35頁目 共同依頼と女子トーク
朝の王都ギルドでの依頼受注の際に起こったトラブル。私の立つ受付の左隣で「受注させろ」「させません」の押し問答もミリシャさんが間に入ることで解決へと向かうようだ。
「これって、ランテ村からの依頼ですか。なるほど、
ん?
「え? あぁ、
あれ?
「カトラさんでよろしいですか? 隣のエルフの女性、フレンシアさんの同行を認めていただけるなら、この依頼受注承認出来ますよ?」
おーい。
「本当か? ならそれで良いや。で、こいつのランクは?」
「今は金ランクですね。ですので銅のお二人の同行も問題ありませんよ?」
「よっしゃ、それなら問題ねぇな。フレンシアだったな? よろしく」
私の意見を挟む暇もなくとんとん拍子に話は進んでいき、いつの間にか一緒に依頼をこなすことが決定してしまった。
「分かりました。よろしくお願いします」
だが、断る理由もない。季節外れの鎌足虫の動きの原因も知りたいし、彼女達と交流を持つのも悪くないだろう。久々にパーティを組んでの依頼ということに、私は内心ウキウキしていた。
「では、出発前に軽く自己紹介から」
調査依頼と、その後の討伐依頼という合同依頼の承認を得た私達四人は、ギルドの
カフェスペースといっても、いくつかのテーブルと椅子が並んでいるだけの休憩所で、ここで飲食や休憩をしたり、今みたいに依頼達成に向けての話し合いの場として活用されたりしている。また、外部に話が
「じゃあ、まずはおんれからだな。おんれはカトラ・ティルス。見た通り虎型の獣人だ。銀ランクで武器は
最初に自己紹介をしたのは女性三人パーティのリーダー、カトラさんであった。
同じ金髪と翠色の目ということで親近感が沸く。本人は見た目に
「それでは、次は私が。ハーフエルフのフレンシアです。金ランクで武器は片手剣と弓矢を扱います。魔法は雷と回復がありますので、攻撃も補助も
「お、雷とは強そうだな。おんれは、身体強化と振動だな。ただまぁ、振動の方は上手く扱えなくてな。あまり使わないな」
「面白そうですけどね。振動魔法」
苦手と本人は言うが、振動魔法と名前を聞く分には、色々攻撃の幅が出来て使えそうだなという感想が浮かんだ。
魔法の研究者でも専門家でもないので、どの魔法がどんなことが出来てどんな効果が得られるのかまでは分からないが、漫画やアニメの技を再現しようと日夜努力を続け、少しではあるがそれが出来ている私からすれば、どんな魔法にも限りない広がりがあるのではないかと思っている。
「おい、お前らも自己紹介しろ」
「メェー! はい、ニャギーは、ニャギーヤ・ワンドです。
「ワシはドワーフのエスピルネ。同じく銅ランク。武器は片手剣と盾じゃな。土魔法が得意じゃ。よろしく」
ニャギーヤさんは山羊型獣人と言っていたが、女性だからツノはないようだ。髪型は真っ白な髪の若干癖のあるセミロング。前髪もすごく長く、両眼とも隠れており鼻を超えている。それで前見えているのだろうか。
エスピルネさんは
ニャギーヤさんは細身で、身長はこの四人の中で一番高いのではないだろうか。おそらく一七〇ナンファ前後。カトラさんは私と同じくらい。腕や脚の太さが一回り以上違うが。エスピルネさんは、ドワーフ特有の低身長で一四〇ナンファくらい。ドワーフらしいというか女性特有の丸みを帯びた体格がとても可愛らしい。若いから当然顔にシワなどはないが、言葉遣いが結構年寄り臭い為か、一〇代後半の割に老けている印象がある。
銅ランクの二人とも形やデザインなどは違うものの、革製の防具を身に付けている。エスピルネさんは前衛に立つことから一部鉄をあしらった物になっているが、
「こいつらはつい最近新米を卒業したばっかでな。それで景気付けに依頼に連れて行こうと思ったら止められて困ってたんだ」
「そうだったんですね。せっかくの初依頼ですのに一緒に行くことになってしまい、すみません」
「いや大丈夫じゃ。仮にあのまま依頼を受けられたとしても、指導員がこのカトラではな」
「おいこらどういう意味だ」
「ほっほほー、新米時代から戦闘以外では手を焼いてきたからの」
「メェー……え、えと、カトラさん格好いいと思います!」
「ニャギー、それ助けになってねぇよ……」
何となくこの三人の関係性が見えてきた。このやり取りをぼんやりと眺めていると、二ヶ月程前に新米を卒業したセプン達四人を思い出す。
元気にしているだろうか、怪我していないだろうかなどと考えるも、彼らは彼らの道を
「最初の目的地はランテ村。ここで聞き取り調査を行ってから、目標の
「一応、依頼を出されてから一週間以内となっているが、既にギルドでの精査などで時間取られている。四日以内とみて良いだろう」
カトラさんの答えに私は頷く。
「では、移動や調査、報告の時間も欲しいので活動期間は二日としましょう」
「は、はい」
「良いと思うぞ」
「よし、そんじゃあ、出発だな」
「あ、待って下さい」
席を立とうとした三人を引き留める。
私の依頼は鎌足虫の討伐である。彼女達が二日で十分な情報を集められたら、すぐに動く予定だ。だが、そうなると依頼終了の時間がズレてしまう。その為、ギルドへの帰還日時が違う可能性があることをあらかじめ報告しておく必要がある。でないと銀以上二人監督の下だから認められた銅二人の同行許可が、私一人いないことで報酬受け取りの際にトラブルになる可能性があるからだ。一応、このことはギルドも了承しての共同任務であるだろうが、念の為に報告しておくことは無駄ではないはずである。
このことを三人に説明し、まとまっった話を再度受付に座るミリシャさんに伝える。
「分かりました。くれぐれも無茶をしないよう気を付けて下さい」
「ありがとうございます」
打ち合わせも終わり、ギルドへの報告もしたことで今度こそ出発である。しかし、先日オボス村での依頼の時は私一人であった為に徒歩であったが、同行者がいるのなら馬車の方が良いだろう。
期間も決まっていることだし、ここは時間と体力の節約の為にと馬車乗り場へと向かう。
「あっついなー」
「我慢して下さい。この炎天下の中、歩くよりはマシですよ」
馬車に揺られ始めてしばらく、強い日差しを
ハーフエルフの私やドワーフであるエスピルネさんはある程度の暑さには耐性があるので問題ないだろうが、獣人の二人、特にカトラさんは汗だくである。
トラは熱帯のジャングルなどの気温も湿気も高い地域で暮らしていることが多いから、彼女も耐性があるイメージだったのだが、違うらしい。
「しっかし、手慣れてるな。ランクも金だって言ってたし冒険者長いのか?」
暑さを
「はーえらく若い見た目だけど、結構熟練なんだな」
「熟女じゃないです」
「いや、言ってねぇよ」
そんな軽口が言える程に、私と彼女達との距離は縮まっていた。
これから一緒に依頼を受けるのに、コミュニケーション一つも取れないようでは、連携なんて無理な話だ。よって、依頼前には積極的に交流を
仕事の話だけでなく、何気ない世間話を
携帯電話もインターネットも存在しないこの世界では、人と人との繋がりこそが重要な情報源である。ただし、ナンパ目的の交流は受け入れられない。自身の
「メェー、あの、フレンシアさん」
「はい」
「フレンシアさんも弓矢を使うのですよね? 私もっと上手くなりたいので、
「良いですよ。とはいっても、新米を卒業出来ている時点で、ある程度十分な技量はあると思いますので、後は地味で地道な訓練をひたすら続けるということくらいしか思い付きませんが……」
ここで一度言葉を切り、少し考える。
私の場合、幼い頃より森で修行をしたり、冒険者になってからも
「私の場合、一人で活動していることが多いので、弓矢だけでなく剣も扱えるようにしたのですが、これが意外にも剣の間合いを把握することが出来、それによって弓矢での間合いの取り方を考え直す機会にもなりました。もし、今の訓練に行き詰まっていましたら、一度弓を置いて、別の武器を手に取ってみるのも良いかもしれませんよ? すみません、上手くなる為の助言ですのに、別の手段を
「メェ! 大丈夫です。ありがとうございます」
「まぁ、まだこいつの実力も見ねぇでいきなり助言しろって言われても難しいだろうがな」
お礼を言うニャギーヤさんに対し、カトラさんは「がははは」と豪快に笑い、その横でエスピルネさんが「
「よし、じゃあニャギー、お前最初に攻撃しろ。そんでその技量の高さを見せつけてやれ」
「メェー!」
「いや、調査依頼なのに攻撃したら駄目じゃろう」
「その役目は私が
「まぁ、お前さんの依頼じゃが、先に観察、原因究明してからじゃ」
エスピルネさんがツッコミ役として定着しているような気がする。
カトラさんが突撃し、ニャギーヤさんがそれに振り回され、その後ろからエスピルネさんがやれやれと首を振る
その考えが顔に出ていたのか、
「何じゃ?」
「何でもないですよ?」
何気ない
「
ニャギーヤさんとエスピルネさんの装備は、初心者用という感じの武器であったが、カトラさんのハンマーは中々の物だという印象を持った。しかも使い込まれているのが何となく分かるのに、手入れが行き届いている。非常に大きなハンマーは馬車の中では自身の足下に置き、移動時は腰のベルトに固定しているようだ。
「よし、それじゃあまずは情報収集からだな」
「メ、はい!」
「うむ」
「分かりました」
リーダーの掛け声にそれぞれ反応を示し、馬車がランテ村に入って停車したところで、ぞろぞろと降りた。
今は昼前ぐらいか。
日差しは強いが馬車の中よりは湿度がない為マシのようで、カトラさんやニャギーヤさんはすっかり元気である。
それぞれ顔を見合った私達四人は、依頼の確認の為に村長の下へと向かうのであった。
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