第428話

 ノルウィンドに来てから早数日、温泉、買い食い、クエストとそれなりに充実した時間を過ごしてきた俺達はトリアルに向かう為の馬車が出る2日前にアリシアさんとシアンを誘って再びスキー場へやって来ていた。


「よしっ、分かっているとは思うが今日がこの街で遊べる最期の日だ。全員、悔いの無い様に全力で過ごすんだぞ。」


「はい!全力で遊び倒します!」


「はっはっは、お主に言われるまでも無いわ。」


「ロイド、私と勝負して。」


「あぁ、喜んで受けて立つよ。」


「おーっほっほっほ!私、白銀の世界で華麗に舞い踊ってみせますわ!」


「え、えっと……とりあえず、頑張ってみます。」


 俺の言葉にそれぞれが反応を見せる中、アリシアさんが困った様な表情を浮かべてこっちを見ながら小さく手を上げてきた。


「あの……もう一度お尋ねしますが、本当に私達もご一緒してもよろしいのですか?本日は皆さんがノルウィンドで遊ぶ最終日だと言うのに……」


「ふふっ、だからこそアリシアさんやシアンと共に過ごしたいと思ったんだよ。」


「ロイドさんの言う通りです!私達と一緒に楽しい思い出を作りましょう!」


「お姉様、ここでご遠慮なさる方が失礼だと思いますよ。」


「……それもそうね。申し訳ありません、今日はよろしくお願い致しますね。」


「あぁ、よろしくな。それじゃあまずは……慣らし程度に初級コースを適当に滑るとしますかね。」


「えぇ、そうですわね!アリシアさん、大丈夫ですか?」


「も、勿論です!アレから私も練習を重ねましたから、初級コースぐらい簡単です!あんまり私を舐めない事ですね!」


「おーっほっほっほ!それでしたら、後で私と勝負でも致しますか?」


「か、構いませんよ!た、ただロイドさんとソフィさんも勝負をするみたいですのでその後でという事になりますが……よ、よろしいですね!」


「はい、私もロイド様のご勇姿をこの目に焼き付けなければいけませんので!」


「そ、それでは勝負は2人の後でという事で………」


「……九条、アリシアが泣きそうな目でお主を見つめておるぞ。」


「九条さん、お姉様へのご指導よろしくお願い致します。」


「おじさん!頑張って下さいね!」


「……まぁ、こんな展開になるだろうなとは思ってたよ……」


 ったく、やっぱりライバル関係ってこの2人の事を言うんじゃねぇのか?つーか、どうして俺がそこに巻き込まれるんだか……こりゃ色々と苦労しそうだなぁ……


 そんな事を考えながら1時間、2時間と過ごしていって昼食時までもう少しという時刻を迎えた頃、俺はアリシアさんと共に初級コースの出発地点である山頂に立ってスノードで加速と減速を行うコツみたいなものをレクチャーしていた。


「あぅ、とと……うーん、やっぱり魔力の加減が難しいですね……これは製品として改良を加えるべき案件かもしれません……!」


「いや、その気持ちは分からんでもないけど……上手く扱えないのはアリシアさんの魔力コントロールが極端すぎるせいな気もするぞ?」


「はうっ!………そ、そうですよね……はい……すみません……」


「あ、謝んなくて良いって!それにほら、さっきよりかは上達してきてるんだしさ!この調子でいけばすぐにどうにかなるって!なっ!」


「……ありがとうございます……もう少し頑張ってみま……あら?」


「ん?……アレ、急に曇ってきたな……」


「はい、それに風も……」


 さっきまで快晴だったのに急に空が曇り出して来て思わず眉をしかめていると……今度は冷たい風が吹いてきて白い雪がぽつぽつと降り始めてきた。


「……コレ、もしかしたらこの間と同じで軽い吹雪になっちまうかもな。」


「そうですね……九条さん、皆さんと合流して下の方に向かいませんか?」


「あぁ、そうした方が良いかも…………」


「九条さん?どうかなさったんですか?彼方あちらの方に何か……あっ!」


「…………」


 小首を傾げながら振り返って驚きの声をあげたアリシアさんと見つめていた視線の先には、雪も積もった白い木々が生い茂る山の中に駆けていく少女の姿が……


「九条さん!急いであの子の後を追いかけないと!このまま吹雪になったりしたら、遭難してしまうかもしれません!」


「……アリシアさん、先に皆の所に戻っといてくれ。俺はスノードに乗ってあの子を連れ戻して来るよ。」


「そんな!私も一緒に行きます!」


「いや、ここは俺1人で良い。大丈夫、遭難なんてしたりしないからさ。」


「いえ、でも!」


「ほら、行った行った!」


「う、うぅ……わ、私達は休憩所で待っていますから必ず戻って下さいね!」


「ははっ、分かってるよ。それじゃあまた後でな。」


「お、お気を付けて!」


 不安そうな表情をしているアリシアさんにフラグになりそうな台詞を言われながらスノードに魔力を流して滑り出した俺は、嫌な予感がしながら山の中に消えていった少女の後を追いかけて行くのだった。

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