第676話
エルアとクリフに休みを言い渡した次の日、オレットさんの取材ついでに女子会へ出掛けるマホ、ロイド、ソフィを見送った俺は特に目的もなく通りをブラついた後に暇潰しがてら加工屋にやって来ていた。
「よぉ、邪魔するぞ……って、クリフ?」
「む、九条透か。貴様、ここで何をしているんだ。」
「いや、別に何って訳でも無いんだが……そっちは何をしてんだよ?」
「ふんっ、我は武器の手入れを依頼しに来たのだ。ここ数日の指導で我が相棒の刃が少しだけ傷み始めてきたのでな。」
「あーそうなのか……悪いな、俺も幾らか出そうか?」
「バカを言うな。貴様に金を出して貰う筋合いは1つも無い。コレは武器を扱ってる我の問題だ。思う所があるなら次の指導がより良い物になる様に尽力しろ。」
「……了解。にしてもまさかお前からそんな当たり前のことを言われるとはねぇ……マジ驚きだよ。」
「そうかそうか。それならば、いずれ貴様を超えて行く日が来るのも近そうだなぁ!はーっはっはっは!怯えて眠れ!」
「……やれやれ、コイツが成長するのはまだまだ先が長そうだ。」
一瞬にして調子に乗り始めたアホの事を呆れながら見つめていると、店の裏に続く廊下の向こうからジーナが姿を現した。
「九条さんいらっしゃい。それとお待たせクリフ君、君の武器なんだけど2,3日もあれば仕上げられるからその時にまた来てくれる?」
「分かった、我が相棒をよろしく頼む。それでは我は失礼させてもらおう。」
「ん?もう帰るのか?」
「あぁ、他に用事も無いからな。」
「えへへ、それなら九条さんと一緒にお買い物でもしてきたらどう?」
「は?」
「何?」
「ここで会ったのも何かの縁なんだからさ。それに九条さんだってウチに用があって来た訳じゃないんでしょ?それならまだトリアルに慣れていない彼に街の案内をしてあげなくっちゃダメだよ!それに師弟関係なら絆をもっと深めないとね!」
「あぁいや、別に俺達はそういう関係じゃ……」
「ふんっ、九条透の弟子になった覚えはない。」
「はいはい、そう言わずにお出掛けお出掛け!それに私はこれからお仕事をしないといけないから九条さんに構ってあげる暇は無いの!」
「あっ、おい!」
「コ、コラ!何をする!」
「きーこーえーまーせーん!」
ジーナに背中をグイグイ押されて加工屋を追い出されてしまった俺達は前のめりになりながらも何とか体勢を直して後ろを振り返った。
「ったく、強引な奴だなぁ……」
「まぁまぁ、それじゃあ行ってらっしゃい!っとそうだ、ここ最近になって冒険者になったばかりの子に声を掛けてる危ない人達が居るみたいだから気を付けてね!」
「……何?どういう事だ。」
「いやー、何て言うのかな?九条さん達みたいに指導するフリをしてお金を取ろうとする悪い人が居るって噂をウチに来る冒険者になりたての子から聞いたんだよねぇ。だからクリフ君のお友達であるエルアちゃんにもその事を教えてあげてくれる?」
「あ、あぁ……分かった。」
「えへへ、よろしくね!それじゃあばいばーい!」
ガチャンと閉められた扉を見つめながらしばらく固まっていた俺達は、互いの顔をゆっくりと見合わせていき……
「……仕方ない。我の為に街を案内する事を許してやろうではないか。」
「いや、何様なんだよお前は……まぁ良いや、ここで解散するのもジーナに悪いから適当に街をブラつくぞ。」
「おう。」
こうして男2人だけで寂しく買い物をする事になった俺達は、妙な気まずさを感じながら一緒に昼飯まで食べる事になるのだったとさ。
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