第648話
「……九条さん、私が不甲斐ないせいで申し訳ない……」
「いやいや……俺の方こそ何のお役にも立てず……」
「「……はぁ……」」
惨敗という言葉がピッタリな負けっぷりを披露する事になってから十数分後、全身くまなく真っ白に染め上げられてしまった俺と親父さんはノルウィンドにある温泉に2人揃って入浴して冷え切った体を温めていた……
「いやはや、ソフィさんの実力は知っているつもりでしたが……実際に目の当たりにすると驚きを通り越して恐怖すら感じてしまいますね……」
「それを言うならジーナの方も凄かったですけどね……あれだけ動いた後だったのによくまぁアレだけ駆け回れたもんですよ……流石は親父さんに鍛えられているだけの事はありますね。」
「ははっ、鍛えているだなんてそんな……ただまぁ、私達の仕事は体力勝負みたいな所がありますのでソレが影響しているんではないかと。」
「なるほど、納得です。親父さんも立派な体をしてますからね。」
「いえいえ、冒険者として活動している九条さんには負けてしまいますよ。」
「いやいや、親父さんの全身に付いてる筋肉には勝てませんよ。」
「いえいえ、ご謙遜を……」
「いやいや、そちらこそご謙遜を……」
「「……ははっ。」」
あー……何だろうなぁ……すっげぇーほのぼしてるぅ……これが温泉の効果というヤツなんだろうか……だとしたら……やっぱり温泉って最高だ……
「……九条さん、ありがとうございます。」
「はい?どうしたんですか急に、別にお礼を言われる様な事なんてしてませんよ?」
「いえ、そんな事はありません。こうしてご一緒に旅行へ来れた事もそうですが……それ以外にも九条さん達には感謝をしなければいけない事が沢山あります。」
「……そう、ですか?俺としては思い当たる事が無いので何とも言えませんけど……親父さん達の力になれてたのなら良かったです。俺達が冒険者をやってこられたのはトリアルに加工屋があったからこそですからね。」
「そう言って頂けて何よりです。ですが私達の方こそ、皆さんがトリアルで冒険者をしてくれているおかげ加工屋としての技術を磨けているんですよ。」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。九条さんもご存じだとは思いますが、トリアルという街は腕利きの冒険者が拠点にする様な街では無いんですよ。」
「あー……まぁ、そうですね。あの街に集まって来るのは冒険者としてはまだまだな人達ばかりで、それなりにレベルが上がった人は王都に拠点を移しちゃいますね。」
「えぇ、だからウチの店を利用してくれるお客さんのほとんどはそういった冒険者か既に一線を退いた方達ばかりなんです。その関係で、私達が普段から取り扱っている素材も珍しくない物ばかりで……そんな時、九条さん達が現れてくれたんです。」
「現れたって……そんなに凄い事でもなくないですか?」
「いえ、そんな事はありませんよ。現に九条さん達がウチの店を利用してくれる様になってから、ジーナも職人としての腕をグングン伸ばして来ていますから……って、あっいや、その、えっと……」
「大丈夫ですよ。ジーナに言ったりしませんから。」
「……ありがとうございます。アイツにこの話を聞かれたら絶対に調子に乗って私をからかってくると思うので……」
「ははっ、別に良いと思いますけどね。たまには調子に乗らせてやるのも。」
「いえいえ、まだまだアイツは職人としては半人前です。立派になるまでそういった言葉を伝えるつもりはありません。」
「……そうですか。ではジーナが一人前になる日を楽しみにしていますので、立派な職人になる様にこれからも鍛え続けてあげて下さいね。」
「えぇ、勿論です。九条さん達もご協力をお願いしますよ?」
「分かってますよ。だって、俺達が利用する加工屋は親父さん達が居る店以外には、あり得ませんからね。」
そう言って親父さんと揃って笑みを零しあってからしばらくした後、俺達は温泉の湯を体がぽかぽかになるまで堪能していくのだった。
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