第583話

 うん、まぁこうなるよね……分かって分かってた。皆に心配を掛けた自覚はあるし何よりダールトンから教えて貰ってたからな……でも、でもさぁ……もう少しぐらい優しい言葉をくれても良いんじゃないかなって俺は思う訳ですよ……


「もう、おじさん!!私達の話をちゃんと聞いてるんですか!?」


「あーはいはい!聞いてます、聞いてますよー……はぁ……」


 さっきまで俺の為に泣いてくれていたとは思えないぐらいの剣幕で怒りまくってるマホをギリ動かせる右手で制止した俺は、この大説教大会からどうすれば解放されるのか真剣に考え込んでいた……!


「あ、あのぉ……皆さん?今回の騒動は私が原因で始まった事ですので、九条さんを怒るのはそれぐらいにしてあげては……」


「ポーラ、私達も怒りたくて怒っている訳では無いんだよ?でもね、あの時の約束を破った九条さんにはきちんと言い聞かせてあげないとダメなんだ。」


「うん、危なくなっても逃げなかった。」


「いや、だからそれは……」


「逃げられる様な相手では無かった……それは理解しましたっ!でも、大怪我をしたおじさんがここに運び込まれたって聞いて私達は本っ当に心配したんですからねっ!血を流し過ぎてるせいで危険な状態ってお医者さんに言われた時は目の前が真っ暗になって私も倒れそうになったんですよ!?」


「うん、それについてはマジで申し訳なかったとしか言えません‥…」


「おじさん!その言葉はもう聞き飽きましたっ!」


「うぅ……ですよね……」


 自分でコレって何度目の謝罪なんだろうかって思うぐらいだもんな……でもさぁ、俺だって死にかける様な大怪我をしたくてしてる訳じゃないんだぜ?


 物語に出てくる様な主人公みたいに格好良く相手をぶちのめしたりしたいんだが、現実ってそう甘くは無いのが辛い所でして……なんて言い訳をしたら、メチャクチャ怒られるだろうからこの気持ちは胸の内に秘めとくしかないんですけどねっ!


「……おじさんが誰かの為に頑張るというのは素敵な事ですけど、それで他の誰かを心配させるのはどうかと思います……」


「はい……仰る通りで……本当にすみませんでした……」


「はぁ……そうやって謝ってくれたって、また似た様な事があればおじさんは無茶をしてしまうんでしょう?違いますか?」


「違う……とは、言い切れないな……時と場合によるとしか……」


「……そこでそういう答えが返って来る所がおじさんですよね……分かりましたよ。お説教はこれぐらいにしておきます。」


「えっ……良いのか?」


 まさかの幕切れに驚いてそう尋ねると、マホは呆れた様な表情を浮かべながら俺の事を見つめてきた。


「良い……って訳ではありません。おじさんにはシッカリと反省をしてもらいます。私達に心配を掛けた事には変わりありませんから。でも、ポーラさんの為に頑張ったのは事実ですから、これ以上はもう何も言いません。何か文句ありますか?」


「な、無い無い!文句なんて1つも無い!」


 ようやく許されたってのにまだ怒られたいだなんていう様な性癖は俺の中には存在してないからなっ!いやマジで!!


「ふふっ、それではお説教も終わった事だし……ポーラ、例の物を九条さんに。」


「……あっ、はい!九条さん、ちょっと見て貰いたい物があるんですが!」


「ん?どうしたんだ急に……?」


「ちょーっと待って下さいね!すぐにご用意致しますので………あった!コレです!どうぞ読んでみて下さい!」


「……コレは……雑誌?ポーラの所が出してるヤツか?」


「えぇ、今度発売される雑誌の見本みたいな物です!」


「へぇ、そんなもん読んで良いのか?」


「勿論です!内容は今回の事件に関する事ですから!」


「そうなのか?じゃあ、遠慮なく見せてもらうな。」


「どうぞどうぞ!きっと驚かれると思いますよ!」


 ……妙に自信満々なポーラに促されてまずは表紙にある文字に目を通してみると、そこには【大陸を騒がせた泥棒達がついに逮捕か!?その一部始終を人質に取られた記者が事細かにお伝えします!】……まぁ、間違ってはないよな?


 何とも言えない見出しに首を傾げつつ右手でページを捲っていくと、あの屋敷での出来事が順を追って丁寧に書かれていた。


 そこには俺も知らなかった犯人の素性や、あの連中がどういった奴らでどんな事をしてきたのかについても記載されていて……


「ポーラ、お前ってマジで凄腕の記者だったんだな。」


「ふふーん!もっと褒めてくれても良いんですよ!」


「こら、調子に乗らない。そんな事ではまた同じ様な目に遭ってしまうよ。」


「あはっ、すみません。ではでは、今度はこっちの雑誌をどうぞ!」


「おう。今度はなに……が………………へっ?」


 ……んん?おかしいなぁ……コレ……ファッション誌……だよな?でもでも、何でここに……生まれてからずっと見てきた顔が…………載っているのかなぁ……っ!?


「いかがですか九条さん!ソレ、凄いと思いませんか?!」


「あっ……が……なっ……?!」


「いやぁ、九条さんがファッション誌の表紙になるとは思ってもみませんでしたよ!友人が言うにはモデルは勿論、私の腕が良かったおかげだそうです!あっ、中の方もご覧になって下さい!実は皆さんも載ってるんですよ!」


「ふふっ、その本を持ってこられた時は本当に驚いたよね。」


「はい、まさか私がモデルとして本に出るなんて……恥ずかしい限りです……」


「……私の写真、やっぱり消して欲しい。」


「ダメですよ!コレ、明日には発売されるんですから諦めて下さい!」


「あ、あ、明日ぁ!?ちょっ、ちょっと待ってくれよ!冗談だろ?!」


「いいえ、冗談ではありませんよ?後で報酬もきちんとお支払い致します!そうだ!今度、友人が正式なモデルとして採用したいから連れて来て欲しいって言ってたので時間がある時に付き合って下さい!」


「いや、いやいやいや!そんな事を、そんな事を言われましてもですね!?」


 この世界の肖像権とかってマジでどうなってんの!?そこら辺はゆるゆるなの?!異世界だから?!何だよソレ!聞いてねぇよそんな話は!


「九条さん、失礼しますよぉ~……んっふっふ、話には聞いていましたけどスッカリ元気になってくれたみたいですねぇ。」


「げぇっ!?あ、貴方は……!バルネス先生っ……!?」


「えぇ、お久しぶりです。覚えていて下さって嬉しですよぉ。」


 いや、覚えてるに決まってるじゃねぇか!!つーか俺っ!どうして今までこの人の存在を忘れてたんだよ!?治療と称して地獄を見せてきた張本人を!ま、まさか……思い出したくなかったから記憶から消えてたのか?!あぁ……ああぁ……!


「バルネス先生、もしかして治療の時間ですか?」


「えぇ~その通りですぅ。さぁ九条さん……選んで下さい。」


「え、選ぶ……?何をですか……?」


「んっふっふ、決まっているじゃないですか。九条さんを治療するにあたって使用をするお薬の事ですよぉ……1つは体に優しいけど治りも遅く傷跡も残りやすい薬……もう1つは王立学園で働いている彼女と作った効果がバツグンッ!の新薬です。」


「お、王立学園で働いてって……まさか……ドクター!?」


「はぁい、貴方達が彼女と知り合いだと聞いて驚きましたよぉ。そして運命を感じてしまいました……この新薬は、九条さんの為に開発されたのだとっ!」


「……一応、聞きますけど……その新薬の効果はいかほどで……?」


「そうですねぇ……効き目はバッチリ、傷跡も完璧に塞いでくれます……ただぁ……ちょーっぴきり刺激的なのが好き嫌いの出る所ですねぇ。」


「へ、へぇ……へぇ……」


「さぁ、どちらになさいますか?」


「……えっと、その二択以外は」


「ありません。」


「即答っ!?」


「えぇ、それ程の大怪我を直せる薬はそう多くはありませんからねぇ。残念な事に、今は取り扱っているのかこの2種類しか無いんですよ。すみません。」


 う、嘘クセェ……!つーか絶対に嘘だろっ!こんなにデカい病院に使える薬が2つしか無いなんてあり得ねぇだろうが!……でも、それが事実かどうかを確かめる方法なんて俺にはねぇし…………………これも………罰……なのかな?


「……そっぢの……効果の高いほうでおねがいじまず……!」


「はぁい!かしこまりましたぁ!……皆さん、やっちゃって下さい。」


「あっ、えっと?これは一体……どうして九条さんは手足を縛られて?」


「ポーラ、私達はここら辺で失礼するとしようか。治療の邪魔をする訳にはいかないからね。」


「おじさん、また後で来ますね!」


「……ばいばい。」


「えっ、えっ?」


「あ、ああ……す、すみません!やっぱりもう1つの薬を……って、あれ?ちょっと待って下さい!この拘束具、以前の物より頑丈になってるんですけど?!ま、まさかそれだけヤバいものなんじゃ……!?」


「んっふっふぅ……それでは始めますよぉ……ダイジョウブ……少し塗っただけで、意識は数秒後にはなくなっていますからねぇ!」


「いや、そこは数秒後とかじゃなくて即効にして……あ、あぁ……ああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

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