第416話

 生まれてから初めて温泉をはしごするという経験をしていると何時の間にか夕暮れ時になっていたので近場にあった飲食店で晩飯を済ませた俺達は、大通りに集まって解散をする前に軽い雑談を交わしていた。


「あー……温泉ってマジ凄いな……体が熱くてたまらん……」


「そうですねぇ……それに何だか眠たくなってきました………ふぁ~………」


「ふふっ、大きなあくびだね。」


「あはは、これだけ体がぽかぽかしていたら仕方ありませんよ。」


「うむ、そんな訳じゃから九条よ。もしもの時は頼んだぞ。」


「頼んだぞって……こっちだってお前達と似た様な状態なんだから、宿屋に戻るまで頑張ってくれよ……まぁ、シアンの方はもう夢の世界に旅立ったみたいだがな……」


「はい、ついさっき限界を迎えてしまったみたいで……」


 アリシアさんは自分の背中でぐっすりと眠っているシアンの事を困った様な表情を浮かべながら見つめると、静かに体を揺らして優しく背負い直してあげていた。


「……それじゃあ、そろそろ解散する?」


「えぇ、私もそうした方が良いと思います。シアンさんに風邪を引かれてしまっては困りますし、体力の無いアリシアさんが動けなくなってもいけませんものね。」


「……気を遣って下さってありがとうございます。ですが、学生時代とは違って私もきちんと運動して体力を付けていますから心配ご無用です。」


「あ、あはは……そ、そう言えばアリシアさん、ずっと聞こうと思っていたんですがラウザさんはこの街でどういったお仕事をなさっているんですか?」


 2人の間に火花が散り始めたのを察知したライルさんが慌てた様子でそう聞くと、アリシアさんはしばらくした後にため息を零してこっちを見てきた。


「ふぅ……そうですね。取り扱っているお仕事の内容としましては、クアウォートの時と似た感じの物ですよ。」


「おや、という事は……この街で利用が出来る物と言う事かい?」


「えぇ、より具体的に言うならば街の奥にある雪山で……ですけれどね。」


「……ソレって楽しい?」


「一応、ご利用をして頂いたお客様からは好評を貰っていますよ。」


「そうなんだ……九条さん。」


「はいはい、言われなくても分かってるよ……アリシアさん、都合が良ければ明日にでもソレを利用してみたいんだけど大丈夫か?それとラウザさんとシャーリーさんにご挨拶もしておきたいんだが……」


「……申し訳ありません。そう言って頂けるのは嬉しいんですが、明日は商談相手の方々へご挨拶に行かなくてはなりませんので……なので2日後でしたら何とか……」


「分かった、それじゃあ2日後に寄らせてもらうよ。悪いんだけど、店が何処ら辺にあるのか教えて貰っても良いか?」


「はい、勿論です。」


 こうして2日後の予定を決めてアリシアさん達と別れた俺達は、心地よい疲労感でぶっ倒れてしまう前に宿屋へと戻って行くのだった。

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