【完結】おっさんの異世界生活は無理がある。

第481話

　ちょっとしたイベントに遭遇する事となった休日が無事に終わって講師活動の後半初日、これまで得てきた知識を活かして授業を進めて来た俺は昼休みになった直後にとある人物から呼び出されて屋上にやって来ていた訳なんだが……

「オイ、呼び出された要件は分かってるよな？アッ？」

「あぁ……わ、分かってるよ……」

(うぅ……まさか人助けの後に待っていたのがこんなにも怖い展開だなんて思ってもいませんでしたよ……)

(そ、それは俺も同じだよ……！)

　あぁもう！とは言えこれ以上はどうやっても逃げられねぇよな！だってあの時点で既に正体が割れてんだもんさ！だから分かってた……分かってたけどやっぱり怖ぇ！

　ってか、胸倉を掴まれてフェンスに押し込まれるってどういう状況だよ！？本当にこの子だけ世界観が違い過ぎるんですけども！？

「だったら答えろ。あの時、どうしてオレの邪魔をした？もしかして俺に恩でも売るつもりだったのか？それとも脅しでも掛けてくるか？アァ？」

「い、いやいや！そんな事する訳ないだろ！つーか、お前に恩を売るつもりだったら紙袋で顔を隠さないで素顔のまま出て行くわ！」

「それならどうしてオレを助ける様な真似をしやがった！一体何が目的だ！」

「べ、別に大した目的はねぇよ！アレは自分の為にやっただけの事だ！」

「……自分の為？ハッ、正義感でも疼いたってのか？」

「そんなんじゃねぇよ！頼むから少しだけ落ち着けって！どうしてお前を助けたのかちゃんと話してやるから！」

「本当だろうな？もし嘘でも吐いたらその時は……」

「うぐっ！わ、分かってるよ！」

　突き飛ばす様にして何とか掴んでいた手を放してくれたヤン子は、俺の事を逃がすまいと殺気だった目つきで俺を睨みつけてきていた。

「……さぁ答えろ。どんな目的があってオレの邪魔をしやがった。」

「いや、だからさっきも言っただろ？アレは自分の為だってさ……こんな事を言うと冗談に思われるかもしれないが、俺には身の周りで起こる厄介事に巻き込まれやすい性質があるんだよ。だからそれを未然に防ぐ為にお前を助けたんだ。」

「ハァ？何だソレ？冗談ばっか言ってるとこの場で……！」

「ま、待て待て！本当の話なんだって！いや、実際にはそういった事が起こってないから信じられないのは分かるけど嘘は言ってない！」

「……それじゃあ何か？お前はそんな起こるかどうかも分からない可能性を潰す為にオレを助けたって言うのか？」

「そ、そうだ！」

「……意味分かんねぇ……」

「ま、まぁそうだよな……自分で言っててもおかしいと思うし……でも、それが理由だとしか言えないんだよ。」

　俺の説明を信じるべきなのかどうか眉をひそめながら悩む様な素振りを見せていたヤン子はおもむろにこっちを見て来ると、さっきよりも少しだけ冷静になったっぽい感じで視線をぶつけてきた。

「……もしテメェの話が本当だとするんだったら、そんなのオレを無視すりゃあ良いだけの話だろうが。」

「……そういう訳にもいかないんだよ。俺の周りに居る奴らは超が付く程のお人好しばっかりだからな。どうしたってお前を見捨てる事は出来ないんだよ。」

(えへへ、その中でも一番のお人好しはご主人様だと思いますけどね。)

(……やかましい。)

　マホとそんなやり取りをしていると、最初に会った威圧感がほとんど消えて毒気が少しだけ抜かれた様な自分の髪の毛をグシャグシャと掻き始めて……？

「チッ、何だよソレ……それならオレは……」

「……なぁ、もうすぐ昼休みも終わりが近いから１つだけ忠告して良いか？」

「アァ？忠告？何だよ、もうあんな事するなってか？」

「いや、別にそんな事を言うつもりは無い。ただ、喧嘩するんだったら場所を選んで誰にもバレない様にしろ。それときちんと正当防衛が言い訳出来る範囲でな。」

「……な、何を言ってんだ？」

「だから忠告だって言ってんだろ。折角こうして王立学園なんて良い所に通ってるんだから、ソレを無駄にしない様に行動した方が良い。あの時もう少し気を付けとけば何て後悔はするだけ無駄だからさ。」

「……チッ！テメェにそんな事を言われなくても分かってるよ！このクソがっ！」

「あっ、オイ！……行っちまっな……」

(はい……どうしましょうか？)

「……まぁ、とりあえず急いで昼飯でも食っちまうか。」

　ヤン子が走り去って行った扉の方を見ながら誰も居ない屋上のベンチに座り込んだ俺は、エルアとイリスとドクターが合作したという弁当を頂く事にするのだった。