第723話

 翌朝、トリアル行きの馬車に乗る為に大広場までやって来た俺達はソフィと一緒にここまで足を運んでくれたガドルさんとサラさんと出発前の挨拶を交わしていた。


「皆さん、お弁当をご用意したのでもしよろしかったらどうぞ。」


「えっ、良いんですか?すみません、わざわざ。」


「いえいえ、お口に合うか分かりませんが。」


「大丈夫、ままの料理は何でも美味しい。」


「うふふ、ありがとうソフィちゃん。それにしても寂しくなりますね。折角皆さんとお会いする事が出来たのにもうお別れだなんて……」


「えぇ、本当に名残惜しい限りですね。こんな事なら宿屋の利用日数を多めに取っておけば良かったと思う程です。」


「あら、でしたら今からでも我が家にいらっしゃいますか?歓迎致しますよ。」


「いや、流石にそれは……ソフィは良しとしても俺達まで急にお邪魔してしまってはご迷惑ですからね。お気持ちだけ頂いておきます。」


「そうですか。残念ですが仕方ありません。お泊りして頂くのはまた今度という事にしておきましょう。」


「うん、お祭りの日にまた王都に来るからその時に皆で泊まる。」


「あっ、良いですね!それならお茶菓子を持っていきますので、好みの味等があれば教えてくれますか?」


「うふふ、皆さんが選んでくれた物なら何でも構いませんよ。むしろお勧めがあればお聞きしたいぐらいです。」


「えへへ、そうですか?でしたら……」


「ふふっ、闘技場のイベント含めて楽しみなイベントがまた1つ増えたね。」


「やれやれ、こりゃ断るって選択肢は無さそうだな………っ!?」


 勝手に計画を進めている3人の姿をロイドと共に微笑ましく見守っていたその時、突如として視界にノイズみたいな物が走った気がして右手で顔を押さえた俺…は……


「………ぁ………」


 ……紅く染まった空……王城の真上に渦巻いている漆黒の何か……さっきまで俺の周りに居たはずの皆は姿を消していて……大通りにはモンスターが……が……が……


【……ヨコセ……ソノウツワ……ヨコセ……!】


 あたま、の……なかに……入って来る……誰か……キエル……意識……俺は………オレ……おレ……ハ……………………


「…さん……おじさん!!」


「っ!!………マホ……?」


「ちょっと、どうしたんですか?さっきから声を掛けてるのにボーっとしたまま……もしかして体調が悪いんですか?」


「九条さん、平気かい?」


「…………」


 心配そうに俺を見つめて来ているマホ、ロイド、ソフィ……そして、ガドルさんとサラさんと目が合った俺は、大きく息を吸い込むと……


「ふぃ~……やっぱりこの時期は朝早くても暑くてしょうがないなぁ……失敗した。軽い熱中症かもな。悪いけど、売店で冷たい飲み物でも買って来てくれるか?」


「あっ、はい!分かりました!ちょっと待っていて下さいね!」


「マホ、私も付いて行く。」


「頼んだ。九条さん、御者に説明して荷台に乗せてもらおうか。」


「おう、すみません2人共。ソフィとの別れの時間を邪魔してしまって……」


「いえ、私達の事はお気になさらないで下さい。」


「えぇ、それよりもまずはご自分の体調を心配なさって下さい。」


「ありがとうございます。それでは俺はこれで失礼させて頂きます。」


 ロイドに支えられながらゆっくりと馬車に向かう道中、俺はさっきの現象について考えを巡らせてみたんだが……結局の所その正体は分からずじまいのまま出発時刻を迎えて王都を去る事になるのだった。

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