第474話

 特に何事も無く王都に到着した俺達は大通りの途中でエルアやイリスと別れると、慣れない仕事をしたせいでズッシリと重くなった体を引きずる様にして寝泊まりしている家まで戻って行った。


 それからまぁ、昼飯とさっきのお茶会のせいで満腹状態の俺以外が晩飯を食べたり風呂に入ったりしてようやく落ち着いてきた頃……


「はぁ……初日にしてこれだけ濃いと、明日からがマジで不安になってくるな……」


「ふふっ、顔見知り全員と再会を果たしたからね。それに私達の話に興味を持って、色々と質問してくる後輩達も多くなりそうだ。」


「……疲れた……」


「ソフィさんがそんな事を言うなんて珍しいですね……はい、お紅茶ですよ。」


「……ありがとう。」


 珍しくソファーに寝っ転がっているソフィを横目に見ながら目の前に置かれているティーカップの中身に口を付けた俺は、静かにため息を零して座っていた背もたれに体を預けながらロイドと目を合わせた。


「こんな事を言うと無責任だと思われるだろうが、2人には先に謝っとくな。恐らく生徒からの質問攻めに関してはほとんどお前達に任せるしかない。ぶっちゃけ、俺の需要ってロイドやソフィに比べると無いに等しいからなぁ……」


「ふふっ、そんな事は無いと思うよ。現に今日だって色々と忙しかったんだろう。」


「あ~……確かにご主人様の場合は、量よりも質って感じがしますよねぇ……今日の濃さを表現するんなら……」


「うん、だから本当に大変な思いをするのは……ね?」


「ね?って……満面の笑みを浮かべながらサラッと不吉な事を言うんじゃねぇよ……否定したくても材料が揃い過ぎてるから何も言えねぇだろうが……」


 まぁ、遅かれ早かれこんな展開になるだろうなってのは薄々分かってたけどさ……どうせだったら前半戦の最終日とかにしてくれよって言いたくなってくるわ……


「ご主人様、とりあえず明日のお昼ご飯はどうしますか?お弁当、イリスさんは説得しておかずだけって話になってましたけど……」


「あぁ、問題はエルアだよなぁ……こっちの返答も聞かずに明日は僕がお弁当を用意してきますねって帰っちまったし……それを考えるとなぁ……どうしたもんか……」


「ふむ……九条さんはどうしてエルアがお弁当を作って来てくれると思う?」


「は?そんなの料理の腕が上がった事を確かめて欲しいからじゃないのか?だって、わざわざ家庭部なんて部活に入ってるぐらいだからな。知り合いの男に意見を聞いてみたいとかって感じなんじゃね?」


「……マホ、九条さんは大丈夫なのかい?」


「すみません……どうもそういった思考回路だけが主人公気質みたいでして……」


「なるほど、これは中々に苦労しそうだね。」


「はい……まぁ、こういう所がご主人様なんだって最近は思いますけどね。」


「ふふっ、それは言えてるかもしれないね。」


「……もしもーし、勝手に人の事で盛り上がらないでくれませんか?話が見えなくてどう反応したら良いのか分からないんですけど……」


 こっちを見ながら微笑み合ってる2人を見ながら訳も分からず首を傾げていると、ソファーに寝転がっていたソフィがほぼ目を閉じた状態で立ち上がった。


「……ねむい……」


「おっと、どうやらお姫様が限界を迎えてしまったみたいだね。」


「まぁ、今日ばっかりは仕方ないだろ……俺も明日に備えて体力を回復させときたいから、そろそろベッドに行くとしますかね。」


「はい、そうしましょうか。」


 何時もより少し早い時間帯にそれぞれの自室に戻って行った俺達は、襲い掛かってくる睡魔に抗う事もしないまま眠りに落ちて行くのだった。

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