第559話

「ロイドさん、次はこちらの服をお願いします!あっ、ソフィさんはこちらで!」


「ふふっ、了解だ。」


「……つかれた……」


 季節が変わり秋冬物の服が数多く展示される様になった大型のショッピングモールっぽい店にやって来た俺とマホは、ポーラに着せ替え人形状態にされているロイドとソフィの姿を向かい側にある店をブラつきながら見つめていた。


「あらら、ソフィさんがグッタリしてきていますね。」


「まぁ、かれこれ1時間ぐらいあんな感じだからな……それにしても、昨日に続いて今日もポーラの仕事を手伝う事になるとは……もしかしてアイツ、最初からこうするのが目的だったのかねぇ?」


 ロイドには大人っぽくて格好良い系の服を、そしてスポーティー系の服を着せられ続けているソフィ、そんでもってさっきまで少女らしく可愛らしい系の服を着ていたマホの事を思い出しながら俺はそんな事を呟いていた。


「いやいや、流石にそれは無いんじゃないですか?だって今日の予定をお話したのは今朝の事だったんですから、何かを狙って行動をするのは難しいと思いますよ?」


「……だと良いんだけどな。ってか、さっきから考えてたんだが俺がここに居る意味って無くね?帰っても良いか?」


「ダ・メ・で・す!そんな事をしたら、頑張っているロイドさんとソフィさんを置き去りにしたってポーラさんに書かれてしまいますよ!ほらほら、愚痴を零してないでおじさんも秋冬物の服を選んで下さい!その後は私の分ですからね!」


「はぁ……はいはい、分かりましたよっと……」


 ロイドのファンに見せる為、そして雑誌社が発行しているファッション誌に載せる服の参考にしたいというポーラの頼みを引き受けてから更に1時間近くが経った頃、俺達は両手に紙袋を抱えて広い廊下の端に置かれたソファーに腰を下ろしていた……


「ロイドさん、ソフィさん、それにマホさん。本日も私の仕事に付き合って下さってありがとうございました。お礼と言っては何なんですがお昼ご飯は私がご馳走させて頂きますので遠慮なく食べたい物を仰って下さい。」


「ふむ、それでは君の言葉に甘えさせてもらうとしようかな。ふふっ、それにしても本当にポーラは仕事熱心なんだね。感心してしまうよ。」


「あはっ、私の場合は仕事熱心と言うよりも好きでやっている事ですからそんな風に褒めて頂けると照れてしまいますね。さっきまでのアレも自分が担当している所ではありませんから。」


「えっ、そうなのか?」


「はい、私の主な担当はトリアルで起こっている不思議な事を調べる事ですからね。ファッションに関してはあんまり得意分野とは言えないんです。ただ、そこの部署で働いている友人から先程もお伝えした頼まれ事をされてしまって……」


「むぅ……怒るに怒れない……」


「あはは……ソフィさんはお疲れになってしまったみたいですが、私はポーラさんのおかげで楽しい時間を過ごせました!本当にありがとうございます!」


「いえいえ!それは私の台詞ですよ。マホさんのおかげで良い資料が集まりました!勿論、ロイドさんやソフィさんの協力もあってこそですけどね!」


「ふふっ、ポーラの力になれたのなら何よりだよ。」


 皆のやり取りを聞きながら背後にある壁にある寄り掛かってボーっとしていると、いい加減に我慢の限界がきたのか急に腹の虫がぐぅ~っと鳴り始めやがった。


「あっ、ごめんなさい九条さん。お待たせしてしまいましたよね。」


「いや、そんな事は無いぜ……って言いたい所だが、お前の言う通りだな。そろそろ腹を満たしに行くとしようぜ。早くしないとどの店の込み始めちまうぞ?」


「ふふーん、それについては大丈夫ですよ!私、トリアルの飲食店についても色々と調べた事がありますのでどのお店が美味しくてどの時間帯が空いているのか把握していますからね!ご要望があれば、期待に沿ったお店に案内致しますよ!」


「おっ、そりゃマジか?それなら後は任せたぜ。」


「はい!九条さんも午後からよろしくお願いしますね!」


「おう!………って何を?」


「あはっ、そんなの決まってるじゃないですか!男性が着る秋冬用の服選びですよ!九条さんは身長も高めで体付きもシッカリしていて容姿も格好良いですから、きっと良い資料作りが出来るはずです!という訳なんで、よろしくお願いしますね!」


 ……満面の笑みを浮かべているポーラと視線が合ってから数秒後……脳みそが理解する前に反射的にソファーから腰を上げようとっ!?


「なっ、何をしてんだお前ら!?」


「ふふっ、九条さんこそ何をしようとしているのかな?」


「……ニガサナイ……!」


「ちょっ、ソフィ!目が怖い目が!って言うかロイド!お前は良いのかよ!?日常の風景をファンの子達に教えるという役目はどうするんだ?!」


「心配してくれてありがとう。けど大丈夫、これこそ私にとっての日常だからね。」


「おじさん、こうなってしまってはもう助からないで諦めて下さいね。」


「……いや……いやいや……いやいやいやいやいや………!」


「さぁ、それではお昼ご飯を食べに行きましょうか!九条さんはお腹が出てしまうといけませんので、軽めにお願いしますね!」


「え、ええええええええええっ!?!??!!!」


 モテを意識した服を着ての撮影会……そんな拷問であり地獄の様な空間から何とかして逃げ出そうとしかった訳なんだが……爽やかに微笑むロイドと恐ろしいオーラを放つ無表情のソフィから逃げれるはずも無く………俺は………死を悟るのだった……

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