第432話

 臨戦態勢で前方を滑っているロイドとソフィにルートを案内しながら城のある場所まで戻って来た俺は、スノードから両足を離して真っ二つに折れた木の近くに置くと右腕に抱えていたレミを降ろすと周囲を警戒しながらゴーレムに近寄って行った。


「オイ!姿を見せろ!言われた通りにレミを連れて来てやったぞ!」


「何処の誰だかは知らぬがわしに用があるのじゃろう!それならば、アリシアの事は返してはくれんかのう!」


 2人して大声でそう呼び掛けてからしばらくすると、ゴーレムの背後に見えていた扉が重々しい音を立てながらゆっくりと開き始めてその奥の方からアイツが外に出て来やがった。


「ふっ!」


 その次の瞬間、短い掛け声を出して上空に飛び上がったアイツはゴーレムの頭上に着地をするとキッと目を吊り上げて俺達……いや、レミの事を見下ろしてきた……?


「ふむ、お主がアリシアを誘拐した犯人じゃな?」


「ちょっと、人聞きの悪い事を言わないでくれる?誘拐したんじゃなくて、私の城に招待してあげたってだけの話よ。」


「おや、そうなのかい?しかし、本人の了承も得ずにそんな事をすれば誘拐したのと変わらないと思うけれどね。」


「お願い致します!お姉様を、お姉様を返して下さい!」


「ふんっ、そんな必死に頼まれなくたって傷1つ付けずに帰してあげるわよ。そんな事よりも………!」


 怒り……なのかどうか分からないが、それらしい感情を出したアイツは人差し指をビシッと差しながらレミに鋭い視線を突き刺しだした。


「クアウォート守護神!よくまぁアタシの前に姿を現せたものね!その神経の図太さには恐れ入ったわ!褒めてあげる!」


「……何を言っておるんじゃ?お主がわしを呼び出したんじゃろ?」


「えぇそうよ!その通りよ!だからこそ感心しているんじゃない!アンタがアタシの前にノコノコやって来た事にねっ!」


 分かりやすいぐらいブチ切れているアイツの言葉を聞いていたレミは……唸り声をあげながら首を傾げると眉をひそめながら困った様な表情を浮かべこっちを見てた。


「……のう九条、あやつはさっきから何を言うておるんじゃ?」


「いや、そんなん俺が分かるはずねぇだろ……つーかあの感じだと、アイツはお前の知り合いなんじゃねぇのかよ。」


「わしの?ふむ……んー………?」


 腕を組んだレミが眉間にしわを寄せて更に唸り声をあげると……ゴーレムの頭上に居るアイツの顔がどんどん険しくなってきて……


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……もしかして、アンタ……アタシの事を……覚えてないって言うんじゃないでしょうね……?」


「………………すまん、お主は一体誰なんじゃ?」


 あっ、終わった……そう直感した瞬間、アイツは表情を一変させて恐ろしいぐらいとびっきり明るい笑顔を浮かべると………


「ふふ……ふふふ……ふふふふふ……そうなの……アタシをあんな目に遭わせた上に約束まで破っておいて……そうなんだ、忘れてたのね……なるほど……ふふふ……」


「あんな目?約束?はて……それをしたのは何時頃じゃったかのう。もし良かったら教えてくれぬ」


「ざっけんじゃないわよ!!!!!!!」


「っ!?逃げろ!!」


「きゃあ!」


 アイツの木々を揺らす程の大絶叫が雪山に響き渡ったその直後、ゴーレムが巨大な拳を振り下ろす動作が見えたので俺達は瞬時に後ろに飛び下がっていった!


「皆、大丈夫か!」


「問題ない!彼女は!」


「扉の向こうに居ますわ!」


 リリアさんの声に反応して顔を上げた俺達の視界には、何時の間にか城の中に移動していた奴の姿が!


「あったまきた!こうなったらアンタがアタシの事を思い出すまであの子は預かっておくからね!それじゃあ!」


「そ、そんな!お姉様っ!」


「ロイド!ソフィ!」


「分かっている!」


「了解!」


 両足に魔力を込めて一気に走り始めた俺達は扉の前に立ち塞がっているゴーレムの頭、体、脚に魔法をぶち当てて全身を城の方へ吹っ飛ばしてやった!


「くうっ!」


 そして目論見通りにゴーレムの体を閉めかかっていた扉の間に挟む事が出来たのを目にした俺達は、勢いそのままに城の中へ足を踏み入れてくのだった!

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