する為か目を閉じて呪文詠唱に入る。それを横目に、今度は視線をニャギーヤさんに向ける。
「ニャギーヤさんは、耕された地面の下、出来るだけ深くまで水を流し込んで下さい!」
「メェ! み、水を流すんですね! 分かりました」
彼女も弓矢による支援を止め、短い呪文、短文詠唱を唱え始める。
いけない。あの子達とこの子達を比べるなんて……それに、今はない物ねだりをしている場合でもない。
間もなくして、ニャギーヤさんが詠唱を完了させるタイミングに合わせて、エスピルネさんの詠唱が間に合った。
「いくぞ、
「メェー、
魔法は発動するも見た目にはあまり変化はなく、また覇王竜も元気に暴れ回っている。これでは、まだ水を含んだ地面であるので、これだけでは意味がない。しかしここに一押し出来る存在がある。
「カトラさん! 振動魔法を!」
「何か分からんが、いくぞぉ!
まさかの無詠唱。苦手と言っていたのはどういうことなのか。
地面へと打ち下ろされたハンマーを起点に発動した魔法は、地面を
突然の揺れに驚いたのか、遠くで鳥が飛び立つ姿が目に入った。
覇王竜も
「何っ!」
本日何度目かのカトラさんの驚きの声を無視し、今度は相手の真上、空中に雷魔法で魔法陣を描いていく。
「縛雷!」
拘束力は先程のものよりは落ちるものの、下半身のほとんどが埋まった状態では抵抗が難しいのか、
「お待たせ」
続く「ノトス」という言葉は口に出さずに飲み込むが、それを理解しているのか、ようやく出番かとやる気を出したノトスが風を出し、私の周囲を駆け巡る。
「おい、それ」
「メェ? 風……魔法?」
「魔法が三つ……じゃと?」
仕方がないとはいえ、後で口止めするのが面倒だと思いつつ、自身に疑似身体強化の魔法を掛け、それに合わせてノトスを中心に雷をまとっていく。
狙いは心臓。尻尾含めて下半身が埋まった状態のおかげで上体が上向きになった。そのおかげで先程までの
巨体の為、標的が若干高い場所になってしまうが問題ない。
ノトスを構える。
この最速の一突きで、終わらせる。
「
地を蹴った私は、勢い良く飛び込み剣を突き出した。
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