14頁目 タルタ荒野と試験内容
「ということで、卒業試験の内容が決まったから早速行くわよ。半刻後に出発するからさっさと準備すること。その間に馬車の手配をしておくわ」
演習場に到着し、今日も変わらず訓練を続けている四人の元へ向かった私は、開口一番こう告げた。その言葉に四人全員は固まり、頭から「?」が飛び回っているのが
最初に
「教官? ということと言われても、何も分からないのだけど?」
「そうだぜ、そもそも今日は誰の卒業試験だ? コールラか?」
セプンの質問に首を振る。
「全員よ。四人全員。だからさっさと準備する」
「はぁ? んなの出来るのか?
「小飛竜二体に
「問題あり過ぎだろ馬鹿!」
「教官に対して馬鹿とは。セプン、また腕を
「いえ! 今すぐ準備に行ってくる!」
そう言って、セプンは走って演習場から去って行く。
「ほら、あなた達も急ぎなさい」
「は、はい!」
コールラが走り出し、それに続いてチャロンとエメルトもこの場からいなくなる。
「さて、こちらも準備するわよ」
「鬼教官ね」
「え、えーと、馬車ですね。すぐに手配します!」
ジルの呟きはスルーし、イユさんには礼を言う。その場は解散し、半刻後に馬車乗り場で集合と取り決めた。
宿屋に戻った私はもうお
水筒と言っても、当然
人間族やドワーフ族などの加工技術を持っている人達は、金属製の水筒を持っているが、保温性などはなく、ただの
「行ってきます」
「おう! 気を付けてな。フレ吉!」
「フレンシアです」
部屋を出、店主に依頼で出掛ける
依頼のあったタルタ荒野は、ルックカの北部にある広大な荒野で、ジスト王国の北西部のほとんどを占めている。広い荒野であるが、今回依頼のあった場所はルックカにほど近い街道で、馬車で片道おおよそ半刻弱程度だ。もちろん馬車のまま縄張りに入る訳にはいかないので、少し前で
馬車乗り場に着くと、馬車を手配する為にあの後直接ここに来たジルとイユさん、そして、足も速ければ準備も早いのか、遅れてスタートしたはずのエメルトが
乗り込む際に、御者から分厚いクッションが渡される。馬車は振動が激しいので、これで衝撃を
揺れる荷台、ついでに私のそれなりにボリュームのある胸も揺れる。それを
そろそろ魔法薬の補充を考えなければならないが、道具は里へと置いてきた。自分自身だけの旅ならほとんど使うことないだろうと思い、
よし、余分な防具は売ろう。最近全く装着していないし、今後も使う予定がなくなってしまった。今着ている民族衣装は、たまの息抜きで着る予定で持ってきただけだったのだが、今はすっかりこっちの方が
防具を売って、民族衣装を着るので、元々服が入っていたスペースが
魔法薬作りだけでないが、何事も日々コツコツと行い継続することで
何度も読み直してボロボロになっている薬学事典のページをめくり、暗唱出来る程読み込んだ文にまた目を通す。そうしていると、段々と馬車の速度が落ちてきているのに気付いた。
「さて、降りる準備をしようか。ここからは歩きよ。ほらセプン起きて、出発よ」
各自へ声を掛け、準備をしていく。完全に停止したところで、順番に荷台から降り、御者へお礼を言う。
「それじゃあ、行こうか。岩場もあるから、足下に注意してね」
「教官、もしかして
「まぁ教官だからな」
「何か
コールラの言う通り、討伐が比較的に楽となる森ではなく町の北部での依頼を中心に探していたのだが、丁度良い依頼が入ってくれて良かった。とはいえ、遅かれ早かれいずれは出てくるであろう依頼であったので、ただ依頼が出されるのを待つだけで良かったのだが。
「それじゃあ、移動しながら聞いてね。それぞれの担当を割り振るわ。オスの小飛竜はコールラ」
「はい!」
「次、メスの小飛竜、エメルト」
「……うむ」
「次、これは準大型だから二人での討伐。闘飛虫にセプンとチャロン」
「おう!」
「は、はい!」
「以上よ」
各自の返事を聞き、話を
「一応、人選の理由を聞いても良いかしら?」
「この四人の中で一番戦闘能力が高いのは、間違いなくコールラよ。槍による間合いの長さを生かした近中距離戦。突くだけでなく棒術を
コールラを見ると嬉しそうに
「次にエメルトは、双剣による前衛も出来るし、風と土の魔法による後衛もこなせる器用さを持っている。高い機動力を生かして、素早い
「……うむ」
「攻撃魔法が撃てるのが、この二人だけだから、小飛竜との相性が良いのも選定理由にあるけど……二人は、まず接近戦を仕掛けるように。これは試験だからね」
「分かったわ」
「……心得た」
最後に、闘飛虫と戦う二人の説明に入る。
「闘飛虫は……準大型でその素早さと高い攻撃力は十分
「おうよ! 任せとけ!」
「は、はい、その、が、頑張ります!」
二人が気合いの入った返事をし、それに頷きで返答する。ジルやイユさんは彼らの実力を疑っている訳ではいだろうが、やはり依頼受注数、達成数ゼロでのいきなり卒業試験。しかも冒険者デビューしてわずか三ヶ月でだ。不安は隠せないのだろう。
「大した自信なのね」
「事実よ。それに、成り行きで引き受けた依頼だったけど手は抜いてないわ。後は彼ら
「は、はい。お任せ下さい」
その私の様子に、何とも言えない表情の二人だが、これ以上言うべき言葉もないので、以降は特に会話もなく荒れ地を進む。すると、遠くから、二つの羽ばたく音が聞こえてきた。音が似ているということは小飛竜の
「さて、小飛竜が来たわ。じゃあ、頑張ってね。
「はい!」
「……参る」
戦闘開始だ。
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