第607話

 色々とあったせいで若干寝不足のままイベントの2日目を迎える事になった俺は、前日と同じく先に皆を見送ってから宿屋を出発してイリスと合流をした。


「おはようございます、九条さん。今日もよろしくお願いしますね。」


「あぁ、よろしく……ふぁ~……」


「うふふ、大きなあくびですね。九条さん、昨日はあまり眠れなかったんですか?」


「おう、ちょっと考える事があってな……」


「へぇ、一体何を考えていたんですか?もし良かったら僕に教えて下さい。」


 そう言ってニコっと微笑みかけてきたイリスと目が合った俺は、ルバートさんとのやり取りを思い出してその話をしても大丈夫かな一瞬だけ迷ったんだが……


 昨夜の事を誤魔化して更なる面倒事を引き起こすのだけは避けたいと思ったので、とりあえず伝えても平気だろうという部分だけを抜き出して話す事にした。


「あー……実はさ、昨日の帰り際にルバートさんに声を掛けられたんだよ。お前との関係について教えて欲しいってさ。」


「……父さんがそんな事を?」


「あぁ、父親として子供の友好関係が気になったんだろうな。それでイリスの事を、今後ともよろしくお願いしますって頼まれたんだ。」


「そう、ですか……それで九条さんは、僕達の事を聞かれてどう答えたんですか?」


「そりゃまぁ、良い関係を築けてはいると思いますって感じでな。」


「…………」


「……何だよ。なんかマズかったか?」


 珍しくふくれっ面?に、近しい表情を浮かべているイリスを見ながら小首を傾げてそう聞いてみると……


「いいえ、別にマズくはありません……ただ、九条さんが僕達の関係を良いぐらいにしか考えていないのかなーって思って少しだけ落ち込んでいるだけです……」


「うっ……そ、それは……だな……」


「……うふふ、冗談ですよ。」


「へっ?じょ、冗談?」


「えぇ、九条さんの戸惑う顔が見たくってついからかってしまいました。」


 右手で口元だけを隠しながらクスクスと笑って俺を見上げて来たイリスにちょっとだけドキッとさせられつつ現状を把握した俺は、思いっきりため息を吐き出して……


「ったく……心臓に悪いから勘弁してくれ……初めて見る表情だったから、イリスがマジで傷付いたのかと思っちまったじゃねぇか……」


「うふふ、心配してくれたんですか?そうだとしたら、凄く嬉しいです。でも、少し落ち込んだのは本当ですよ。」


「えっ!そ、そうなのか?」


「はい。ですが安心して下さい。良い関係としか思われてない……それなら、もっと頑張ってそれ以上の関係と認識してもらうだけですから。」


「うおっ!?」


「さぁ、行きましょうか九条さん。まずは朝ごはんですね。本当なら僕の作った食事だけを口にして欲しいんですが、それは未来の為に取っておきます。」


「イ、イリス!?なんか怖い事をサラッと言われた気がするんだけど勘違いかな!?それと腕を絡めながら体を密着しないでくれって言いませんでしたっけ?!」


「うふふ、そんな事を言われた記憶はありません。」


「いや、そんなはずって!」


 し、しまった!イリスに気を遣おうなんて考えたせいでやる気に火が付いちまったみたいなんですけども!?ど、どうしよう……!こんな展開になるだなんて、予想もしてなかったんだが!!?


 ……なんて思ってみた所で後の祭り、積極性にエンジンが掛かってしまったらしいイリスに腕をガッチリ掴まれてしまった俺は逃げ出す事も許されないままカップルで溢れ返る街中を連れ回される事になるのだった。

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