第608話
「おぉ、やっぱりこの辺りは家族連れがほとんどみたいだな。」
「うふふ、遊んで楽しむ事が出来るイベントを開催しているお店が多いですからね。それで九条さん、僕達は何処から行ってみましょうか?」
ずっと腕を絡めたままのイリスに少しだけ慣れ始めていた俺は、微妙に感じている羞恥心を無視しながら手にした地図に視線を落として周囲の状況を確認してみた。
「うーん、見た感じどの店もかなり盛況してるみたいだからなぁ……ポイントを稼ぐ必要があるって事も考えると、そういった所は避けたいんだけど……そういう訳にはいかねぇし……どうしたもんかねぇ……」
「順番待ちをしていたらあっと言う間にお昼を迎えてしまいますもんね。」
「あぁ……仕方ない、とりあえずは闘技場の方に向かいながら良さそうな店を探すとしようか。」
「はい、分かりました。」
お揃いのアクセサリー作りや冒険者向けの装飾品作り、他にもお祭りの出店にある系のイベントをやっている店に幾つか立ち寄りながら時間を過ごして行った俺達は、大きくそびえ立つ闘技場を見上げながら飲み物を口にしてホッと一息ついていた。
「ふぅ、そんなに時間は経ってないけど少し疲れたな……」
「うふふ、人混みの中をずっと歩いていましたからね。九条さん、大丈夫ですか?」
「おう、そっちこそ大丈夫か?」
「えぇ、九条さんの腕に掴まっていたので平気です。ありがとうございます。」
「……ど、どういたしまして……」
今日も今日とて美少女にしか見えないイリスに微笑みかけられて不覚にもドキッとさせられてしまった俺は、忘れかけていた気恥ずかしさを振り払う様に顔を逸らして真正面にある闘技場の方に目線を向けた。
「うふふ、そう言えば2日後ですよね?ソフィさんのお父さんが、この会場で試合をするのは。」
「ん?まぁそうだな……イリスは闘技場で試合を見た事はあるのか?」
「はい、母さんと一緒に何度か。父さんはあんまりこういうのが好きではないので、家でお留守番をしていましたけどね。」
「へぇ、アシェンさんと……何だか意外だな。あんまりこういう所に来る姿は想像が出来ないからさ。」
「うふふ、確かに母さんは家の中に居る事がほとんどですからね。だからここに来た理由と言うのは、作品の資料集めみたいな所があったんです。」
「ふーん、つまりは戦闘している所を書く為にって事か。アシェンさんって冒険者をしていた時はないのか?」
「はい。学園に居た頃にはもう作家として働いていたみたいなので、実際に戦ったりした事はないみたいです。だから冒険者の方にお話を聞いたりしているんです。」
「なるほどねぇ……ルバートさんはどうなんだ?あの人もずっとイラストを?」
「えぇ、そうみたいですね。だから父さんも戦う力はありません。」
「はぁ……そんな2人に育てられて、よくまぁそこまで強くなったな……」
「うふふ、頑張って努力しましたからね。母さんの生み出す物語の登場人物の様に、何時か現れるかもしれない運命の人を護る事が出来る様に……」
「う、うぐぅ……!お前、恥ずかしさとかねぇのかよ……」
「ありますよ。僕にも恥ずかしいと感じる時が……例えば、今とか。」
「っ!だぁもう!やめんかアホ!ほら、そろそろ行くぞ!せめてもう2,3ポイント稼がなくちゃ時間が幾らあっても足りん!」
「うふふ、はぁ~い。」
これが小悪魔と言う奴なのか?なんて思いながらイリスを連れて大通りに向かって歩き始めた俺は、改めてあいつ等と別行動をしている事を良かったと思うのだった。
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