34頁目 冒険者ランクの仕組みと季節外れのモンスター
武器を受け取った翌日、使い心地を確かめる為に
「うーん、良いの残ってるかなぁ」
ようやくボード全体が見える位置まで来ることが出来、軽く
「またタルタ荒野か」
タルタ荒野はジスト王国の北西部の大部分を占める、非常に広大な荒野だ。かつては炭鉱の町として
鉱石の質と量からすると、西端にそびえるカヨレハギユ山脈から
またジスト王国の北西端には、ベベリー王国との国境が近く取引も
「前行ったオボス村よりも若干南かな?」
今回依頼があったのは荒野の南東部、ランテ村付近を通った行商人から。
タルタ荒野はとても広い為、中央部にあるカルサ山を境に南北に分けられ、そこから更に東西の四つに分割されて各町が担当することになっている。特に厳しい取り決めがある訳ではないが、広い土地であることから距離的な問題での解決策だ。
これによって、カルサ山の南西部をルックカが、北東部と南東部を王都が、そして北西部をシトンが受け持つ形となっている。
「鎌足虫は乾季に活発になるはずだけど」
鎌足虫はカマキリのような形をした中型怪物で、暑季の頃から活動を始めるが、基本巣から動かずに待ち伏せして
しかし乾季に入ると、寒季に向けて子孫を残すべく巣から出て異性を求めて活発に動き、また特にメスは産卵の為に栄養を確保しておきたいからと、より凶暴になることから危険性が増し討伐依頼が出るようになる。
この時期から巣を出て活動しているということで、危険性がある為に討伐して欲しいとのことだ。
「理由は分からないけど、放っておくことも出来ないし、それに……」
口には出さなかったが、試し切りには丁度良いと刀を新調した
依頼票を
歳は二〇と若く、元気で明るいので人気がある女の子だ。しかし、一ヶ月近くギルドを出入りしているが彼女から浮いた話を聞いたことがない。以前、そういった話題を振ってみたのだが「私は今の仕事が一番なんです。それ以外のことは、今は考えられないですね」と言っていた。まだ若いから良いが、結婚出来る時にしておくと良いと思うのは、今世ではなく前世での自身の体験から来るアドバイスである。
ちなみに、今の私はハーフでもエルフ族であるので、若い期間が非常に長く婚活を急ぐ必要はまだない。ないが、エルフ族は元々結婚願望が薄い種族であり、そのせいであまり人数が増えない。
寿命が長いおかげで減ることもほとんどないが、今後のことを考えると、私も子孫を残すべきであろうとは考えている。もし、そうなると、同じエルフ族が良いだろうが……少なくとも里の人達は、異性同性どうこうというより、もう
そもそも異性として意識していたら、全裸で外に出られない訳で……いや、ルックカでも裸ではないが、下着姿でうろついてニャチルさんに怒られたし、リンちゃんと
もしかしたら、女子力以上に女性という生き物として終わっているのではないかと考えてしまう。
「ミリシャさんは、私のようにはならないで下さいね」
「え、いきなりどうしたんですか?」
「何でもないです。忘れて下さい」
「はい?」
「すみません、依頼の方はどうですか?」
「はい、大丈夫ですよ。これで
毎回、それこそ
そんなことを考えていたら、左隣の受付で激しくテーブルを打ち付ける音がしたので、そちらへ注意を向ける。ミリシャさんも気になったのか、
「だから、おんれがいるから大丈夫だって言ってるだろ?」
「た、確かに、この依頼は少なくとも銀以上の冒険者対象となっていますので、カトラさんだけが受けるなら大丈夫です。ですが、銅二人を同行させるとなると、話は別です。少なくとも後一人は、銀以上を入れてもらう必要があります」
虎型の獣人のカトラと呼ばれた女性が、まさに肉食獣という感じに
「なるほど、ランクの問題でしたか」
依頼票を覗いていたミリシャさんの
ランクとは冒険者ランクのことで、これまでの
しかし、一つだけ共通ではないことがあり、それは金ランクよりも上にランクを
ランクと強弱はイコールではないが、かといってランクが高い程長く冒険者を続けており、数多くの実績を積んできた人が弱い訳もないことから、いわゆるどれだけの戦力を保持しているかを主張すべく作られたと言われているらしい。それももちろんあるだろう。しかし、実際に冒険者業に携わる側からすると違う面もある。
他国で冒険者活動する際に、自国で銀ランクだからと、他国へ行っても同じ銀ランクの依頼を受けられる訳ではない。あくまで自国で活動して得た評価が銀であるというだけで、他国でもそれが通用するとは限らないのだ。
国が違えば言葉や文化、宗教も考え方も違う。食事、風土だって肌に合わない人だっているだろう。何よりその国へ何も貢献していないことから信用がないのだ。よって、自国で銀ランクの冒険者が、他国へ行っても銀ランクの依頼を受けられることはない。つまり、他国は他国で改めて貢献度を上げる必要があるのだ。
しかし、それでは冒険者が他国で活動する機会を
「お隣は大変ね」
ちなみに、銅ランクと、それより下の新米冒険者はこれ以上ランクを下げることが出来ない為、他国での冒険者活動は出来ないことと決められている。理由として、低いランクの冒険者をそのまま他国へ送り出して、そこでトラブルを引き起こした場合に所属する国の信用問題に関わることから、他国で活動が認められるのは銀ランク以上と制限されているのだ。
あくまで冒険者活動が出来ないというだけで旅行などを行うことに制限はなく、国同士の仲が悪くなければ割と自由に行き来出来る。銅ランク冒険者でのんびり外国旅行が出来る程の資金があるのかは、別の話である。
話は戻るが、国によっては金ランクの上に、一つランクが作られている場合がある。これは、他国で活動する際に、いきなり金ランクから開始することが出来るようにするというもので、各国協議の上で、その制度が設置出来る国は決められている。
ジスト王国もそれが認められている国の一つで、私もかつては金よりも上の
「引退したはずが休業扱いになっていたわね。ジルめ……まぁそれでワンランクダウンで済んでいるから助かるけど」
新米冒険者は実力さえあれば短期間で卒業して銅ランクへ昇ることが可能だが、そこからは地道にコツコツと活動していく他ない。
依頼をこなす
一度銀や金になったからといって、素行が悪かったり犯罪に手を染めてしまったりすると降格、もしくは冒険者権利
私の場合、現役時代はそれこそエルフの食事や睡眠がほぼ不要という丈夫さを利用して、一〇年という短い期間に数多くの依頼をほぼ毎日こなしていた。採取や調査、討伐関係なく、依頼が出されていたら片っ端から受注し、近場の依頼が重なれば、一日に最大三回も依頼をこなしていた。その結果、わずか一〇年で紫水晶まで上り詰めることが出来たのだ。
ただ、全てが順調だった訳ではない。大怪我をすることもあるし、防具が壊れることもあった。何より素行の悪さが足を引っ張ることもあった。特に犯罪や不良行為を行ったとかではないが、今回冒険者に復帰してから既に三回、六ヶ月弱で三回もギルドを通さない直接依頼を受注している。
「ほんと、何で降格や
ギルドからは正式に、直接依頼受注に関する
弁解させてもらえるなら、目の前でいきなり緊急事態が発生した時に対処しなければ被害が拡大すると考慮しての行動が大半であり、実際にその後の事情聴取でもしっかり裏取りも行ってもらったりして、ほぼ
しかしそれでも、活動を続けてきたおかげで紫水晶まで行けたのだ。
私自身に才能がなかったとは言えない。前世の記憶があるだけで十分チートなのだ。そしてその精神が
ランクには興味ないが、やりたいと思った依頼を低ランクのせいで受けられないのは嫌なので、前回程
考えにふけっていると、どうやら話し合いがまとまりそうな感じがするので、そちらに意識を向けることにした。
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