第21話 妖刀
それから俺たちは細く狭い通路だったり異様に滑る床の部屋だったりを抜けて遺跡を踏破していった。
魔獣もハイエナウルフやローパー種等がそれなりに現れているが細く狭い通路の時は俺の初級魔法連発で1体ずつ潰していける。仮にダメージ1でも離れて打ち続ければいつかは倒れるのだ。
逆に大部屋での戦闘や乱戦になると途端に俺は役立たずになってくる。相手の攻撃も受け続けられないし剣での攻撃も決定打にはならない。
適当に初級魔法を打ちまくってフレンドリーファイアなんて最悪だ。俺の魔法で倒れる味方はないと思うが隙を作ってしまう。その隙が命取りになりかねないしな。
そういう戦闘では黙ってるしかないのがとてもみじめに感じてしまう。
そんな中、事前情報どうりに宝箱がある部屋も見つける事ができた。祭壇の様な物の上に古いが高価そうな宝箱が置いてある。
「おー宝箱や!なにが入ってるんやろ!金銀財宝とかかな?」
「今財宝持ってても邪魔になっちゃうよね。」
西城と東雲さんはそう言いながら宝箱に近づいて行った。やはり宝箱と言えば普通そういう物を想像するのだろう。
だがゲーマーは武器防具が入っていると確信してしまう。たまに薬草とかでガッカリしたりするけどな。
「とりあえず開けてみようか。」
「ワクワクしてしまいますわね!」
「ん?これは・・・壊れた壺やらのガラクタか?ハズレだったみたいだ。」
勇人がそう言いながら箱を締めようとしたが一瞬ピンときた。こんな重要そうに置かれてある宝箱だ。何もない事の方が少ない。
「ちょっと待って!もしかしたら・・・やっぱり!二重底になってた。」
勇人の言っていたガラクタをどけて宝箱の底をずらしてみるとそこにはボタンの様な突起があった。
「ボタンみたいなものがあったけど押してみてもいいかな?」
「大丈夫なのか?罠だという事もありえるぞ。」
「おかしな気配もないですし大丈夫だとは思いますが・・・」
「何かあってもいいように警戒は強めておきましょう。」
勇人の問いにエミリア王女とギャレスが答える。よし。押してみるか。
ゴゴゴゴゴ
重々しい音と砂埃と共に祭壇の前面がせり出してきた。なかなかに派手な仕掛けだな。
「えーと。中に入ってるのは・・・これは剣?にしては細長くて若干曲がっているようだけど・・・あ!もしかして前にドワーフが話していたカタナってやつかな?」
メーシーがそう言いながら祭壇から中の物を取り出した。うん。実物は見た事ないけど俺がイメージする刀っぽいな。漆黒の鞘に漆黒の刀身、鈍い銀色の波紋がとても目を引く。鍔の部分が竜の顔の様な物になっている。なんだろう?業物って感覚だ。
それにドワーフってあのドワーフかな?
「メーシー。ドワーフって?以前言ってた種族の他にドワーフって種族もいるの?」
「ああ、違う違う。エルフの中のドワーフ種って事。わたしがダークエルフ種ってのと一緒だよ。この種は物作りが凄く得意なんだけど前にあるドワーフが偶然手に入れたはいいんだけど全く再現出来なかった武器があるって話してのを思い出したんだ。」
「それが刀か。」
「多分ね。造形が聞いてたものとそっくりだから間違いないと思う。」
日本でも弟子不足の問題もあって刀を打てる職人がいないと聞くけどこんなに武器が溢れているこの世界でも刀は特殊なんだな。
刀使いってかっこいいし憧れるところがあるけど、そうだな。
「勇人。お前この刀使ってみたらどうだ?なんだかレアっぽいし凄い能力とかがあったりするかもしれないぞ。」
「なんや須藤。あんた自分で見つけたもん人に譲るんか。お人よしにも程があるんやないか?」
「別にそういう訳じゃない。ステが乏しい俺が使うよりも攻撃力、速度がある勇人が使った方が絶対に効率が良いと思ったからだよ。」
そう。俺が使って宝の持ち腐れになるのはもったいないと思ったからなんだが。
勇人が刀を持って少し確認するように振ってみるが微妙な顔をしたな。
「・・・いや。せっかくだけど遠慮させてもらう。持った感じしっくりこないし聖剣技も打てない気がする。」
「そっか、なら仕方がないか。とりあえず俺が持たせてもらおうかな・・・!?」
勇人から刀を受け取った瞬間に電気が走ったかの様な感覚があった。
今まで使っていた騎士剣と違い妙に手になじむというか俺の持つべき武器はこれなんだという確信まで持てる程だ。刀なんて見た事も触った事もないんだけどな。
ん?なんだ?違和感?じゃないけど・・・ああ、この刀微量だが俺の魔力を吸ってるみたいだ。俺自身はリカバーがあるから俺の魔力は減らないわけだ。
吸われる分より周囲から集める魔力の方が多いみたいだし。よく色々なところで出てくる妖刀ってやつかもしれない。
少し怖い気もするけど混乱したりおかしくなっている気もしないし俺が持つべきだっていうのはあながち間違ってないかも知れないな。
「どうしたの銀次君?」
「ああ、東雲さん。心配ないよ。ちょっと新しい武器が手に入って興奮してるのかも知れない。」
「ふふ。銀次君も男の子なんだね!」
まあ憧れていた武器って意味ではホントに嬉しいけどね。
それから少し進むと大きな岩の固まった人形の様なものが2体道をふさいでいた。これは・・ゴーレムとかいう奴じゃないだろうか?
「ロックゴーレムだ!動きは遅いけどパワーがあるから気を付けてね!」
やっぱりゴーレムか。
「こういうのは俺の出番だろ!」
「亮汰!あまり魔力を使うなよ!」
「わかってるって![パワーナックル]!」
わかってないだろう。
ゴイィン!
「か、固てぇ!パワーナックルで強化してんのに岩殴ったみてぇだ!」
ロックゴーレムだからな。岩だろう。
ガアアア! ドン!
「ぐあああ!痛ってぇな!」
ロックゴーレムの拳が亮汰を吹っ飛ばした。ダメージは大きくないようだが亮汰を吹っ飛ばすとは見た目通りパワーがありそうだな。
「カセ殿!ロックゴーレムは心臓部分に強い攻撃を与えれば倒せますぜ!」
「わかったぜ!うおおぉぉぉ!どりゃあ!」
ドガアア! バキン!
グオオオオアア・・・
ジャンプしながら放った亮汰の拳がロックゴーレムの心臓部分に直撃し何かが砕けた様な音と共にロックゴーレムは沈黙した。
「はぁ、はぁ、はぁ、や、やったぜ・・あと一体・・!グッ!重てぇ!」
もう一体のロックゴーレムが亮汰に襲い掛かってくるが亮汰の魔力も少なくなってきてるのだろう厳しそうだ。だから言ったじゃないか。
「加瀬君!下がって![マジックアロー:
ギィィイン!
「あれ?あんまり効いてない様な・・・」
ガアアアアア!!
「マユミちゃん!ごめん!ゴーレムには魔法攻撃の効きが鈍いんだ!上級魔法ならいけるんだけどね。ホントは打撃が一番有効なんだ。斬撃も岩とかを切れちゃうような使い手ならいいけど・・・騎士団でも団長殿とギャレス君ぐらいかな。」
「ギャレス行けるか?」
「へい。いつでも。」
メーシー曰く打撃以外ではなかなか厳しいようだな。ギャレスならやれるようだけど少し試したいというか試せと言われてるような気がするのだ。
「ちょっと待ってくれ!俺がやってみてもいいかな?」
そういいながら刀を鞘から抜くと刀身がぼうっと青白く光っていた。やはり。俺の魔力を吸って刀に蓄積されているようだ。
「ギンジ殿?申し訳ないが初級魔法でゴーレムは・・おや?その剣は先程の・・?」
「ええ、なんだか魔力を吸い続けて溜めておけるみたいですね。勝手に吸われてるんですけど。」
「なるほど。ギンジ殿以外では倒れてしまいそうですね。強いエネルギーを感じます。是非よろしくお願いします!」
よし。一歩前へでてゴーレムと対峙した。唸り声をあげながらこちらに近づいてくる。
「おい須藤・・大丈夫なんか?」
「あまり無理しない方がよろしいのではなくて?」
西城と姫崎は不安そうな顔をしている。それはそうだろう。今まで俺が剣で相手を倒した事なんてほとんどない。いつも後ろからちまちま魔法打ってるだけだからな。
「ああ。大丈夫、だと思う!おおおお![
突如頭に浮かんだスキル名を叫び刀を振ると青白い魔力の斬撃が2つ交差しながらロックゴーレムに向かって飛んでいった。
ザンッ!
斬撃がロックゴーレムに直撃するとロックゴーレムは身体が中心から×の字の様に4つに分かれてそのまま絶命したようだ。心臓部分には当たっていないはずだけど・・・
「ギンジ君凄ーい!バラバラになっちゃえば心臓とか関係ないよ!」
「こりゃあ・・・とんでもないですな。」
「やはり。ギンジ殿お見事。」
「ぎ、銀次君・・」フルフル
「ふう。やった・・!これが攻撃スキル・・!俺にも使えたんだ!」
こんな感覚だったのか。刀が溜めておいた魔力を使った為消費は無いし東雲さんのマジックアローみたいでかなり便利なんじゃないだろうか。
あれ?刀身がさっきみたいに青白くなくて初めの漆黒に戻っているな。また溜めなおさなくてはいけないという事か。
「銀次。やっぱりその刀俺に・・・ッチ・・・いや、なんでもない。」
勇人が何か言いかけたが聞こえなかったな。
「まぁまぁの威力なようですわね。やっと戦力になれたのではなくて?」
「えっと・・連発出来ないみたいだな・・・どのくらい溜めればいいか解らない。」
「んー。ちょっと微妙?」
「須藤君は須藤君って事でしょうか?」
それでも俺は初めてスキルを実感できて嬉しいんだ。この刀を見つけられたことに感謝しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます