第539話
20分近く続いた花火の打ち上げを無事に見終わってからしばらくした後、何とも言えない余韻に浸っていた俺は散り散りになり始めた周囲の人達に視線を向けながら別荘に戻る事を提案しようと思ってルゥナさんに声を掛けようとしたんだが……
「九条さん、もしよろしかったら私と少しだけ飲みに行きませんか?」
「………へっ?」
ルゥナさんからまさかの誘いを受ける事になった俺は戸惑いながらも彼女と一緒に雰囲気のある薄暗いBAR……ではなくて、大勢の冒険者で賑わっている斡旋所の中にある居酒屋に足を運んでいた。
そこで屋台を巡った時の思い出話や花火を見て感じた事なんかを話しながら楽しく酒が飲めるって……ここに来る前までは思ってたんだけどなぁ……それがまさか……
「くじょうさぁ~ん、わたしのはなしをきいてますかぁ~?」
「はいはい、ちゃんと聞いますよぉ……はぁ、まさかルゥナさんがこんなに弱いとは思いも……いや、ある意味では予想通りって感じなのか……?」
たった2,3杯飲んだだけでここまでへべれけになれるとは……しかもさっきから同じ話をループでしてくるし、かといってこっちの話は聞いてくれねぇし……マジで俺のちょっとした淡い期待を返してくれ……!
「むぅ~……九条さん!さっきから全然お酒が進んでないじゃないですか!まさか、私にだけ飲ませてえっちな事をしようと考えているんですか!」
「い、いやいやいやっ!何を人聞きの悪い事を大声で叫んでいるんですか?!そんな命知らずな真似はしませんよ!ってか、ルゥナさんが勧めるから何度もコップを空にしてますよね!?」
「ふふ~ん!そんなのしりませぇ~ん!ほらほら、そんなのはどうでも良いですからもっとジャンジャン飲んで下さいよぉ!あっ、そう言えば聞いてなかったんですけどご自宅でお酒に溺れてあの子達に手を出したりしてませんよねぇ~?」
「だから声がデカいですってば!それと、さっきも言いましたが俺はあいつ等の前で酒を飲んだ事はありませんからね!こうやってアルコールを摂取するのもどれぐらいぶりなのかって感じですし……」
「えぇ~?もしかして、九条さんってばお酒が苦手なんですかぁ~?それならそうと言ってくれないと困りますよ!」
「いえ、別にそういう訳じゃないんですけど……俺はどっちかって言うと、紅茶とかそっち系の飲み物の方が好きなんであんまり口にしようと思わなかっただけです。」
ついでに言うと経験値10倍の効果があるせいでアルコールに強くなり過ぎたから飲もうと思う事が減った……ってのは流石に言えねぇよなぁ。
「なるほど!だから甘いお酒ばっかり飲んでるんですね!美味しいですよね!」
「え、えぇそうですね……つーか、本当に大丈夫ですか?そろそろ別荘に帰った方が良いと思うんですけども……」
「もう!何を言ってるんですか九条さん!夜はまだまだこれからなんですからねっ!それともアレですか?私と飲むのが嫌だから別荘に早く帰りたいんですか……?」
「いや!そんな事はありません!ありませんから瞳をうるうるさせないで下さい!」
「……えへへぇ~……それなら良いんですよぉ~……」
「んぐっうっ!?」
な、何と言う破壊力だ……!酒のせいとは言え頬を染めた女性が無防備に微笑んでいる姿がこんなにも胸をときめかせるモノだったとは……色々と刺激が強すぎるっ!
「がっはっは!そこの嬢ちゃん、随分と色っぽいじゃねぇかよ!どうだ?今からこの俺と一緒に飲まねぇか?」
「はい?」
「……おぅふ……」
すぐ近くから不意にバカでかい声が聞こえてきたので反射的にそっちの方に視線を向けたんだが……だ、誰なんだ?この無駄にガタイの良いおっさんは……?
「なぁ、ちょっとぐらい良いだろ?この俺に付き合ってくれよ!」
「あーえっと、すみません。この人は俺の連れなんで申し訳ありませんけど他の人を当たってもらえ」
「あぁ?お前さんにゃあ聞いてねぇよ!なぁなぁ、ちょっとぐらい良いだろ?」
「うーん、そうですねぇ……」
オイオイオイ、そこで悩まないで下さいよルゥナさん……つーかコイツ、初対面の相手に対しての口の利き方ってもんがなってねぇんじゃないのか?酔ってるからって流石に失礼すぎるだろうが。
「幾らでも俺が奢ってやるからさ!少しぐらい付き合ってくれよ!な?なっ!?」
「……ごめんなさい!ともだちから男の人とは一緒にお酒を飲まない様にって何度もしつこく言われているのであなたとは飲めませんっ!」
「えぇ!?男と飲めねぇって……だったらどうしてソイツは飲んでんだよ?言ってる事がおかしくねぇか!?」
「ふふ~ん!九条さんは良いんですよぉ~だってだってぇ、わたしは九条さんの事を心から信頼していますからねぇ~」
……ぐっはっ!ちょ、ちょっと待ってくれ!いきなりこんな不意打ちされたらどう反応して良いのか困るんですけど!?か、顔が熱いし鼓動が激しくなりやがる……!
「ん、ぐぐぐぅ‥…!」
「あっ、やっと見つけましたよアニキ!ダメじゃないっすか!知らない人に絡んだりしちゃあご迷惑っすよ!」
「本当っすよ!あの、すみませんっすいきなり!」
「あぁ、いえ!……えっと、貴方達は……?」
「あぁ、俺らはアニキがリーダーをしているギルドに所属しているメンバーなんですけどもおおおおおおぉぉぉぉ?!!?!?!?!」
「えっ、ええええええええええええええ?!?!?!?!?!!」
い、いかにも野盗って感じの恰好をしてバンダナを巻いてたお兄さんがおっさんに投げられて吹っ飛んでいっちまったぞ!?コイツ、マジで何をしてやがるんだ?!
「ア、アニキ?!何をしてやがるんですか!?」
「うるせぇ!俺はこの人と飲むって決めたんだよ!邪魔すんならお前達だって容赦はしねぇぞこの野郎ぉ!」
「ちょまっ!落ち着いて下さいアニキ!」
「な、何をしているんですか貴方達!ここは暴れる所じゃありませんよ!」
「す、すみませんっす!アニキ!ほら、お姉さんが怒ってるっすよ!」
「やかましい!俺の邪魔をすんじゃねぇや!」
今にも暴れ出しそうなおっさんを必死に羽交い締めにしているチンピラ2号と目が合った俺は、急いでルゥナさんの傍に近寄ると彼女を抱え上げようとしてっ!?
「分かりましたっ!そこまで言うならいっしょにお酒をのんであげましょう!」
「ル、ルゥナさん!?」
「お、お嬢さん!?」
「何だって!?本当に俺と一緒に飲んでくれるのか!」
「はい!ただし、じょうけんがありますっ!」
「じょ、条件?何だそれは?金か?それなら幾らでも」
「いいえ!おかねではありません!私と一緒に飲む為の条件……それは、ここに居る九条さんを倒す事ですっ!!」
「「「…………………」」」
酔っぱらって呂律の回ってないルゥナさんの大声が……シーンと静まり返っていた斡旋所中に響き……わた……り………………へっ?
「「「「「「「う、うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」
「おいおい、聞いたかよ今の発言!」
「あぁ、女を掛けて喧嘩だ喧嘩!」
「ハッハッハ!こりゃ楽しくなってきやがったぜ!」
「なぁ、アンタはどっちに賭ける?」
「そんなもん決まってるだろ!あっちの図体のデカい奴だよ!お前さんは?」
「俺は黒髪のあんちゃんに賭けるぜ!きっと面白い試合をしてくれるはずだ!」
「ちょ、ちょちょまっ!」
「あ、貴女!いきなり何を言ってるんですか?!」
「九条さん、おうえんしていますからがんばってくだしゃいね!」
「いやいや応援されても困りますから!そうですよねお姉さん!」
「は、はい!私情による決闘は禁じられているんです!それなのに!」
「がっはっは!面白れぇじゃねぇか嬢ちゃん!それじゃあ俺が勝ったら、一緒に酒を飲んでもらうからな!」
「はいっ!まぁ、くじょうさんが負けるはずありませんけどね!」
「し、信頼してくれているのは嬉しいですけど今は嬉しくありません……!」
クソっ!どいつもこいつも勝手に盛り上がりやがって……!お姉さんの他に職員の方達がやって来てどうにか場を収めようとしているけど、冒険者連中も酒に飲まれているせいで変に熱が入っちまってるみたいだし……!
「あぁもう、どうしたら……あっ、所長!」
「おやおや、何やら盛り上がっているみたいですね。」
お姉さんに所長と呼ばれた立派な顎髭の生えたイケおじは、ニコニコ微笑みながらこっちまでやって来ると俺とおっさんを交互に見詰めてきた。
「え、えっと……貴方は?」
「初めまして、私はこのクエスト斡旋所の所長をしている者でございます。」
「しょ、所長さんっすか!丁度良かった、この騒ぎを急いで収めて欲しいっす!」
「なっ!ふざけた事を言ってんじゃねぇ!折角お嬢ちゃんが俺と飲んでくれる条件を出してくれたってのにそれを無駄にしやがるつもりか!」
「そもそも!あのお嬢ちゃんは酔っぱらってまともな判断が出来なくなっているし、私情の決闘は捕まる可能性があるんすよ!分かってるんすか!?」
「ハッ!捕まるのを恐れて美人と飲める機会を逃せるかってんだっ!所長さんだってそう思うだろ!」
「はっはっは、そう聞かれてしまうと困ってしまいますね。」
「いやいや!そこで困らないで下さいよ!お願いですからここは!」
「うーん……私としては、勝負の後始末をきちんとして下さるのでしたら多少の事は目を閉じていても構いませんよ。」
「しょ、所長!?」
「所長さん?!」
「はっはっは!話の分かる所長さんで助かったぜ!オイ、お前等!」
ガタイの良いおっさんが大声でそう叫んだ直後、周囲に居た冒険者達が使っていたテーブルや長椅子を端に避けて真ん中に丸い空間を作り上げやがった……!
「マ、マジかよ……」
「さぁ、喧嘩祭りといこうぜぇ兄さん!」
「ア、アニキ!本当にやるつもりなんですかい?!」
「おうよ!ここで逃げたら男じゃねぇから!アンタだってそう思うだろ!」
「う~~~~~………あぁちきしょう!分かったよ!やりゃいいんだろクソがっ!」
「お、お2人共!」
「くじょうさ~ん!がんばってくださぁ~い!」
「はいはい言われずとも頑張りますよっ!!お姉さん!すみませんけどしばらくの間ルゥナさんの事をお願いします!」
「は、はい!」
冒険者達の鳴らす口笛や野次を聞きながら両頬を思いっきり叩いた俺は、目の前に作られた円形状の空間で拳を握っているおっさんと向かい合った。
「がっはっは!悪いがお嬢さんと飲む為に少しばかり痛い目に遭ってもらうぜ!」
「そりゃこっちの台詞だっ!ルゥナさんは絶対に渡さねぇし、こんなふざけた流れを作った責任を取って貰うから覚悟しやがれ!」
「うんうん、冒険者とはこうでなくてはいけませんね。両名共、心の準備はよろしいでしょうか?」
「あぁ、何時でも良いぜ!」
「こっちも大丈夫です!」
「分かりました。勝っても負けても恨みっこなしで……それでは……始めっ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」
マホ、ロイド、ソフィ、お元気ですか?ファンとの旅行、楽しんでいますか?僕は今、遠く離れた旅行先で知らない人と喧嘩をおっぱじめあああああああああすっ!!
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