第434話
数日前に行った展覧会で見た物を凄く似ている雪で造られたモンスターを何十体と蹴散らしながら迷路の様に入り組んだ廊下を進んでいた俺達は、上の階に続いている階段を探しながらその途中で目についた扉を当然の如くぶっ壊しまくっていた!
「オラァ!……チッ、この部屋じゃないみたいだな。よしっ、それじゃあ次だ!」
『それじゃあ次だ!じゃないわよこのバカっ!いい加減にアタシの城を破壊するのを止めなさいよねっ!?って言うか、普通に考えたらそんな所に居ない事ぐらい分かるはずでしょうが!』
「ハッ!もしかしたらって可能性がある以上はこの城にある全ての部屋を調べて回る必要があるんですぅ~!つーか、文句があるんだったらアリシアさんをさっさと返しやがれ!そうすりゃ大人しく帰ってやるよ!ハッハッハッハ!」
『キ、キィー!!アンタ、ほんとっ、絶対に許さないからね!』
「おうおう上等だよ!だったらなんだ?俺達を襲わせるモンスターをもっと増やしてみるか?まぁ、例えそんな事をしても一体残らずぶっ壊してやるけどな!」
『こ、このぉ……!良いわ、覚悟しなさい!アンタだけは徹底的にボコボコにして、アタシを舐めた事を後悔させてやるんだから!』
「あぁ、やれるもんならやってみやがれっ!こっちこそアリシアさんを奪い返したらお前がやった事を後悔させてやるからな!」
『ふんっ!アンタにそんな事が出来る訳がないでしょ!バーカバーカ!ベー!』
そんな捨て台詞と共にアイツの声が一切聞こえなくなったので、俺は短く息を吐き出すとクルッと皆の方に振り返ったんだが……
「……何だよ。」
「いやなに、お主達のやり取りがまるで子供の喧嘩みたいじゃなと思っていただけの話じゃよ。」
「うぐっ……まぁ、確かにそうかもしれんな……」
「ふふっ、九条さんにしては珍しく感情を爆発させていたね。」
「九条さん、どうかしたの?」
「……別にどうもしてねぇよ。それよりもほら、こんな所でグズグズしてないで早くアリシアさんが居る部屋に向かおうぜ。」
「そ、そうですね!しかし、アリシアさんが何処に居るのかはまだ見当も……」
「そんな不安そうにしなくても大丈夫だっての。こういう場合は最上階辺りに潜んで居るのがお決まりだからな。」
「おーっほっほっほ!城の主たる者ならばそうあるべきですものね!」
(まぁ、当然の流れですね。)
「はっはっは!うむ、それならば急いで最上階に向かうとするかのう!」
「あぁ、だがその前に……シアン、体力の方は大丈夫か?まだ動けるか?」
「は、はい!お姉様の為ならばまだまだ頑張れます!」
「よしっ、それじゃあ引き続き2人の傍を離れるんじゃないぞ。」
「分かりました!リリアさん、ライルさん、よろしくお願いします!」
「えぇ、お任せくださいませ!必ずやアリシアさんの元までお連れしますわ!」
「私も全力でシアンちゃんの事を護り抜きます!」
「おう、頼んだぞ。それじゃあ…………ん?何だ、この音は……」
「音?……ふむ、確かに聞こえてくるね。それに微かに揺れみたいなものも……」
ゴゴゴ……という地鳴りみたいな音が何処からともなく響いてきたのとほぼ同時に部屋全体が揺れ始めたので不思議に思って互いに顔を見合わせた俺達は、眉をひそめながら部屋を出て廊下に戻ったんだが………
「こ、これは……どういう事なんでしょうか?さっきまで居たモンスターが……」
「居なくなっていますわね……」
「レミ、聞いておきたいんだが……これはちょっとマズい状況になったか?」
「……ちょっとではなく、かなりマズイ状況になったんじゃろうな。」
(ご、ご主人様!音と揺れが少しずつ大きくなってきていますよ!?)
(……あぁ、言われなくても分かってるよ……!)
「み、皆さん!あっちの方から何かが来ます!!」
慌てた様子のシアンが廊下の奥にある曲がり角を指差しながら声を張り上げた次の瞬間、俺達の視界に飛び込んできたのは雪で造られたバカでかい龍の姿だった!?
「なるほどのう、アレを創造する為に力を使ったせいでモンスターが消えたのか。」
「いや、冷静に分析している場合じゃねぇだろ!?ぐっ、ロイド!悪いがレミの事を頼んだぞ!!」
「なっ!?待つんだ九条さん!」
ロイドが制止する声を無視して走り出した俺が少し進んだ先にあった十字路を勢いそのままに右方向へ飛び込む様にして曲がって行くと、雪龍も咆哮をあげながら後を追いかけて来やがった!
(九条さん!聞こえているか!無事なら返事をしてくれ!)
(あぁ!そんなに大声で叫ばなくても聞こえているよ!それよりもロイド、ソフィ!コイツは俺が引き付けておくからお前達は先に進んでおけ!)
(な、何を言ってるんだ!?そんな事、出来るはずが無いだろ!)
(九条さんを置いていけない……!)
(良いから行け!他のモンスターに邪魔されないこの機会を逃すんじゃねぇ!そんでさっさとアイツを見つけ出してコイツをどうにかしてくれ!)
(いや、しかし!)
(俺の事なら心配すんな!お前達が最上階に辿り着いたら俺も必ず追いつく!ってかシアンも居るのにこんな奴に追われてたら体力が持たねぇだろ!だから早く行け!)
(くっ!その言葉、嘘だったら承知しないからね!)
(……待ってる!)
(あぁ!分かってるよ!)
「……なーんて、格好付けたのはいいんだが……うおっと!?ふざけんじゃねぇよ!図体がデカい癖にどんだけ素早いだよコイツは?!」
(ご主人様!!泣き言はいいですから走って下さい!もう復活しちゃっていますよ!)
「ひ、ひいいいぃぃぃ!!!」
壁にぶつかって粉々になった雪龍がほんの数秒で元に戻り始めているのを目にした俺は、情けない叫び声を上げながら猛ダッシュで廊下を駆けて行った!
『あっはっはっは!ほらほら!もっと頑張って走らないとそのままパクっと食べられちゃうわよ!』
「こ、こんにゃろう!やい!これが神様のする事なのか!?少しぐらい恥ずかしとは思わないのか!」
『……ふーん……アンタ、やっぱりアタシが神だって事に気付いてたのね。』
「当たり前だろうが!ここまでの芸当を人間如きに出来るはずねぇだろ!?」
『ハッ!そこまで理解してるんならさっさと逃げ帰りなさいよ!今だったら痛い目に遭わなくて済むかもしれないわよ!』
「笑わせんじゃねぇ!誰が帰るかってんだ!そっちこそ俺達に見つかる前に何処かへ逃げた方が良いんじゃねぇのかっとと!?」
(だ、大丈夫ですかご主人様!?)
(な、何とかな……!そういやロイド、そっちは今どんな状況だ!?)
(九条さんか!こっちは1階の北東にある階段を上がった所だ!)
(分かった!それじゃあお前達が3階に上がった時点でそっちに向かう!)
(了解した!九条さん、どうか気を付けて!)
(すぐに次の階段を見つける……!)
(あぁ、頼んだぞ!)
『ほらほら!何を考えこんでいるのか知らないけど、ボーっとしてたらアタシの龍にゴクンと飲み込まれちゃうわよ!』
「ぐっ!」
マズいな……!皆が最上階への道を見つけるまでどうにかしてコイツを引き付けておかないといけないんだが……このままだったらマジで食われて終わっちまうぞ!?
(ご主人様!これから一体どうするつもりなんですか?!)
(どうするもこうするも……こうなったら、やる事は1つしか無いだろうがよっと!)
雪龍から逃げ回っている途中で探索中にぶっ壊した扉を見つけた俺は、地面を蹴り飛ばすと転がる様にして部屋の中に入って行った!
『バーカ!部屋の中に逃げ込んだって無駄に決まってるじゃない!覚悟しなさい!!すぐにアタシの龍をその中に突っ込ませてあげるから!』
「バカはお前だ!こんな逃げ場のない所に誰が避難するかっての!オラァ!」
『ハ、ハァ!?』
(ご、ご主人様!)
「うっ、ぐぅ!!」
掛け声と共に気合を入れて目の前を通り過ぎて行こうとしていた雪龍の胴体の中に両手を突っ込んでガシッとしがみ付いた俺は、全身を壁や天井に打ち付けながら振り落とされない様に歯を食いしばって必死に耐えまくっていた!
『な、何を考えてんのよアンタは!?早く手を離しなさい!そのままだったら大怪我しちゃうかもしれないじゃない!』
「は、はははっ……!お前が心配してくれるっ……とは……驚きだなっ!」
(な、何を笑っているんですかご主人様!こ、このままじゃ本当に……!)
(あ、安心しろマホ!これで……俺の勝ちだ!)
ニヤリと笑いながらありったけの魔力を両腕に集めた……次の瞬間、雪龍の全身を輪切りにする様に魔方陣を大量に出現させてやった!
『は、えっ!?ちょ、ま、まさかアンタ!?ま、待ちなさ』
「バカめ!もう遅いわ!さぁ、一気に燃え尽きやがれっ!!」
そう叫んで突っ込んでいた手を引き抜いて体が空中に投げ出されたその直後の事、魔方陣から圧縮した炎の塊が放たれていき雪龍の頭部から尾に掛けて連続して爆発をしていった!
「ぐべらっ!?」
(ご、ご主人様!!)
空中で身動きが取れなかった俺は襲い掛かって来た爆風をもろに食らってしまい、背中から落下するとそのまま転がる様にして吹っ飛ばされていった……!
「いっつぅ……!あー……やっぱコレは無茶だったかなぁ……」
(九条さん!何やら爆発音みたいなものが聞こえてきたが大丈夫かい?!)
(あいよー……大丈夫、大丈夫……それより龍は何とか退治したぞ……そっちの方はどんな感じだ……)
(あ、あぁ……こっちは南東にある階段を上がって3階に来た所だ。そして幸いにも真っすぐ行った先に最上階へと続いている階段を見つけたよ。)
(そうか……よくやった……そんじゃあ俺も行くから、ちょっと待っててくれ……)
(わ、分かった……九条さん、本当に大丈夫なのかい?)
(おう……それじゃあ、また後でな……)
冷たい廊下で大の字になりながらロイドとの会話を終わらせると、スマホの中からマホが飛び出して来て心配そうに……いや、呆れた表情で俺の顔を覗き込んで来た。
「はぁ……ご主人様、心配するこっちの身にもなって下さいよね。」
「ははは……悪い………よっこいせと………うわぁ……こりゃまた酷いな……」
体を起こしてさっきまで雪龍が飛んでいた方へと視線を向けてみると……そこにはものの見事に温まった水と、ボロボロになってしまった壁と天井があって……
「コレ……後で文句を言われても仕方がありませんよ。」
「……まぁ、そういうのは後で考えるとしよう。ほら、スマホに戻れ。皆が待ってる最上階に向かうぞ。」
「……はーい、分かりましたよ。」
スマホの中に戻って行ったマホと逃げ出す様にその場を後にした俺達だったが……どういう訳なのか分からないが、アイツが文句を言う声は最上階に辿り着くまで一切聞こえてはこなかった。
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