第679話

「ふむ。とりあえず個々の戦闘面においては特に問題は無かったが、連携については課題点があるという感じなんだね。」


「はい。僕はクリフの援護に回ろうと必死になりすぎて自分の事が疎かに……」


「……我はその反対で、目の前のモンスターに集中し過ぎる事が何度かあったな。」


 日暮れ前に戻って来た我が家のリビングで2人から今日の反省点を教えてもらったロイドは、ニコッと微笑みながらエルアとクリフの顔を見つめて小さく頷いた。


「ふふっ、なるほどね。まぁでも、それが分かっているなら大丈夫だと思うよ。後はその課題点を克服すれば良いだけなんだから。ね、九条さん。」


「おう、もう何日か頑張ればどうとでもなるだろ……っと、そうだった。2人には、最後の指導に何をするのか先に伝えとくな。」


「えっ、最後の指導ですか?」


「ふむ、そう言えばまだ聞いてなかったな。九条透、我らに何をさせるつもりだ?」


「あぁ、実はな……2人にはダンジョンの攻略をしてもらおうと考えてるんだ。」


「「……ダンジョンの攻略?」」


 エルアとクリフが揃って首を傾げながら言葉を繰り返してから数秒後、ソファーに座っていたオレットさんが背もたれに両手を置きながらこっちを見つめてきた。


「九条さん!ダンジョンの攻略って……まさかエルアちゃんとクリフ君の2人だけでやらせるつもりなんですか?」


「いやいや、流石にそんな危ない事はさせないっての……ちゃんと俺達も付き添いで行くから安心してくれ。」


「そ、そうですか……あー良かったぁ……でも、どうしてそんな危険な事を?最後の指導なら他にもやりようがあるんじゃ……」


「ふっ、オレット。余計な心配なら不要だ。」


「うん、僕達なら大丈夫だよ。それに冒険者としてやっていくのなら、ダンジョンの1つぐらい自分達の力で攻略出来ないとね。」


「……分かった!そこまで言うなら私はもう口出しはしない!最後の試練をやるのが何時になるのかは分からないけど、応援してるから頑張ってよね!」


「了解。無事に帰って来るって約束するよ。」


「絶対だよ!約束を破ったら許さないんだからね!」


「あぁ、気を付けるよ。」


「ふんっ、言われるまでもない。」


 互いに微笑み合ってる3人の姿を静かに見守っていた俺は、テーブルに頬杖を突きながら思わず口角が上がっていた。


「ふふっ、これは私達も責任重大だね。」


「えぇ、皆さんも怪我なんかしないで下さいよ?」


「へいへい、怒られたくないから頑張りますよ。」


「……ワクワクする。」


 そんな言葉を交わしてからしばらくの間とぼんやりとした後、俺はオレットさんにちょっとした質問を投げかけてみる事にした。


「そう言えばオレットさん、指導と称して冒険者になったばかりの子達に迷惑を掛けまくってる連中の情報って何か集まったのか?」


「あっ、いえ……それが全然でして……今日、皆さんにも手伝って貰いながら色々と聞き回ってはみたんですが……」


「恐らくだけど、噂が広まってきたのに勘付いて姿を隠したんじゃないかな。」


「ふーん、そうか……どうせだったら捕まってたりしてりゃ良いんだけど……」


「えぇ、私もそう思います。でも、特にそういった情報が出回っていませんので……まだその人達は捕まっていないんでしょうね。」


「だろうな……教えてくれてありがとうな、オレットさん。」


「いえいえ、お役に立てず申し訳ありません。もし情報が入りましたら、すぐにでもお教えしますので楽しみにしていて下さいね!」


「あぁ、期待しないで待っとくよ。」


 小物が小物らしく裏に潜んでしまったという情報を手に入れてイベントが発生せず終わったのかもしれないと考えた俺は、このまま何も起きない事を祈るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る