第650話

「九条さん!モンスターが後方からそっちに向かってるよ!」


「分かってる!ソフィ!仕留めるから援護を頼む!」


「了解!フッ!」


 木々をへし折りながら猛追してくる全長3メートルはあるクマの様なモンスターの視界を塞ぐようにソフィが地面の雪を舞い上げて煙幕の代わりにした次の瞬間、俺は足に付けてるスノードの片方に魔力を込めると一気に飛び上がると体を反転させた!


「よしっ!これで終わりだあっ!!」


 突然の事に驚いて雄叫びを上げながらその場に静止したモンスターを視界に捉えた直後、俺は手にしていたブレードを振り上げながら魔法の風を纏わせると心臓部分を目掛けて思いっきり投げつけてやった!


 ……それから数十秒後、ズシンと地面が揺れる感覚がして辺り一面を覆ってた雪が無くなっていくと俺達の目の前に息絶えたモンスターの亡骸が現れるのだった。


「ふぅ、2人共お疲れ様。」


「あぁ、お疲れさん。いやはや、それにしても驚いたな……まさか一番最後にこんな大物が襲ってきやがるとは予想もしてなかったぜ……つーか、何でコイツはこんなに殺気立ってやがったんだ?」


「多分、私達の事を餌だと思ったから。」


「そうだね。確かこのモンスターは冬の間しか外で行動しない種類だったはずだ。」


「……なるほど、つまり俺達を春を乗り切る為の備蓄食料にしようとしてたと……」


「ふふっ、危ない所だったね。」


「いや、笑い事じゃねぇっての……こっちはマジで死ぬかと思ったんだからな……」


 順調に討伐クエストと採取クエストをこなしていって、さぁ後は街に戻るだけだなとか考えていた矢先に鋭い牙を剥き出しにしていきなり飛び掛かって来やがって……マジで寿命が3年ぐらい縮まった気がするわ……


「さてと、それでは急いで納品作業を始めてしまおうか。早くしないとモンスターの流した血の臭いを嗅ぎつけて他のモンスターがやって来るかもしれないからね。」


「はぁ……その展開だけはマジで勘弁してほしいから、さっさと終わらせるぞ……」


 俺達は手分けをする為にその場で一時解散すると、残してきたモンスターの亡骸を次々に納品していった。


 そして全てを終えた後にクマに似たモンスターの所で集合すると、そいつの納品をして採取クエストを達成するのに必要な物を集めてあるかを再確認した。


「……うん、この山で採らなきゃいけない素材は間違いなく採取してるね。それなら次の場所に向かうとしようか。」


「うへぇ……俺としては一端街に戻っちまいたいんだが……」


「ダメ、それだと午前中に全部のクエストを終わらせられない。」


「いや、それはそうだけどさぁ……」


「それに体が温まっている今が戦い時。時間を無駄にしている暇は無い。」


「……わ、分かったよ。行けば良いんだろ行けば……あー温泉に入りてぇ……」


「ふふっ、それはクエストを片付けた後のお楽しみだね。あぁ、もし良ければ私達が背中を流してあげようか?あの街には男女が一緒に入れる温泉もあるみたいだし。」


「結構です!ってかそんなもん、あのモンスターと戦うより危険な行為だわ!マジで命が幾つあっても足りねぇっての!ほら、バカな事を言ってないで行くぞ!」


 美少女と一緒の風呂に入る……そんな夢の様な展開を望んでないって事もないが、メチャクチャお偉い貴族様と現役の闘技場王者が何処から噂を聞きつけてくるか……


 そこまで考えて背筋がゾクゾクッとしてきた俺は、阿修羅を背負っている父親達の姿を思い浮かべて震えそうになる自分の体を軽く抱きしめるのだった。

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